あの人は「言わないって、大事よ」と言った。 私たちの秘密のお話

 

 

「言わないって大事よ」。多分、何かの番組を見ていた時だと思う。その中の出演者の一人が、言い放った言葉がとても印象に残った。一瞬、心にグサッと突き刺さる。でも、その一方で思うのだ。「ああ、そうだな。大人ならば、心得ていなければいけない」と。

 

このところ、何を言って、何を言わないか、ということを折りに触れて、考えさせられることが、よくある。

 

今年の全日本フィギュア、世界選手権代表選考記者会見を見ていた時だった。ある選手が、「選考基準が良く分からない。あまり、嬉しくないけど…」と、言葉にしてしまったのだ。

一瞬、その場が凍り付いた。見ているこちら側も、ひんやりするものを感じた。

恐らく、その選手には、悪気はなかったのだ。恩師に対する思い、同門の同志に対する思い、その一心が、口をついて出てきてしまった。そういう風に思えた。

けれども、代表として選ばれたからには、彼は周りをよく見る必要があったのだ。初めて、代表に選ばれて、一緒に戦う選手たちが、すぐそばにいる。そのような場にあって、自分の強い想いだけを言葉にしてしまうのは、多くの人への配慮に欠けると言われてしまっても、仕方がなかった。「言わないって、大事よ」その言葉が、私の頭に、強く繰り返されていった。

 

私たちは、いつもどこかで、試されている、と感じる。何を言って、何を言わないかを。多くの人に届く言葉を選んで発言出来ているかを。時に、ふつふつ、と心の中に沸き上がる欲望や、ネガティブな思い。それらをねじ伏せて、説得力という刃を身に着けて、言葉は、ようやく人の心に届くことを学んでいく。

 

そうやって考えると、人の心には、「言わない」秘密がどのくらいあるのだろう。

私も、大人になって大分経つ。その間に、「これは墓場まで持っていこう」と、心に決めた思いの一つや二つは確実に存在している。

無邪気に自分の思っている言葉をダイレクトに伝えられていたのは、もう、昔のこと。

 

同時に、秘密を抱え続けているのも、なかなか、しんどいことではある。口にしてしまえば、関係性が粉々になっていくのは間違いない。けれど、心にじっとりと、黒いものが「ある」ことを感じるたびに、罪悪感が自分の中に漂うのだ。

私たちの秘密、エゴ、欲望、後悔が、いつか、浄化されていくために、みんな、じっと耐えて「今」があるのかもしれない。

 

秘密について、考えている内に、気になる曲を見つけた。

 

One Republicで「Secrets」。

youtu.be

 

絶頂期を過ぎたアーティストがやけになって全部、暴露してしまおうとする内容。

きっと、いろいろ、辛いことがあって、うまくいかないことが重なった果ての境地なのかな?と思うが、やはり、この荒れた心持ちと、そこまで追い詰められていってしまう人の悲哀をそこはかとなく感じる。

こういう状態で、自分だったら、どうするかな? 暴露してしまえば、お金が舞い込む状況なのかもしれないけど…

 

やっぱり、私の中には、「言わないって、大事よ」という言葉が頭の中に浮かんでしまうのだ。飲みこんだ言葉の分だけ、人に対する思いやりや配慮が見についていくような気がするから。

 

秘密の歌についてもう一曲。自分の心にフィットする曲を見つけた。

宇多田ヒカルで「Can You Keep A secret?」

youtu.be

 

秘密に振り回されて、もがきながらも、相手を思う気持ちから問いかける「Can You Keep A secret?」。一瞬、自分が試されているみたいだな、と感じる。

 

何を言って、何を言わないか、そのバランスがもう少しうまくつかめるように、もっと成長していけるように。新年に期待を込めてみる。ヒントをくれた番組のあの人に、感謝の気持ちを抱えている、今日、この頃なのだ。