This show was tasty. 結弦くんが私たちに語りかけるもの Fantasy on Ice2022

とにかく、すごいものを見た。一瞬私は、夢を見ていたのか?

いや、違う。そのショーは現実にあったことなのだ。あまりにあっという間に彼は、氷上を滑りぬけて行った。その感動を、今、私は書き留める。自分の備忘録のために。

Fantasy on Ice 2022 静岡公演が先ほど行われた。

 

羽生結弦くん。あなたは最初のオープニングから、今までとは違う何かを漂わせていた。オープニング宮川大聖さんによる「略奪」。氷上はお洒落なバーにいるような雰囲気。少し、煽情的な振付の中、今までにない妖艶なムードの結弦くん。以前、彼は記者からの質問で「自分をアイスクリームに例えたら、どんなフレーバーか?」と問われたことがある。その時彼は、「ポッピングシャワーかな。一見、甘く見えるかもしれないけれど、口の中に入れたらぱちぱちと勢いよく弾けだす」と、答えていた。

なるほど、口当たりは確かに何かがはじけるような刺激があった。繰り出されるジャンプも勢いを感じた。しかし、その口当たりは、アイスクリームよりも、もっと大人の味わい、そう、よく冷えたシャンパンのような、まろやかさが刺激を包み込むような風味だ。

そして、あなたが演じた「レゾン」。ネット上では「セクシー」や「背徳的」という評判が高かった。しかし、実際に目にしたときに、私が感じたのは、「激しく痛切な心の叫び」と「狂気」だった。短い時間の合間に微妙に凝った動きが随所に詰め込まれていて、瞬き禁止。ありったけの熱情とひたむきさ。何か失って、その先に何か手にしたような。思えば、北京オリンピックで思うような結果につながらずにいた彼。きっと、終わった後に、喪失感もあったことだろう。しかしその一方で彼は「幸せです」とインタビューで答えていた。転倒こそあれ、認定された4回転アクセル。彼にしかできない感動は世界を包み込んだ。その道を究めた選手にしか到達できない境地に彼は到達できたのかもしれない。そのような経緯を経ての、このレゾン。終わった後に、感動と同時に私はなぜか、涙がこみあげてきた。

 

そして、アンコールには、ゲストアーティスト NAOTOさんと新妻聖子さんによる「ノートル・ダム・ドパリ」。これは、ウィルソンの振付による、以前、結弦くんが、少し苦戦していたプログラムだった。「エスメラルダとカジモドを一人で両方演じると言われても、俺、分かんねーし」と、当時答えていた結弦くん。時を経て、表された表現は、磨き抜かれた狂気と情感。きっと、あの頃は、はまらなかった表現も、様々なプログラムを滑ることによって、パズルのピースがはまるように、自分のものになっていったのだな。更なる感動が氷上からあふれ出していった。結弦くん、今回のプログラム、あなたは、年代物の豊潤なワインのように表現が熟成されていた。その一杯に汗と涙、苦悩の果ての笑顔を感じる。

 

いつも全力の結弦くんが、更に上を行く全力で私たちに見せてくれた至高の演技。幸せな気持ちになったし、普段抱えている不安や苦悩を、一瞬忘れることができたよ。

貴方に必要なのは、「金」というより、「プラチナ」かもしれない。

この幸せに、しばらく浸っていよう。また、新たなシーズン、貴方を応援するために。