Life is a journey スケートで世界を回る Stars on Ice ジャパンツアー 2022について

 

 

フィギュアスケートもシーズンオフを迎え、4月からはアイスショーの話題がタイムライン上に上がってくるようになりました。その先陣を切って開催されたのは、Stars on Iceジャパンツアー2022。毎回、アイスショーを通して深いテーマが設けられているのですが、今回のテーマは「Journey(旅)」です。振付を行ったのは、ジェフリーバトル。果たして、スケートを通して、私たちはどんな世界を旅することになるのでしょうか。今回は東京公演の最終日の模様を、ところどころ、印象に残った部分でお届けしたいと思います。

 

まず冒頭、グループナンバー 「The weekend メドレー」。

昨今の洋楽ヒットシーンに欠かせない存在のThe weekendナンバーから、旅は始まります。色とりどりの衣装を着て現れたメンバーたち。ビートの効いたリズムの中で、徐々に熱が高まっていく予感を感じさせます。音楽の波を泳ぐように滑りぬけていくと、そこに見えるのは、ぶつかり合ったりして波が大きくなっていくフォーメーション。旅立ちと若々しさが随所に垣間見えました。

 

トップバッターを飾るスケーターは北京オリンピック代表の河辺愛菜選手で「ファイヤーダンス」。清潔感のある妖艶さが際立つプログラム。そこから繰り出す3ルッツ、鮮やかです。旅先で出会った、刺激的な踊り子のよう。基礎のしっかりしたテクニックで観客を沸かせました。

 

引退を表明した田中刑事選手が披露したのは、ジャズのナンバー。欧米のお洒落な街並みに誘われるような演技でした。

 

かなだいこと、村元哉中高橋大輔組は力いっぱい「ソーラン節」を演じました。その演技は、日本の漁港に船が迷い込んでいるかのようなハイライト。

 

続いて、見せ場を作ったのは、友野一希選手「Daft Pankメドレー」。非常にキレのあるロボットダンス。近未来の都市に現れたロボットのよう。音はめばっちり。トリプルアクセルもダイナミックに決めて、全身からビートを感じ取って滑りぬけます。高揚感が伝わってくる演技でした。

 

スピード感のあるジャンプが持ち味の樋口新葉選手。「Bird Set Free」は試合でも披露されたナンバー。自由に空を飛び回る鳥の軽やかさをスケートで表現してくれました。スピードと情感を自由に司る姿は圧巻。

 

個性的なプログラムを披露したのは、アメリカのヴィンセント・ジョウ選手。演目は「Lonely」。不死鳥がゆっくりと空を羽ばたいていくイメージ。彼のラインの美しさを随所に感じられました。以前よりも、ジャンプ前後の所作がナチュラルになった気がします。孤独から解き放たれて大空へ向かう、そんな旅の光景がそこにありました。

 

ピンクのコスチュームが華やかだったのは、紀平梨花選手。シーズン全休した彼女は、再び氷上に戻ってきてくれました。貴族の舞踏会のお姫様のような紀平選手。流れるスケーティングは上品で贅沢な気分にさせてくれました。

 

前半の最後はグループナンバー 「カイト」。全員が白い衣装で優雅なスケーティングを披露。まるで大海に白い帆を広げる船出のよう。希望や夢を運ぶように観客とコネクトしていました。

 

後半もグループナンバーからの幕開け。「What a wonderful world」。

ブルーの衣装で、バラードの繊細な音を拾って滑るスケーターたち。まるで、夜明けの航海を表しているようです。ここから新天地を目指すのでしょうか

 

韓国のチャ・ジュンファン選手が披露したのはKpopの曲? 一蹴り一蹴りがよく伸び、手をゆったり広げただけで人の心に何かを残します。ジュンファンの中の無垢なイメージが客席にひろがっていきました。

 

力強いボーカル曲を披露してくれたのは三原舞依選手で「Never enough」。何かを追い求めるようなそんなプログラム。ふわりと軽いジャンプを次々にきめていきます。滑る喜びを内側から放出している演技には心を打たれました。

 

グループナンバーで大活躍だった島田高志郎選手が選んだのは「チャップリンメドレー」。

スケーティングが綺麗で華がある高志郎君。雰囲気作りがとても上手な選手です。一瞬にして、モノクロムービーの世界に観客を誘います。演技力がすごいとおもいました。終わりのお辞儀まで、チャップリンになり切っていたのも印象的。

 

アメリカのマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組はエレガントなプログラムで沸かせました。「I hear a symphony」。 こちらもまた、ラブストーリーの映画を見ているみたい。難しいリフトのポジションチェンジがすばらしく。ドラマのハイライトのようにくっきりと心に刻まれました。

 

今季、オリンピックに、世界選手権に大活躍だったのは、鍵山優真選手で「君ほほ笑めば」

。4トウループ、ナイストライ。アイスショーでも4回転に挑んだのは、おそらく、鍵山くんだけでした。ジャズのお洒落なプログラムの中にも強気な部分をにじませます。スケーティングものびがあって、華やか。体幹とリズム感がずばぬけているので、あっという間にプログラムが終わってしまう気がしました。

 

惜しまれつつ引退を発表した宮原知子選手は「悲しみの聖母は旅立ちぬ」という重厚な演技で観客に別れのご挨拶。ゆったりと体を音楽に預けて、音と呼応するかのようなスケーティング。もう、試合で見ることが出来ないのは寂しいですね。

 

旅の終わりは、アメリカのネイサン・チェン選手。ロケットで宇宙を旅するロケットマンに行きつきます。今季の裏テーマは「宇宙」なのではないかと個人的に考えていました。前半は旅人の哀愁を、後半はエンターテイメント性を発揮するプログラムで、ショーを締めくくりました。

 

最後のグループナンバーは「エルトン・ジョンメドレー」。

攻撃的なロックのパートで、熱狂はヒートアップ。バラードパートで旅の終わりを感じさせます。リズムが再び盛り上がる時に、私たちは気づきます。新しい旅が、また始まるということに。

 

フィナーレまであっという間。コンセプトがはっきりとしていて、ちりばめられた演技の数々に理由があると感じさせてくれたアイスショーでした。

スケーターたちはスケートシーズン中に各国を旅します。あらゆる旅先で私たちはスケーターたちの演技から、かれらの人生に触れたような気持ちになりました。シーズンオフ、彼らは自らの翼を休めながら、また新しい旅へ準備を始めているのです。

夏が始まるころには、また、素晴らしいアイスショーが目白押し。更なるスケーターたちの旅を、客席から感じ取っていきたいと思います。