天の川を滑って渡る ドリームオンアイス2021のこと

 

 

ずっと楽しみにしていたアイスショー「Dreams on Ice 2021」が今年も開催されました。

シーズンオフにアイスショーを楽しむのは、スケオタにとっては、風物詩となっていますが、このコロナ禍、なかなか思うようにスケート観戦をできないと思っていました。

それでも今年、感染症対策を万全に開催がきまったとき、私たちの心に希望の光がつながった気がして嬉しかったです。出演者及び関係者の皆さんにただただ感謝の気持ちが広がっていきました。

今回は、DOI 2021を観戦し、感じたことを綴っていきたいと思います。

 

オープニング、ブルーの暗転の中、星をかたどるライティングがあちこちに浮かび上がった時、「まるで、天の川を見ているみたいだな」と感じました。時は七夕の頃。スケーターが冒頭、ジャンプやスパイラルを披露した時に、天の川を滑って渡る織姫や彦星たちみたいで、幻想的な光景。風流を大事にする日本開催ならではの演出を感じましたね。

 

前半印象的だったスケーターたちをご紹介していきます。

 

まず、今季シニアデビューの三宅星南選手。特に心に残ったのは、2日目の「白鳥の湖」でした。クラシックの王子様の衣装に身を包みながら、魔王と王子様の二面性を演じるこのプログラム。ジャンプに軽さと高さが増し、迫力のある雰囲気を全体的に醸し出していました。クラシックの重厚さが星南くんにとてもよく合っていたと思います。

 

成長著しい三浦佳生選手が披露したビバルディの四季から「冬」。毎回ダイナミックなジャンプをきめてくれる佳生くん。まるでスパークリングのカクテルみたいに、とてもはじけていました。今回、ビバルディの繊細な旋律の中でも、4回転ジャンプやトリプルアクセルを豪快かつクリーンに着氷したのは、2日目の夜の部。ビバルディの四季は、後半、疾走感のある音楽ですが、ステップもキレを感じ、とてもいきいきしていました。シーズンと共に、ビバルディをどう自分の色に染めていくのか、期待大です。

 

まだ、あどけなさの残る雰囲気の中、しっとりとした「月光」を披露してくれたのは、松生理乃選手。彼女のスケーティングはとてもしなやかでなめらか。更に、指先の動きまでとても細やかに魅せることのできるところが素晴らしかったです。基本のスケーティングがしっかりしているからこそ、上半身の動きにも気を配ることができるのだと思いました。それって本当にすごいことですよね。これからが楽しみなスケーターとして、印象に残りました。

 

浪速のエンターテイナー、友野一希選手が今年披露するのは、「Lalaland」と「ニューシネマパラダイス」、少し、ジャンプに苦労していたけれど、ステップワークやスピン等、途切れることがなく、つなぎが自然に感じられたのが印象的でした。スケートを通して、本当に映画を見ているような情感が感じられ、浪速の「エンターテイナー」から「ストーリーテラー」へと成長している姿がとても感慨深かったです。

 

後半グループも、織姫と彦星たちの熱演が続きます。

 

三浦佳生選手と同じビバルディの曲から「夏」を選択したのは、佐藤駿選手。同じビバルディでも、駿くんが演じるビバルディはとても爽やかな風を感じました。ひとつひとつの技術に丁寧に向き合う姿勢がそう感じさせたのかもしれません。チェンジエッジからのトリプルアクセルに何度もトライしていました。難しい入りから高難度のジャンプ。このチャレンジはプログラムを更に光が見えてくるものにすると感じます。

 

今回、プログラムノーミス率の高かったのは、三原舞依選手。レ・ミゼラブルの「夢破れて」を披露してくれました。毎回、演技から「祈り」を感じさせてくれる舞依ちゃん。今回も、美しさの中に真の強さを表現していたように思います。ジャンプがとても軽くて、空気を含んでいるよう。さながら、氷上に咲く花のような演技を見せてくれました。

 

氷上のタイニークイーン宮原知子選手は「小雀に捧げる歌」をドラマティックに演じてくれました。彼女のプログラムは足で漕いでいるところが少なくて、複雑なステップもスピードの中で披露してくれます。とても難しいことを簡単そうにスケートで表現してくれるから、プログラムがとても見ごたえのあるものになるのだと思います。このプログラムはお気に入りだったので、また見られてうれしかったです。

 

 りくりゅうこと、三浦璃来・木原龍一ペアは終始パーフェクトの「ハレルヤ」。お互いの信頼関係が形になっていました。ソロジャンプも、スローイングジャンプも、ミスをする気がしない安定感。何よりも、始めから終わりまで、笑顔で、温かいものが流れている演技を見せてくれて、会場中がスタンディングオベーション。珠玉のパフォーマンスというのはこういうことなのだろうと思わせてくれました。

 

映画で有名な「グラディエーター」を演じたのは坂本花織選手。実は、完成して一週間しかたっていなかったプログラム。最初の内は、ぎこちなさもありましたが、そこはリショープログラムの伝道師カオリ・サカモト! 公演を重ねるごとにプログラムを自分のものにしていきました。持ち味の大きなジャンプが決まり、舞依ちゃんとは別の種類の、祈りをささげる乙女の姿がイメージとして浮かび上がってきました。この先、更に滑り込んでいった先に、祈りの強さが増していくような気がしてワクワクしてきます。

 

新プログラムに挑んだのは、世界選手権銀メダリスト・鍵山優真選手。今年はちょっとジャズっぽい大人なプログラム 「When you’re smiling」。 最終日は大きな4Tを決めてくれました。まだ若いけど、マイケル・ブーブレのボーカルが醸し出す、小粋でおしゃれな感じを自分なりの解釈で自然に演じられるのがすごいと思います。もしかしたら、緊張していたかもしれないけど、最終日に何かをつかんだように思えました。彼の勝負強さの片鱗を見たように思います。

 

全日本女王の紀平梨花選手。今回は腰痛の不安がある中の熱演、頑張りました。体に不調があっても、ジャンプを本番で決められるメンタルの強さ、さすがです。タイタニックの愛の物語を軽やかなステップと細かいリズムの捉え方で、シームレスに演じていました。すごく、伝わるものがあったので、このプログラムを年間通して、応援できることは、楽しみしかないです。

 

そして、大トリはもちろんこの人、羽生結弦選手。演目は以前 Fantasy on Iceで、全世界の度肝を抜いた伝説のプログラム。ロックバンド・X JAPANのボーカリスト、Toshiさんが歌う「マスカレイド」。最初にこのプログラムに感動してから、早2年。あの頃は切なさや激しさを色濃く感じていましたが、今回のマスカレイドでは、年齢を重ね、経験を重ねた羽生くんの「悟り」のようなものが伝わってきました。「いろいろあっても、俺は、俺の信じた道を行くよ」まるで、羽生くんがそう言っているようで、すべてのエレメンツに迷いがありませんでした。曲の一番盛り上がるタイミングに合った形で飛ぶトリプルアクセル。スケーティングもジャンプもスピンも、全て一つにつながっているのがすごい。羽生くんの冷静さ、情熱、狂気をすべての公演で色を少しずつ変えながら、演じ切る。こんなすごい熱演を会場で歓声をこらえながら、拍手を送っていた皆さんがとても偉い! 

 

今回、駆け足で振り返ったDOI 2021。 選手にとって、今年の「旅」はまだ始まったばかり。いい時も、悪い時もあるかもしれないけれど、一つ一つの経験を大切に、今シーズンをやりきってほしい気持ちがあります。そう、スケートリンクの天の川を優雅に滑って渡る織姫、彦星のように。