プログラムが脈打つとき~スケートカナダ観戦記~

 

スケートアメリカの興奮冷めやらぬ中、早くもグランプリシリーズスケートカナダ大会が開幕しました。全く違う出場選手、全く違う緊張が現場を覆っていましたね。

時差の関係上、全てを追いきることは難しかったのですが、今日、心に触れた感動を綴っていきたいと思います。

 

まずは、男子シングルス。山本草太選手のSP「イエスタデイ」に心惹かれました。山本選手というと、「戦う男」というイメージの重厚なプログラムのイメージがあったのですが、今回のビートルズのバラードは、山本選手の繊細さや柔らかさが全面的に感じられて、試合の流れにいい風を運んできてくれそうなナンバーでした。冒頭の4回転ジャンプがきれいに決まった後も、流れるようなスケーティング、ポジションの美しいスピンで魅せてくれます。「羽生選手を尊敬している」と以前、コメントしていたからでしょうか? エモーショナルな曲調の中でも、正しいポジションを意識している姿は見ていて、気持ちがいいと思いました。

ベテランの田中刑事選手。田中選手の演技は、試合なのに、どこかアイスショーを見ているような気持ちになりました。目線の配り方、上体の動かし方、音の細かい拾い方が洗練されているからでしょうか。始めから終わりまで、ミステリアスな雰囲気が漂うプログラムでした。ジャンプが決まってくると、更にプログラムの世界観に惹きこまれていきそうにおもいます。

 

更には、ロシアの若手選手にも心を奪われます。ロシアの21歳。マカール・イグナトフ。冒頭の4回転ループをいともあっさりと決めた後は、自分の流れを作り出します。スピードと、力強さには目を見張るものがありました。スケートのエッジが氷をぐっとつかんで離さない、そのエネルギッシュさと速い独特のスピン。高難度のことを次々流れを途切れさせずに行う。そして華がある。圧倒されてしまいましたね。5位のエフゲニー・セメネンコ選手も、それほど点差がない得点。セメネンコ選手もポジションの綺麗さ、力強さとスピードにかなり圧倒されます。若手ながら洗練されたスケーティングを披露してきた、ロシア選手。オリンピックを前に熾烈な代表争いが待っているだろうな、と今から戦々恐々です。

 

地元カナダのキーガン・メッシング。ダイナミックさが持ち味の彼の演技には、いつの頃からか、優しさや穏やかさが加わったような気がします。もともと、キャラクターの強い演目が多かったキーガン。年々、落ち着きが出てきて、スケーティングを通して、人柄を感じる彼が、高難度のジャンプを決めると、つい「やったー!」と大喜びをしてしまいます。カナダのお客さんの声援もひときわ大きく、キーガンがいかにみんなに愛されているかを感じることができました。

 

2位のアメリカ・ジェイソン・ブラウン。彼はショートプログラムで4回転にはチャレンジしません。しかし、細部において隙のない、高難度のステップが組み込まれたプログラム。

 

 

特に今回は息をのんで、見入ってしまいました。これまでの彼よりも少し背徳的だったり、誘うようだったり、迫力を感じるムーブメントの中で、やはり彼の培ってきたきれいなエレメンツが際立ちます。彼もまた、近年大人の表現力を努力によって手にしたスケーターなのだと納得の点数でした。

 

そして、1位は、スケートアメリカでまさかの失速だったネイサン・チェン選手。しかし、あれれ? 今回のネイサンは、スケアメのネイサンと同じ人なのでしょうか? プログラム冒頭からの落ち着きの表情からもうすでに別人感がでていました。

今回のショートプログラム。ネメシスが彼の体に「入った」という印象です。全ての難しいジャンプは、失敗する気配は全くありませんでした。ムーブメントを見るに、ストーリーが彼の中で脈打ちだした、ここから、何かが始まりだした。という印象でした。スケートアメリカの結果から、ほんの数日しかないのに、一段階も二段階もギアを入れてこれるというのは、さすがはワイルドなネイサン・チェン。ストーリーの最終段階が早くも楽しみになりました。

 

 

と、ここまで観戦をまとめましたが、すみません。女子の文も書きたいことが溢れすぎてしまっているので、今回はひとまず、ここまでにします。

女子も女子でハイレベルでした。これだから、フィギュア観戦はやめられない!