Jojiアルバム「Nectar」に感じた「旅」について
話題作「Ballads 1」のリリースから、2年間の沈黙を経て、Jojiの2作目フルアルバムとなる「Nectar」が2020年9月25日にリリースされました。コロナ禍の中でのアルバム発売は、私たち、ファンにとって、当時とてもうれしいニュースでした。
冒頭の曲「Ew」から最後の曲「Your man」まで、心を捕まれ、一気に聞き入ってしまった私。ずっと聞いているうちに「このアルバムには、明確なテーマがある」と、感じるようになりました。
大きなテーマとしては「宇宙」と「旅」。このアルバムの曲は、MVや、歌詞から、この2つのテーマを感じることが多かったような気がします。
一番最初にテーマの一つ、「宇宙」を感じるきっかけになった曲が、アルバム先行シングル第一弾の「Sanctuary」。このMVは、宇宙船を舞台に、Jojiと乗組員たちとの友情や不穏な葛藤が色濃く感じられる作品となっています。歌詞に注目すると、Jojiが自分の存在をどの部分に置いているのかが、気になる描写が出てきました。
If you’ve been waitin’ for fallin’ love
Babe, you don’t have to wait on me.
‘ Cause I’ve been aimin for Heaven above.
But an angel ain’t what I need.
(恋に落ちるのを待ち続けているなら)
(Babe, 俺を待つ必要なんてない)
(だって、俺の狙いは天国の更に上の方)
(だけど、必要なのは天使じゃないんだ)
この部分、Jojiの伸びやかなボーカルで切なく聞こえるパートですが、天国の上を目指すJoji。そして、天使を求めているわけではない、という、そこはかとなく感じる孤独感。宇宙船で、広い宇宙を飛び続けるエンディングと相まって、何かを壮大なスケールで探し続けているJojiを感じました。
そして、第二弾シングルの「Run」。このMVは、巨大リムジンのパーティーから抜け出そうと走り続けるJoji。そしてラストに待っている宇宙船のエンディング。更に、歌詞にも
「宇宙」と「旅」が出てきます。
You bathe in your victory.
You blew out on my fuse.
And if I took on the planet.
Will I pay my dues?
Your love was a mystery.
Yeah, my love is a fool.
And I traveled the country.
Just to get to you.
(君は君の勝利に浸ってるね)
(君は僕の導火線を吹き飛ばした)
(例えば、僕が惑星にたどりついたら)
(僕は自分の責任を果たせるのか?)
(君の愛はミステリーだった。)
(そう、僕の愛はばかげたものだったよ)
(そして、僕は国中を旅するんだ)
(ただ君にたどり着くために)
この歌に出てくる「君」は、歌の主人公の元恋人という、受け止め方もできるし、これから出会う、自分を理解してくれる人、という受け止め方もできる気がします。求めても得ることのできない愛への渇望を感じる、切ない曲です。プロモーションのラスト、宇宙船の中で、思い出の写真と鍵を投げ捨てるシーンは、とても、象徴的でした。過去を捨て、壮大な旅を続けるJojiという印象を強く残していたように見えました。
更に、宇宙がテーマになっているMVが、とても、キャッチーなメロディーが印象的な「Gimmie Love」。
宇宙船開発に携わる乗組員を演じるJoji。大きなプロジェクトに取り組む主人公の進化や、葛藤が前半のテーマ。後半、宇宙船にみんなの静止を振り切って乗り込んだ主人公。静かに墜落を思わせるラストのカット。まるで、打ち上げ花火のように派手に光り、はかなく散ってゆく人生を前半と後半で異なるメロディーに乗せて鮮やかに表現しています。
更に宇宙船と宇宙人が登場するMVは、アルバムの最後の曲、「Your man」。
惑星にたどり着いた宇宙船から出てくる宇宙人。あらゆる場所をさ迷い歩き、誰かを、何かを探している。でも、最後まで孤独なまま、ありとあらゆる宇宙船が降りてきそうな空を見つめている。
Nectarに込められている、テーマ「宇宙」と「旅」。このアルバムは壮大なファンタジーとして、初めから終わりまで、つながって物語を構成していると私は感じました。「国という国を旅して、宇宙船で、惑星にたどり着いても、自分を愛してくれる人や、自分を理解してくれる人は現れないんじゃないか。自分は、まるで、違う惑星にいる宇宙人のようだ。」という強いメッセージがこのアルバムから感じられます。
通常、リアリティーを伴ったファンタジーを作り上げることって、とても難しいというイメージを私は持っていました。どうしても、現代の生活のことではない以上、作り手のイマジネーションによって、表現する部分が多くなる分野だと思うのです。しかし、Jojiのアルバムに表現されるファンタジーの世界は、非常にリアリティーがあり、彼が、常に抱えているであろう「闇」をより身近に感じさせてくれました。やっぱり、Jojiさんは天才なのだと思います。そして、私はこうも思うのです。「闇も、極めれば、光になるんだ」と。
「Nectar」は、アルバム全体がこうした、暗さの中にも達観した悟りの境地を、一つの物語として、私たちに届けてくれているように感じます。辛いことがあった時、何かを始める起爆剤を欲している時、いろいろなシチュエーションに、Jojiの「Nectar」を多くに人に聞いてほしいな、って感じています。