そして、私たちは彼女たちに恋をする 北京オリンピックフィギュアスケート 女子シングルフリー観戦記

 

 

オリンピックも終わり、世の中全体があわただしい状況を迎えていますが、皆さま、いかがお過ごしでしょうか? 正直、色々なことが、起こりすぎて、自分で、感動を整理しきれずに、今まで、ブログの更新が止まっていました。

オリンピックで起こったドラマの続きについて、回想していきたいと思います。

 

北京オリンピックフィギュアスケート 女子シングルフリー。かなり、例にもれず、緊迫した状況でスタートしました。

 

ショートから、継続して、トリプルアクセルに挑んできたのは、河辺愛菜選手。ブルーのコスチュームに身を包み、フリープログラムでも、果敢にトリプルアクセルにトライ。惜しくも、成功にはなりませんでした。少し、緊張していたのでしょうか、ジャンプが安定せずに、総合23位が初めてのオリンピックの結果となりました。「選んでくださったのに、ご期待に沿えずにすみません」と謝る河辺選手。個人的には「謝らないで、謝る必要なんかない」って思っちゃいましたね。彼女はまだ若く、オリンピックという舞台が通常の試合と雰囲気が違うことを、初めて経験したのだと思います。SPで、難しい3回転3回転を確実に決め、プレッシャーと戦いながら、大技を決めたり、スケーティングに勢いを感じさせくれたりました。この経験は、決して無駄にはならないと思うし、これからの彼女の財産になると思います。これからも、重圧にめげずに、のびのびと、彼女らしく戦っていってほしいと思います。

 

爽やかでしなやかな音楽表現が印象に残った選手がいます。アメリカのマライア・ベル選手。FP「Hallelujah」は使用する方が多く、メロウなバラードが、気持ちを乗せやすいのではないかと感じる音楽。しかし、この感傷的なバラードはスケートがするすると滑る選手が使用するのでなければ、世界が成立しない危険性があります。しかし、マライア選手は、スピードが最後まで落ちずに、よどみないステップを滑りながら、上体の緩急の付け方が非常に余韻を残すものがありました。プログラムの柔らかい、綺麗な雰囲気を、うまくスケートに溶け込ませていたように感じました。総合10位。結果以上に見る者の心に残る演技だったと思います。

 

韓国のキム・イェリム選手が披露したのは、日本でもなじみの深い演目、「トゥーランドット」難しい3回転ジャンプを難なく決めていくうちに、演技後半の直前、彼女の表情がやわらかくほぐれます。全てのエレメンツがきっちりとタイミングに合って、はまっていたのでしょう。表情や動きからは余裕すら感じられました。演技の盛り上がりと共に、感情も盛り上がれたのが見ていても伝わり、爽快感がありました。この演技で総合9位。終わった後のガッツポーズからも、演技への満足感が伝わりました。

 

オリンピックを楽しんでいるのが、誰よりも伝わってきたのは、アメリカのアリッサ・リウ選手。冒頭のトリプルアクセルを降りた後も、勢いが衰えることはありませんでした。クラシックの演目ですが、とてもアスレチックでスポーティーな印象は若さゆえでしょうか?難しいコンビネーションジャンプを演技後半に入れて、スピードも満点。終始、笑顔の彼女を見ていると、「オリンピックを本当に楽しんでいるのだな」ということが感じられ、こちらも笑顔になりました。シーズンの途中で、コーチが変更になったり、タフにならなければいけない場面もありましたが、自分のやるべきことに集中できていた彼女は、「真のアスリート」そのものだったと思います。総合7位。フィギュア大国アメリカの底力を見せつけてくれました。

 

総合5位に入る快進撃を魅せてくれたのは、日本の樋口新葉選手。冒頭のトリプルアクセル、SP同様に見事に決めきります。次のジャンプでミスがあった以外は、後半のコンビネーションジャンプもうまくまとめて、壮大で、躍動感のある、「ライオン・キング」の世界観を余すところなく、演じ切りました。念願のオリンピックで、団体戦から、個人戦のSP,FPまで、トリプルアクセルは非常に安定感があり、樋口選手の代名詞といっていいほどのクオリティだったと思います。ジャンプに入る前のトップスピードや、全身全霊で曲を感じて滑るステップシークエンスにも、円熟味を感じました。

 

さて、ここからは、メダリストの戦い。表彰台に輝くのは、いったい誰でしょう?

 

3位。日本の坂本花織選手。他の選手に比べて、4回転や3回転はありませんが、彼女の武器は、「演技全部」と言っていいほど、演技に統一感があります。ジャンプの前後のスピード、つなぎの複雑さ、複雑なムーブメントから構成される物語は、「ある大人の女性のプロフィール」。「私は女性でいることが大好き」というナレーションから始まる出だしから、かおちゃんにスイッチが入っていたように感じました。どのジャンプも大きくて、流れがあって、リンクにお花が咲くようにきれい。スケートのスピードも、突風がリンクの中を吹き抜けていくように感じるほど。途中、「強さ」「荒々しさ」と英語でナレーションが入った時、かおちゃんは、笑顔で、ナレーションの一部を口ずさみました。「これが私」と、紹介するように。そのハイライトはとても素敵で、4年前に演じた「アメリ」から、大人の女性へと成長したかおちゃんを見ているようで、うっとりしました。最後までノーミスの圧巻の演技。気が付いたら涙が頬を伝っていました。それくらい、その日のかおちゃん、神がかっていました。

 

2位、アレクサンドラ・トゥルソワ選手。難しい4回転を5本入れてくる、鬼構成。彼女のスタミナには、恐れ入りましたという他ありません。男子の構成でも、おそらくは上位に来るのではないかと思います。いきのいいトビウオが飛び跳ねているかのようなジャンプ力を余すところなく、発揮していました。順位が決まるまでの上位3人が集まる待合室で、樋口選手のネイルを触って、「ネイル、かわいいね~」ってジェスチャーで伝える彼女は、まだあどけなく、演技前と演技後では全く別人なのがすごいですよね。

 

1位、アンナ・シェルバコワ選手。こちらも、高難度の四回転が入った構成。しかし、ジャンプのみを魅せるという演技ではなく、途中のステップシークエンスが凝っていて、スピンの複雑さや、ムーブメントは、やはり、高得点につながるという完成度を見せてくれました。

全選手の演技が終わり、順位が確定した際に、銅メダル獲得が分かって号泣する坂本選手を慰め、日本のスタッフを呼びに行ってくれた彼女。とても思いやりのある素敵な女性ですね。今回のオリンピックでは、なかなか、複雑な気持ちになることも多かったと思いますが、このような聡明な選手が様々な試合以外の争いに巻き込まれるようなことはないようにしてもらいたいな、って、正直、思っちゃいました。

 

 

思い返せば、昨日のことのように、オリンピックでの彼女たちが頭にめぐってきます。

こんな時期なのに、いえ、こんな時期だからこそ、一瞬の間に人生を賭けて舞った彼女たちの演技を堪能して、「素敵」って言葉に出したいって思いました。

夢のような時間をありがとう。そして、いつか、また。そう願わずにはいられません。

彼女たちが見せてくれた幸せ 北京オリンピックフィギュアスケート 女子シングルSP観戦記

 

 

疑惑が会場を覆うようなムードの中で、北京オリンピックフィギュアスケート 女子シングルが開幕しました。件のドーピングの件は、皆さん、もうご存じのことと思いますので、割愛いたします。私個人の見解といたしましては、やはり、受け入れがたいものがありますね。本人にも、周りの大人たちにも、考えて行動する意識があれば、結果は違っていたのではないか、と思います。頑張ってきた選手たちの、その頑張りを、台無しにするようなことは、あってはならない。私個人はそう感じます。本来ならば、上位の演技を追って、公平な目線で述べなければいけないのでしょうが、今回は、簡単にそれができそうにありません。そこで、今回のSPは私独自のランキングで上位に入った選手たちの紹介をさせていただきたいと、思います。

 

まず、今回、フィギュアスケート女子シングル、切り込み隊長として、先陣を切ったのは、期待の新人、河辺愛菜選手。演目はヴィヴァルディの四季。冒頭のトリプルアクセルこそ転んでしまいましたが、その次の大技、3回転3回転のコンビネーションジャンプ、高さも降りた後の流れも、申し分のないクオリティ。白いコスチュームが冬の清涼感を運んできて、スピードの中で躍動する彼女のすばらしさを引き立てていましたね。終わって全体の15位につけました。まだまだ、これから花開く期待を感じさせてくれる演技です。フリーでも、見事なジャンプが見られるのを楽しみにしています。

 

大人の表現力と確かな技術力を魅せてくれた選手がいます。ジョージアのアナスタシア・グバノワ選手。元々はロシア出身の19歳のスケーター。黒と赤の大人っぽい配色の衣装に身を包み、曲調も大人っぽいリズムで滑りぬけます。つややかな表現を心掛けながら、その中でもスピードに乗った、確かな技術力。プログラムがすでに完成されている雰囲気を感じました。総合10位。彼女もまた、未来に期待大の選手です。

 

総合9位に入った韓国のキム・イェリム選手。SPは「愛の夢」。会場に柔らかな旋律がこぼれます。3回転ルッツ3回転トゥル―プのコンビネーションが鮮やかにきまった後は、終始、優雅なムーブメントでプログラムの世界に統一感が生まれていました。ポーズの静止から、ポーズのほどき方、一連の所作にオーソドックスな美しさを感じます。

 

そして、美しいトリプルアクセルを決めたのは、我らが樋口新葉選手。緊張していたのかもしれませんが、そのようなことを感じさせないほど、キレがあって降りた後の流れもよいジャンプ。私には、どこに踏切違反があったのか、分からないほどでした。そして、思いの丈があふれ出してくるほど、表情豊かな音楽表現。オリンピックのピリピリしたムードを溶かしてくれるような、気持ちのいい「Your song」を披露してくれました。総合5位。フリーでの巻き返しを期待したいと思います。

 

最終滑走、緊張が走る場面で、成熟した女性の素晴らしさを披露してくれたのは、巧みな技術と表現力で存在感を放つ「リショー・プログラムの伝道師」坂本花織選手。シャンパンゴールドの素敵な新衣装に身を包み、重厚な「グラディエーター」の世界を表現します。冒頭の2アクセル、高さと幅と、スピードが満点の出来。エッジエラーを取られがちな3ルッツも、今回は充分な踏切。プレッシャーのかかる舞台で、ジャンプノーミス。とにかく、彼女のスケーティングを見ていると、水が流れているようで、素直で優しく、気持ちのいい印象が心を満たしてくれました。フィニッシュのポーズの後、リンクにはけていくときに涙が頬を伝った花織ちゃん。最終滑走の大変なシチュエーションの中、耐えて、最高の演技を披露できたことは、喜びだったと思います。総合3位。私の中では一位の演技でした。さすが、私たちの舞姫

 

と、ここまで、独断と偏見で素晴らしいと感じた女子シングルSPの演技を振り返っていきました。特に日本の3選手の演技を見ていると、「スポーツっていいな」って感じました。私にスポーツが好きな理由を思い出させてくれる演技をしてくれた選手たちに、ありがとうって言いたいです。FPは明日、行われる予定です。どうか、スケートの神様、正しい努力をしてきた選手たちに希望の光をあてて下さい。

*「魔物」だったり「天使」だったりするあなたたちへ* 北京オリンピックフィギュアスケートアイスダンスFD観戦記

 

 

独創的な演技の数々で、ドラマティックな世界へと誘ってくれた北京オリンピックフィギュアスケートアイスダンス。本日はフリーダンスが行われました。

レベルの高いトップ争いの中、わずかなミスが命取りの綱渡りゲーム。勝敗の行方はいかに。結末が非常に気になるところですよね。ドラマの続きを振り返っていきたいと思います。

 

RDでゴージャスなエルトン・ジョンプログラムを披露してくれた、カナダのパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組。FDの演目は、ビートルズのナンバー、「The Long And Winding Road」。

ゆったりとしたバラードで、優雅な滑りが展開されます。RDと雰囲気を変えてレパートリーの多さをアピールすることも、競技において非常に大事ですよね。リフトされているギルスさんが、ひらひらと舞い上がる蝶々のようで、衣装も相まって見とれてしまいました。途中、ローテーショナルリフトのポジションがほどけてしまった箇所があって、そこさえなければ、順位をキープしていただろうな、と思いました。総合で7位。1つ順位を下げてしまったのが惜しかった。エレガントで演技力も感じさせてくれるカップルなので、これからも、素敵な演技を期待したいです。

 

RD、勢いを感じる演技を見せてくれたロシア、アレクサンドラ・ステパノワ/イワン・ブキン組。演目は「ロミオとジュリエット」。この二人の動きは、どこかモダンバレエの振付を思わせるところがありますね。ただ、綺麗に演じるのではなくて、工夫を凝らしたインパクトのある動きを随所に取り入れる。そういう二人の演技を見ていると、アイスダンスに新しい風が吹いているのかな~と感じてしまいます。しかし、コレオスライディング、お互いが、膝をついて滑る箇所で、事件は起こりました。女性エッジが外れてしまって、バランスを崩しかけたのです。とても高難度の技に挑んでいて、ギリギリの状態なのでしょう。しかし、そのギリギリをミスしてしまうか、制することができるかで、順位は大きく変わってしまう。とてもシビアです。総合で6位。1つ順位を落としましたが、個性的なロミオとジュリエットを氷上に届けてくれたと思います。

 

イタリアのカップル、シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組は、RDのマイケルジャクソンプログラムとはうってかわって、エレガントなムードのフリーダンスを披露してくれました。ローテーショナルリフトのスピードと飛距離がとてもすごい。どのリフトも女性が美しい姿勢を保っているけれど、支えている男性はかなり力業のはず。そのように見せないところに技術力の高さを感じます。イタリアの映画は、男女の絆や、人生の深さなど、エモーショナルな内容を伝えてくれる作品が多いのですが、このカップルの演技を見ていると、イタリア映画を見ているかのような印象を与えてくれて、表現面もすばらしいカップルなのだと思いました。総合5位。2ランクアップの快挙をオリンピックで魅せてくれました。

 

メダル争いが熾烈になってくる最終グループの中で、フリープログラム、「Daft Pankメドレー」を披露してくれたのはアメリカのマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組。宇宙人との恋物語?という斬新なテーマは見る者の心をつかんでくれました。リフトで持ち上げられる時にマディソンさんが、「魔物感」をだすところが非常につよく印象に残ります。

総合4位。惜しくもメダルには届きませんでしたが、個性的な存在感をRD、FD共に、発揮してくれました。

 

ここから、メダル獲得者の演技へと続きます。

 

3位に入ったのはアメリカのマディソン・ハベル/ザカリー・ダナヒュー組。フリーは、柔らかな愛の物語。その中でも、スピードやパワーを随所に感じることが出来ました。ミスもほとんどなく、リフトの体重移動のスムーズさが際立っていました。今季を引退と決めて臨んだ演技。最高の幕引きが出来たのではないでしょうか。

 

惜しくも銀メダルだったのは、ギリギリまで僅差で戦っていた、ロシア、ヴィクトリア・シニツィナ/ニキータ・カツァラポフ組。選んだ演目はラフマニノフの王道ナンバー。個性的なプログラムが続いた後で、こういう、正統派なクラシックの選曲は、かえって新鮮に思えます。白と黒のコスチュームに身を包み、ピアノの旋律と戯れるように滑りぬけていく彼らは、光と影のような、天使と悪魔のような、相反するイメージを紡ぎあげていきました。このクラシックの曲調は、二人の技術の正確さを表現するのに、ふさわしい曲だったと言えるでしょう。

 

そして、そして、ようやく彼らの登場です。フランスのガブリエラ・パパダキス/ギョーム・シゼロン組。冒頭から、大人のムードで演技が始まります。ツイズルでの二人の距離の近さはフリーでもいかんなく発揮されます。リフトの移動でも、スピンでも、どんな時も美しいガブリエラ。そのガブリエラの美しさを表現するには、男性のギョームの巧みなサポート力が必須です。常に、女性を目立たせて、自分は影に徹するけれど、完璧なリードを見せてくれる。最初から最後まで、男女の愛の物語を、すごいスピードで表現しつくして、堂々の金メダルです。圧倒的でした。フランスカップル金メダルは、20年ほど前のオリンピックでアニシナ・ペーゼラ組が成し遂げた以来。そう思うと、感慨深いものがあります。

 

フリーダンスでも、スケーターたちは、自らの魅力を随所にちりばめたプログラムで私たちを楽しませてくれました。プログラムへのアプローチによって、彼らは「魔物」にも「天使

」にもなり切ることが出来ます。たとえ、演じる姿が「魔物」であっても、「天使」であっても、常日頃、取り組まなければいけない課題も、努力も、同じ。そういった血のにじむ努力を真の意味で極めたものだけが「真の王者」になれるのだと、私は思います。

悲しい結末も、ハッピーエンドもアイスダンスで見ることが出来ました。今後、更なるドラマの続きを、明日から始まる女子シングルで、目撃することになるでしょう。どうか、ピュアな願いを込めて、戦いの続きを見守ろうではありませんか。

瞬き厳禁!楽しさいっぱい、夢いっぱい。 北京オリンピックフィギュアスケートアイスダンスRD観戦記

 

 

伝説となるであろう、北京オリンピックフィギュアスケート・男子シングルが終わって早数日、数々の名演技を生み出すドラマの舞台は、アイスダンスへと移りました。

シングル競技とは違い、ジャンプなどはないアイスダンスですが、その分、正確なステップワークと、ダイナミックなリフトが最大の見せ場となります。果たして、アイスダンスを制するKing&Queenはどのカップルになるのでしょうか。怒涛の興奮に包まれたRD(リズムダンス)の模様をお伝えしていきたいと思います。

 

日本代表の小松原美里/小松原尊組。団体で、息の合ったダンスを披露して、チームを銅メダルへと導いた功労者です。今回のRD、テーマはストリートダンスリズム(ヒップホップ、ディスコ、スイング、クランプ、ポッピン、ファンクなど)。冒頭から、はじけるようなディスコナンバーで会場を湧かせます。少し、緊張していて、硬さがあったのかな?とは思いましたが、凝ったリフトが本番でも光っていて、全体的にクールなムード。二人の同調性も感じられて、日本のエースとしての実力を遺憾なく発揮していました。残念ながら、フリーダンスに進むことはできませんが、予選通過のボーダーラインまではほとんど、僅差。この経験をばねにして、必ずや、二人の気迫のこもったダンスに磨きをかけて、次の試合に臨まれるのではないかと思います。

 

 

グループが包むにつれて、バラエティに富んだ、ノリノリダンスが見えて、楽しさも興奮もヒートアップ。

個人的に気に入ったのは、7位に入ったイタリアのカップル、シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組。今年流行のマイケルジャクソンメドレーで挑みます。RDのテーマに関係してか、マイケルの中でもディスコナンバーを多めにチョイス。

身長差の少ない、このカップル。しかし、男性の巧みなリードがさえわたります。ディープなエッジ捌き、重心の安定感は、演技に洒脱さを運びました。注目は、女性がリフトされながら見せる、帽子に手をかけるしぐさのマイケルポーズ。プログラムに独創性がありました。

 

6位カナダのパイパー・ギレス/ポール・ポワリエもこれまた、独創的なプログラム。こちらも今年大流行の「エルトン・ジョンメドレー」。蛍光オレンジのパンツスーツ衣装が、エルトンの特徴をすでに表現しています。演技に入る前から、お客さんを煽って、まるで競技会場がライブ会場へ早変わりした様。カナダのスケーターは、スケーティングスキルの高い方が多いのですが、このカップルも、例にもれず。スピードの中で快活な動きを混ぜながら進むステップワークは、とても疾走感があって、ぐいぐい心に入ってくるようでした。

こちらのカップル、昔から、しっとりした曲調の時も、優れた音楽表現が印象深かったのですが、ノリノリのプログラムでも、明るさや力強さを前面に出した表現力で、振れ幅の広さを感じました。

 

5位に入った、ロシアのアレクサンドラ・ステパノワ/イワン・ブキン組。怖いもの知らずのパワーを炸裂。少し、選曲に起承転結が欲しかったところですが、そのことを差し引いても、キレキレのムーブメントと、勢いのあるスケーティングで圧倒。フリーダンスに向けて弾みをつけました。

 

4位は、団体戦でも、存在感を発揮した、アメリカのマディソン/エヴァン・ベイツ組。演目は、「ビリーアイリッシュメドレー」で、こちらも個性満点。途中、スケーティングで躓くような場面はありましたが、見せ場の力強いリフトと、音にぴったり合ったツイズルでカバー。どこか、暗さと妖艶さを感じるナンバーを体で感じ取り、技に雰囲気を感じさせる表現力はさすが、ベテラン。フリーの宇宙人プロで、どこまで、巻き返してくるのか、目が離せません。

 

3位、アメリカのマディソン・ハベル/ザカリー・ダナヒューの演目は、「ジャネットジャクソンメドレー」今年、本当にジャクソンファミリーのナンバーに挑む人多いな~。

ノリのいいジャネットの曲を途切れを感じさせない、流れのあるスケーティングで魅せてくれました。キレがあって、ダイナミックな動きやステップが随所に入っていて、ジャネットのゴージャスなMVの世界をそのまま、リンクで表現できていたと思います。

 

僅差の2位は、ロシアのヴィクトリア・シニツィナ&ニキータ・カツァラポフ。ロシアの第一人者の二人。ノリのいいストリートダンスのリズムをクールに決めていても、ステップやツイズルは基本に忠実。優等生の滑りを見せてくれました。特に、二人の同調性は、目を見張るものがありました。おそらく、団体戦の時よりも、更にパワーアップしたように思えます。

 

そして、そして、お待たせいたしました。オリンピック大本命、フランスのガブリエラ・パパダキス/ギョーム・シゼロン組。

世界のトップレベルはさすがに、一味も二味も違いました。注目のツイズル、二人の距離の近さと言ったら! ツイズルをしながら、細かい手の動き、相当コントロール力が必要とされるはずです。同調性もぴったり。お互いがお互いの影のようです。そして、注目のリフトはもう、本当に彫刻が滑っているのかと思うくらいの難しい体勢と体勢をキープする筋力。

もう、最初から最後まで、音楽を演じつくす、極上のアイスダンスの世界がそこに展開されていきました。

 

鬼気迫る男子シングルの後のアイスダンス。こちらも、火花が散りながら、競技の特性からか、エンターテインメント性の高い、どこか、アイスショーを見ているかのような興奮がありましたね。昔、フィギュアがまだ、日本でブームになるはるか前、アメリカで行われていたクリスマスオンアイスのアイスショーを思い出していました。それはとても、夢いっぱいで幸せになるエンターテインメントだったのです。今大会、こんなに高レベルな技巧の数々、もっと、多くの人に見て、知ってもらいたいなあと、いう気持ちが強まりました。

注目のフリーダンスはまた、後日。各スケーターが織りなすドラマの続きを、ぜひ、堪能しましょう。

 

願い事、叶いましたか? 北京オリンピックフィギュアスケート 男子FP観戦記

 

 

波乱続きの北京オリンピック。男子フィギュアFPが本日行われました。4年間、みんな、様々な思いを胸に日々の練習に励んできたことでしょう。泣いても、笑っても、今日で男子シングルの結果が決まってしまいます。応援していた私、みんなの努力を見続けて、胸がいっぱいになってしまって、お昼のインスタントラーメンが、のどを通りませんでした。

今回は上位4人に加えて私が印象に残った演技も少し、ご紹介して行ければと思います。

 

まずは男子シングル13位に食い込んだ、ラトビアの王子様、デニス・ヴァシリエフス選手。

フリーの演目は、ロミオとジュリエット。冒頭の4回転での転倒こそありましたが、他のジャンプは軽々と、見栄えのする美しいジャンプを決めました。スピンやステップでもレベル4をとり、技と技のつなぎは本当にシームレス。ロミジュリの音楽に自然にとけこみ、切ないラブストーリーの主人公に最後までなりきっていましたね。流れが途切れないプログラムを滑れる彼。4回転がもっと、確率が上がってきたら、必ずや、上位選手の仲間入りを果たすこととなるでしょう。

 

SPジャンプにミスが見られましたが、追い上げを見せたのは、中国のボーヤン・ジン選手。FPで、冒頭、踏切りの綺麗な完璧な4回転ルッツを決めると、音楽に乗って、高難度のジャンプに次々挑みます。最後の3回転フリップでミスがありましたが、ボレロのメロディアスな旋律にのって、ボーヤンは今まで以上にアーティスティックな舞を見せてくれました。スピンステップはこちらもレベル4。もともと備わっていた、ボーヤンなりの表現力が、4年経って、熟成されてきていたのだな、と感慨深い気持ちになりました。演技が終わって、感極まった涙を見せたボーヤン、自身も納得のいく出来でフィニッシュできたのでしょう。私の心の中にも、熱いものが広がりました。

 

流れるようなスケーティングに定評のある、韓国のチャ・ジュンファン選手。冒頭の4回転サルコウで、かなり、痛い転び方をしてしまいます。一瞬、演技中断か?と思いきや、直ちに起き上がり、演技を再開させました。その後は、まるで、最初のミスがなかったかのような熱演。ジャンプを次々に決めると、優雅な所作とスケーティングを随所に披露。見せ場のイナ・バウアーでは、ジュンファンにしか出せない綺麗なラインが出て、プログラムの繊細さが際立つようでした。

 

上位4位の争いも熾烈。

 

SP8位で迎えたフリープログラム。羽生結弦選手は、静かに穏やかな顔でリンクに降り立ちました。彼の戦いのプログラムに、全世界が集中していたことと思います。

冒頭の4回転アクセル。回転はあと少しのところまで到達した状態で転倒。しかし、ダウングレードにはならず、しっかり、4回転アクセル認定されました。これで、羽生くんの目的としていた4回転アクセルは、オリンピック史上初の認定を受けたことになります。それだけでも、奇跡なのに、羽生くん、ミスを引きずらずに物語の世界へと、観客を誘い続けました。ほとんど、助走や構えのない状態で飛ぶ、難易度の高いジャンプ。戦いの剣や矢を交わすように、羽生くんは宙を舞い続けます。後半に行くにしたがって、動きやスピードはさえわたり、プログラム全体からは、特別なオーラが漲っていくのを感じました。その演技は、後続の選手たちにプレッシャーを与えるには、十分すぎるほどの完成度。改めて、羽生くんの圧倒的な存在感を北京オリンピックの舞台でも、示せていたのではないかと思います。

 

日本の宇野昌磨選手。ボレロの激しい曲調に合わせて、こちらも、動きの強弱のメリハリがとても強く感じられるプログラムを演じていきました。練習で不安があった4回転ループ、本番ではカチッとはまり、演技に勢いが付きます。ところどころ、ハラハラさせられるところはありましたが、演技は途切れる感じがせずに、宇野くんなりの流れを感じさせてくれました。最後のステップシークエンスまで、運動量の多い、過酷なプログラムと思われますが、彼自身、このプログラムが気に入っているのでしょうか。気分が乗っているようで、表情や動きは生き生きとしていました。

この演技で宇野くんは、暫定でトップに入り、銅メダル。強い気持ちで2大会連続のメダルを勝ち取りました。

 

SP2位で折り返した、日本の若手、鍵山優真選手。羽生さんが怒涛の追い上げを見せて、宇野くんが暫定のトップにつけて、メダルがかかった大一番。緊張しない訳がありません。よく、「ノーミスで滑れば上位は確定だからノープレッシャーだろう」って言う人がいますが、そんなわけないじゃないですか。ノーミスを決めなければ、っていう状態で大事な場面で滑ることで、「ノーミスの呪縛」というプレッシャーに負けてしまう選手だって、過去に多く見てきました。特に、経験の少ない10代の選手。果たして、どうなるだろうかと、手に汗握っていたら、あれ? 鍵山くん冒頭のジャンプから大きく流れの綺麗なジャンプを決めちゃいます。オリンピックの舞台で、挑戦を始めたばかりの大技4回転ループ。回転は多少乱れ、回転不足気味ではあったものの、この若さで大技にナイスチャレンジ! その他のジャンプも大きな乱れはなく、スピードの中で、気持ちよく決まっていきました。シーズン初めよりも、気持ち、ジャンプとジャンプの間のつなぎが増えたような、動きがより大きく明確になってきているような、そんな充実感が感じられました。短期間でかなりのレベルアップ。若いって素晴らしい。技術的にも文句なしの演技を決めて、残り一人を残し、銀メダルを確定させました。キスアンドクライ、優真くんの横で涙を拭っていた、父正和さん。正和さんの演技から、大分経ちましたね。息子さんのメダル確定は、正和さんの願いでもあったのだろうな、と思うと。私も込み上げてくるものがありました。

そして、最終滑走。ここ数年負け知らずの王者。ネイサン・チェン選手。平昌オリンピックで表彰台を逃した雪辱を果たす舞台に上がりました。

演目は、「ロケット・マン」。エルトン・ジョンの自伝映画のテーマソング。宇宙を思わせるプリントのコスチューム。壮大な物語が幕を開けます。多くの挫折を経験してきたネイサンと、紆余曲折を経てスターダムにのし上がったエルトンの姿が途中からリンクし始めました。難しい4回転フリップや、4回転ルッツ。今日のネイサンは失敗する気配が全く感じられません。とにかく最後まで気持ちを切らさずに疾走感の中で、リズミカルなスケーティングが冴え渡ります。途中、コンビネーションジャンプの3つ目が1回転になってしまったり、ステップで躓いたりしたのはご愛敬。とにかく、ネイサンがお気に入りのストーリーで、ポップにカラフルに、リンクを染め上げていくのを見たときに「金メダル、来たな」と疑いようもなく思ってしまいました。終わってみれば、ダントツの高得点で金メダル。ネイサンが選んだ「ロケット・マン」は極上のドラマを彼に運んできました。

 

ここまでのスリリングな展開は、本当に久しぶり。何が起きるのか、分からないのがオリンピックなのですが、毎回毎回、重みのある試合運びに、見ている方もかなりエネルギーを使ってしまいます。選手一人ひとり、様々な願いを込めて、このオリンピックに臨んで来ていたはず。メダルに輝いた選手も、自分なりに出し切ったと、思える演技が出来た選手も、それぞれが、それぞれの願い事を叶えた瞬間。応援出来たことが特別、幸せでした。まだまだ、オリンピックも盛り上がりを見せていきます。今後の種目でも、一人でも多くの願い事がかなうことを、切に願って止みません。

 

明日に向かって飛べ! 北京オリンピックフィギュアスケート 男子シングルSP観戦記

 

 

熱狂がピークに達した団体戦から一夜明け、早くもオリンピックフィギュアスケート個人戦へと突入しました。とても、残念な知らせが入ったのは、本日深夜。アメリカのヴィンセント・ジョウ選手がコロナ陽性となり、再検査の結果も陽性の為、個人戦棄権となりました。彼の頑張りをずっと応援してきた私は、本人の気持ちを考えると言葉を失ってしまうほど、ショックを受けました。時々、運命はあまりにも残酷です。しかし、ヴィンセントは、自身のインスタで「もっと、強くなれる!」と、3月に行われる世界選手権に向けて、強い意欲を表明してくれました。いろいろあっても、同じところにとどまってはいられない。そう、前を向くしかないのです。個人戦前に、ふさぎ込んでいた私は、ヴィンスの分まで、しっかり応援して、試合を見届けようと決意を新たにしました。

 

波乱があったのは、第4グループ。過去に五輪二連覇の実績をもつ、本大会大本命の羽生結弦選手のSPでした。冒頭の4回転サルコウジャンプが、一回転になってしまったのです。

一体、何が起こったのか、私にも分かりませんでした。羽生くんにとって、4回転サルコウは、3回転かと思うほど軽く、余裕のあるジャンプのはず。いつも、絶対失敗しないほどの鉄板ジャンプが、そのようなミスになるなんて、何か、おかしい、と感じました。リンクに穴があり、そこにはまったとのこと。そんなアクシデントがあるなんて、想像していなかったので、青天の霹靂とはこのこと。しかし、その後の羽生くんは、落ち着いていました。4回転トゥル―プと3回転トゥル―プのコンビネーションを流れのあるクリーンな着氷で決めると、トリプルアクセルも鮮やかに、極上の舞を見せて、あっという間に演技が終わってしまいました。私が特に印象に残ったのは、コンビネーションジャンプ着氷後に入れた、片足ステップと、アクセルジャンプ着氷後の見事なツイズルです。こんなに難しいジャンプの後に、ここまで凝ったつなぎを入れられるのは、羽生くんしかいないのではないかと思うくらい綺麗でした。そして、更に心に触れたのは、ピアノの強い音に合わせた手の動き。強い音の時に必ず、足が動いている状態で、手を真っすぐ上げたり、ウェーヴを描いたり、アクセントのある動きが入るのです。音楽をよく聴きこんでいる選手にしかできない所作。たとえ、ミスがあっても、こういった細部まで気を配ったプログラムを行っていれば、点数は90点台に行くだろうと思いました。

SPの点数は95.15。僅差の8位。羽生くんのフリープログラムには、4回転アクセルだけではなく、トリプルアクセルトリプルループの、高得点が狙える大技が組み込まれています。

点差の少ない戦いの中、羽生くんは、かならずや、ごぼう抜きの演技を見せてくれるはず。信じて、その時を待ちたいと思います。

 

SP3位に入ったのは、日本の宇野昌磨選手。SP、団体戦から調子が良かったのですが、冒頭のクワドフリップが軽々と決まると、そこからは、波に乗っていきました。ステップシークエンスは、上半身の大きな動きと、下半身の滑らかなスケーティングの調和がとれていて、音楽表現の巧みさを感じました。気が付けば、彼も24歳。大人の男性の雰囲気が演技から漂うにようになってきました。演技をみていて、「彼は弦楽器が良く似合うなあ」と感じました。弦楽器の奏でる独特な重みと悲しさ。そういった音にかれの少し溜めのある動きはとてもマッチしていると思うのです。自分に似合うプログラムを披露できるというのは強みですよね。氷をグッと捉えて離さない、深いエッジワークも、点数には反映されていたような気がします。

 

2位もこれまた日本人! 若手ホープの鍵山優真選手はジャズナンバーを引っ提げて、北京の舞台に降り立ちました。ジャズナンバーは少し、大人っぽいかなと、シーズン前半は思っていたのですが、後半には、若い彼なりのテイストでものしてきた感があります。

ジャンプは流れに乗って高さと飛距離のあるジャンプを随所にバシバシきめ、降りた後の流れも素晴らしい。演技全体を見たときに、おそらく、彼が一番五輪を楽しんでいるのだろうな、と感じさせるくらい、楽しそうに、生き生きと演技をしていたのが印象的でしたね。途中、演目「君ほほ笑めば」の歌詞を歌っている?という場面があって、とにかく、最初から、最後まで笑顔でした。はつらつと演技している優真くんをみていると、思わずこちらも笑顔になってしまう。そんな18歳らしいあどけなさと、すきのないジャンプを大事なところで決めきれる骨太のマインドは、やっぱり特別な輝きがあります。これからが楽しみでカリスマが感じられるSPでした。

 

SP1位はアメリカのネイサン・チェン選手。団体戦でも、パーフェクトな世界を表現してインパクトを与えた演目「ラ・ボエーム」冒頭のクワドフリップも、アクセルジャンプも、クワドルッツ・トリプルトゥル―プのコンビネーションジャンプも、全く、失敗する気がしないほど安定していました。しかし、ジャンプだけではなくて、このプログラムからほとばしるのは激しく漲る暗い情念。ネイサンがそういった情念をちらつかせたのは、4年前の平昌オリンピックシーズンに見せた「ネメシス」というプログラムでした。自分でも気が付いているのかもしれませんが、彼にはどこか、重みのある情熱というか、ダークな哀愁のようなものが感じられる瞬間があります。このオリンピックではそういった彼の持ち味に更に油が注がれて、情熱をほとばしらせたプログラムになっていたような気がします。私のネイサンのプログラム、お気に入り1位は「ネメシス」でしたが、今回の「ラ・ボエーム」、1位を更新してしまったかもしれません。

 

ヒートアップした男子シングルSP。戦いはそのまま10日のフリーへと持ち越されます。

コロナの影響で試合に出られるか分からなかった選手、試合に出ることさえ叶わなかった選手。様々な悲しさが通り過ぎ、試合が開催されました。フリーへと進む選手たち、どうか悔いのないように、思いを燃やし尽くしてほしい。明日に向かって、飛び立つ選手たちをどうか、スケートの神様、お守りください。

表彰台を引き寄せたのは… 北京オリンピックフィギュアスケート団体決勝観戦記

 

 

北京オリンピックフィギュアスケート団体もいよいよ佳境。どのチームがメダルを手にするか、ここから演技を披露するスケーターたちへ、プレッシャーが集中し始めます。

果たして、表彰台に上がるのはどこのチームか? ジェットコースターのような興奮が応援する側にも沸き上がってきます。

 

まず、先陣を切ったのは、ペア・フリースケーティング

 

日本からはりくりゅうこと、三浦璃来・木原龍一組がSPに引き続き出場。

冒頭のコンビネーションジャンプで、三浦選手が一瞬体制を崩しかけましたが、気力で、持ち直し、三連続がきちんと入りました。一瞬、ひやっとしましたが、「絶対、きめてみせる」という、三浦選手の強い気持ちを感じました。大一番、緊張がかかる瞬間に、その後を左右するのは、負けん気の強さだったりするのかもしれません。その後も、難しいリフトや、スローイングジャンプ、全てにおいて思い切りが良く、安心してみていられる完成度。ノーミスで演技を終えた瞬間、二人には安堵と喜びの表情が灯りました。

全体で二位の好成績、日本団体メダルを大きく引き寄せます。

 

フリー一位に立ったのは、ロシアのアナスタシヤ・ミーシナ/アレクサンドル・ガリアモフ組。こちらは、さすがロシアのペアという仕上がりで、リフトもジャンプもステップもスピンも全てにおいて、一味も二味も格の違いを見せつけました。

なんというか、女性を持ち上げるときに男性が「よいしょ」って弾みをつけている感じが全然しないのです。流れの中で、優雅に女性が高いポジションに、自然に上がっていく。それは、肉眼では分かりませんが、相当な筋力を必要とすることだと思います。

このまま、二人がトップにくるな~と、ゆるく見守っている瞬間に、それは起きました。

なんと、難しいリフトのポジション変化の途中、男性がバランスを崩し、女性を落としそうになったのです。男性はとっさに機転を利かせて、女性が危険な状態にならないように、女性の体をかばいながら、致命傷を避ける転び方で、難を逃れました。

そう、彼らのやっていることは、一歩間違えば、大惨事になるような危険なことなのです。そのような、棄権技に挑める技術力をもっていることも、万が一、ミスをしても、女性をかばいながら、うまく転べる対応力も、さすが、トップ選手だな、と感銘を受けました。

 

アイスダンス・フリーに臨むのは、チームココこと、小松原美里・小松原尊組。

演目は「SAYURI」。着物風にあしらった動きのある衣装が、動くたびに可憐に風にそよぎます。曲調に合わせて調和のとれたツイズル。ダイナミックだけれども、どこか、日本女性の品と奥ゆかしさを感じさせる綺麗な形のリフト。日本の芸者の一生を、切なく、妖しく演じ切った二人。このオリンピックの大舞台で、チームココはのびのびと演技をしているな~と心が熱くなりました。日本中いや、世界中が注目する大舞台の場にふさわしい、日本のエースの舞を私たちはずっと覚えていると思います。

 

アイスダンス一位は、アメリカのマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組。息の長いカップルです。演目はダフトパンクメドレー。宇宙を表現した近未来的な振付。演技が始まる前から、マディソンさんの表情は独特な個性を発揮して、その空間を特別な世界に惹きこむものがありました。音楽の始まり、二人の動きのユニゾンは一心同体のようにそろっていて、ステップもキレキレ。高いポジションのリフトは、まるでギリシャ彫刻を思わせる美しさでした。女性は空からやってきた宇宙人という設定だったのでしょうか? ただ美しいだけではない、ミステリアスなストーリー仕立てになっていたのが、印象的でした。きっと、トップ争いが拮抗していく中では「他の誰とも似ていない」独自性というのも大きく、効いてくるのかもしれない、と感じさせてくれました。

 

迎えた最終戦は女子シングルフリー。

日本から登場は日本のエース、坂本花織選手。メダルがかかった大一番。きっと緊張も相当だったことでしょう。しかし、ひとたび音楽が流れると、かおちゃんの動きは、自然に音楽にのっていきました。前半は少し慎重にいった印象もありますが、それでもスピードにのった大きなジャンプは圧巻。飛距離も素晴らしく、加点がもらえるジャンプを連発します。後半に行くにしたがって緊張がほぐれて来たのか、表情にも余裕が生まれ、ステップも力強く、いつものかおちゃんの世界。もう、このプログラムは、しっかり体に入っているのでしょう。ノーミスの演技で、オリンピックの会場に、日本の強き舞姫の存在を、存分にアピールできました。この演技で、堂々のフリー2位。緊張の中でも、完成度の高いパフォーマンスを魅せられるかおちゃんに4年間分の成長を感じました。

 

ロシアの「絶望」カミラ・ワリエワは一人異次元の演技を披露してくれました。演目は「ボレロ」。自分の技術力・表現力にそうとう自信を持っていなければ使うことがためらわれるプログラムです。女子の構成とは思えない。4回転ジャンプ、トリプルアクセル、これで年齢が15歳って、本当にあなたはいくつ神様にギフトを授かったのでしょうか?

このまま、ノーミス行くかと思っていたら、またまた波乱。珍しく後半の4回転ジャンプで転んでしまいました。しかし、もともと異次元構成のワリエワさん。1つや2つのミスぐらいでは、トップの座は揺るぎません。文句なしのフィニッシュを決めた後、少し、悔しそうな顔をしたときに、「これは個人戦、気合入れてくるぞ~」ってぞくぞくしてしまいました。

 

今回の団体戦で日本チームは悲願の銅メダルを手にしました。特筆すべきことは、日本チームは、全ての種目で「選手がノーミスを決めた」ということです。全体的に競技のレベルが上がったこと。そして、団体戦に向けて、各々が絆を結束させて、この素晴らしい結果につながりました。この結果は、これから戦う個人戦にも、必ず生きてくると思います。みんなの「引き寄せる力」に脱帽! さすが、チームジャパン!と、心震えた一日でした。