そして、私たちは彼女たちに恋をする 北京オリンピックフィギュアスケート 女子シングルフリー観戦記

 

 

オリンピックも終わり、世の中全体があわただしい状況を迎えていますが、皆さま、いかがお過ごしでしょうか? 正直、色々なことが、起こりすぎて、自分で、感動を整理しきれずに、今まで、ブログの更新が止まっていました。

オリンピックで起こったドラマの続きについて、回想していきたいと思います。

 

北京オリンピックフィギュアスケート 女子シングルフリー。かなり、例にもれず、緊迫した状況でスタートしました。

 

ショートから、継続して、トリプルアクセルに挑んできたのは、河辺愛菜選手。ブルーのコスチュームに身を包み、フリープログラムでも、果敢にトリプルアクセルにトライ。惜しくも、成功にはなりませんでした。少し、緊張していたのでしょうか、ジャンプが安定せずに、総合23位が初めてのオリンピックの結果となりました。「選んでくださったのに、ご期待に沿えずにすみません」と謝る河辺選手。個人的には「謝らないで、謝る必要なんかない」って思っちゃいましたね。彼女はまだ若く、オリンピックという舞台が通常の試合と雰囲気が違うことを、初めて経験したのだと思います。SPで、難しい3回転3回転を確実に決め、プレッシャーと戦いながら、大技を決めたり、スケーティングに勢いを感じさせくれたりました。この経験は、決して無駄にはならないと思うし、これからの彼女の財産になると思います。これからも、重圧にめげずに、のびのびと、彼女らしく戦っていってほしいと思います。

 

爽やかでしなやかな音楽表現が印象に残った選手がいます。アメリカのマライア・ベル選手。FP「Hallelujah」は使用する方が多く、メロウなバラードが、気持ちを乗せやすいのではないかと感じる音楽。しかし、この感傷的なバラードはスケートがするすると滑る選手が使用するのでなければ、世界が成立しない危険性があります。しかし、マライア選手は、スピードが最後まで落ちずに、よどみないステップを滑りながら、上体の緩急の付け方が非常に余韻を残すものがありました。プログラムの柔らかい、綺麗な雰囲気を、うまくスケートに溶け込ませていたように感じました。総合10位。結果以上に見る者の心に残る演技だったと思います。

 

韓国のキム・イェリム選手が披露したのは、日本でもなじみの深い演目、「トゥーランドット」難しい3回転ジャンプを難なく決めていくうちに、演技後半の直前、彼女の表情がやわらかくほぐれます。全てのエレメンツがきっちりとタイミングに合って、はまっていたのでしょう。表情や動きからは余裕すら感じられました。演技の盛り上がりと共に、感情も盛り上がれたのが見ていても伝わり、爽快感がありました。この演技で総合9位。終わった後のガッツポーズからも、演技への満足感が伝わりました。

 

オリンピックを楽しんでいるのが、誰よりも伝わってきたのは、アメリカのアリッサ・リウ選手。冒頭のトリプルアクセルを降りた後も、勢いが衰えることはありませんでした。クラシックの演目ですが、とてもアスレチックでスポーティーな印象は若さゆえでしょうか?難しいコンビネーションジャンプを演技後半に入れて、スピードも満点。終始、笑顔の彼女を見ていると、「オリンピックを本当に楽しんでいるのだな」ということが感じられ、こちらも笑顔になりました。シーズンの途中で、コーチが変更になったり、タフにならなければいけない場面もありましたが、自分のやるべきことに集中できていた彼女は、「真のアスリート」そのものだったと思います。総合7位。フィギュア大国アメリカの底力を見せつけてくれました。

 

総合5位に入る快進撃を魅せてくれたのは、日本の樋口新葉選手。冒頭のトリプルアクセル、SP同様に見事に決めきります。次のジャンプでミスがあった以外は、後半のコンビネーションジャンプもうまくまとめて、壮大で、躍動感のある、「ライオン・キング」の世界観を余すところなく、演じ切りました。念願のオリンピックで、団体戦から、個人戦のSP,FPまで、トリプルアクセルは非常に安定感があり、樋口選手の代名詞といっていいほどのクオリティだったと思います。ジャンプに入る前のトップスピードや、全身全霊で曲を感じて滑るステップシークエンスにも、円熟味を感じました。

 

さて、ここからは、メダリストの戦い。表彰台に輝くのは、いったい誰でしょう?

 

3位。日本の坂本花織選手。他の選手に比べて、4回転や3回転はありませんが、彼女の武器は、「演技全部」と言っていいほど、演技に統一感があります。ジャンプの前後のスピード、つなぎの複雑さ、複雑なムーブメントから構成される物語は、「ある大人の女性のプロフィール」。「私は女性でいることが大好き」というナレーションから始まる出だしから、かおちゃんにスイッチが入っていたように感じました。どのジャンプも大きくて、流れがあって、リンクにお花が咲くようにきれい。スケートのスピードも、突風がリンクの中を吹き抜けていくように感じるほど。途中、「強さ」「荒々しさ」と英語でナレーションが入った時、かおちゃんは、笑顔で、ナレーションの一部を口ずさみました。「これが私」と、紹介するように。そのハイライトはとても素敵で、4年前に演じた「アメリ」から、大人の女性へと成長したかおちゃんを見ているようで、うっとりしました。最後までノーミスの圧巻の演技。気が付いたら涙が頬を伝っていました。それくらい、その日のかおちゃん、神がかっていました。

 

2位、アレクサンドラ・トゥルソワ選手。難しい4回転を5本入れてくる、鬼構成。彼女のスタミナには、恐れ入りましたという他ありません。男子の構成でも、おそらくは上位に来るのではないかと思います。いきのいいトビウオが飛び跳ねているかのようなジャンプ力を余すところなく、発揮していました。順位が決まるまでの上位3人が集まる待合室で、樋口選手のネイルを触って、「ネイル、かわいいね~」ってジェスチャーで伝える彼女は、まだあどけなく、演技前と演技後では全く別人なのがすごいですよね。

 

1位、アンナ・シェルバコワ選手。こちらも、高難度の四回転が入った構成。しかし、ジャンプのみを魅せるという演技ではなく、途中のステップシークエンスが凝っていて、スピンの複雑さや、ムーブメントは、やはり、高得点につながるという完成度を見せてくれました。

全選手の演技が終わり、順位が確定した際に、銅メダル獲得が分かって号泣する坂本選手を慰め、日本のスタッフを呼びに行ってくれた彼女。とても思いやりのある素敵な女性ですね。今回のオリンピックでは、なかなか、複雑な気持ちになることも多かったと思いますが、このような聡明な選手が様々な試合以外の争いに巻き込まれるようなことはないようにしてもらいたいな、って、正直、思っちゃいました。

 

 

思い返せば、昨日のことのように、オリンピックでの彼女たちが頭にめぐってきます。

こんな時期なのに、いえ、こんな時期だからこそ、一瞬の間に人生を賭けて舞った彼女たちの演技を堪能して、「素敵」って言葉に出したいって思いました。

夢のような時間をありがとう。そして、いつか、また。そう願わずにはいられません。