表彰台を引き寄せたのは… 北京オリンピックフィギュアスケート団体決勝観戦記

 

 

北京オリンピックフィギュアスケート団体もいよいよ佳境。どのチームがメダルを手にするか、ここから演技を披露するスケーターたちへ、プレッシャーが集中し始めます。

果たして、表彰台に上がるのはどこのチームか? ジェットコースターのような興奮が応援する側にも沸き上がってきます。

 

まず、先陣を切ったのは、ペア・フリースケーティング

 

日本からはりくりゅうこと、三浦璃来・木原龍一組がSPに引き続き出場。

冒頭のコンビネーションジャンプで、三浦選手が一瞬体制を崩しかけましたが、気力で、持ち直し、三連続がきちんと入りました。一瞬、ひやっとしましたが、「絶対、きめてみせる」という、三浦選手の強い気持ちを感じました。大一番、緊張がかかる瞬間に、その後を左右するのは、負けん気の強さだったりするのかもしれません。その後も、難しいリフトや、スローイングジャンプ、全てにおいて思い切りが良く、安心してみていられる完成度。ノーミスで演技を終えた瞬間、二人には安堵と喜びの表情が灯りました。

全体で二位の好成績、日本団体メダルを大きく引き寄せます。

 

フリー一位に立ったのは、ロシアのアナスタシヤ・ミーシナ/アレクサンドル・ガリアモフ組。こちらは、さすがロシアのペアという仕上がりで、リフトもジャンプもステップもスピンも全てにおいて、一味も二味も格の違いを見せつけました。

なんというか、女性を持ち上げるときに男性が「よいしょ」って弾みをつけている感じが全然しないのです。流れの中で、優雅に女性が高いポジションに、自然に上がっていく。それは、肉眼では分かりませんが、相当な筋力を必要とすることだと思います。

このまま、二人がトップにくるな~と、ゆるく見守っている瞬間に、それは起きました。

なんと、難しいリフトのポジション変化の途中、男性がバランスを崩し、女性を落としそうになったのです。男性はとっさに機転を利かせて、女性が危険な状態にならないように、女性の体をかばいながら、致命傷を避ける転び方で、難を逃れました。

そう、彼らのやっていることは、一歩間違えば、大惨事になるような危険なことなのです。そのような、棄権技に挑める技術力をもっていることも、万が一、ミスをしても、女性をかばいながら、うまく転べる対応力も、さすが、トップ選手だな、と感銘を受けました。

 

アイスダンス・フリーに臨むのは、チームココこと、小松原美里・小松原尊組。

演目は「SAYURI」。着物風にあしらった動きのある衣装が、動くたびに可憐に風にそよぎます。曲調に合わせて調和のとれたツイズル。ダイナミックだけれども、どこか、日本女性の品と奥ゆかしさを感じさせる綺麗な形のリフト。日本の芸者の一生を、切なく、妖しく演じ切った二人。このオリンピックの大舞台で、チームココはのびのびと演技をしているな~と心が熱くなりました。日本中いや、世界中が注目する大舞台の場にふさわしい、日本のエースの舞を私たちはずっと覚えていると思います。

 

アイスダンス一位は、アメリカのマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組。息の長いカップルです。演目はダフトパンクメドレー。宇宙を表現した近未来的な振付。演技が始まる前から、マディソンさんの表情は独特な個性を発揮して、その空間を特別な世界に惹きこむものがありました。音楽の始まり、二人の動きのユニゾンは一心同体のようにそろっていて、ステップもキレキレ。高いポジションのリフトは、まるでギリシャ彫刻を思わせる美しさでした。女性は空からやってきた宇宙人という設定だったのでしょうか? ただ美しいだけではない、ミステリアスなストーリー仕立てになっていたのが、印象的でした。きっと、トップ争いが拮抗していく中では「他の誰とも似ていない」独自性というのも大きく、効いてくるのかもしれない、と感じさせてくれました。

 

迎えた最終戦は女子シングルフリー。

日本から登場は日本のエース、坂本花織選手。メダルがかかった大一番。きっと緊張も相当だったことでしょう。しかし、ひとたび音楽が流れると、かおちゃんの動きは、自然に音楽にのっていきました。前半は少し慎重にいった印象もありますが、それでもスピードにのった大きなジャンプは圧巻。飛距離も素晴らしく、加点がもらえるジャンプを連発します。後半に行くにしたがって緊張がほぐれて来たのか、表情にも余裕が生まれ、ステップも力強く、いつものかおちゃんの世界。もう、このプログラムは、しっかり体に入っているのでしょう。ノーミスの演技で、オリンピックの会場に、日本の強き舞姫の存在を、存分にアピールできました。この演技で、堂々のフリー2位。緊張の中でも、完成度の高いパフォーマンスを魅せられるかおちゃんに4年間分の成長を感じました。

 

ロシアの「絶望」カミラ・ワリエワは一人異次元の演技を披露してくれました。演目は「ボレロ」。自分の技術力・表現力にそうとう自信を持っていなければ使うことがためらわれるプログラムです。女子の構成とは思えない。4回転ジャンプ、トリプルアクセル、これで年齢が15歳って、本当にあなたはいくつ神様にギフトを授かったのでしょうか?

このまま、ノーミス行くかと思っていたら、またまた波乱。珍しく後半の4回転ジャンプで転んでしまいました。しかし、もともと異次元構成のワリエワさん。1つや2つのミスぐらいでは、トップの座は揺るぎません。文句なしのフィニッシュを決めた後、少し、悔しそうな顔をしたときに、「これは個人戦、気合入れてくるぞ~」ってぞくぞくしてしまいました。

 

今回の団体戦で日本チームは悲願の銅メダルを手にしました。特筆すべきことは、日本チームは、全ての種目で「選手がノーミスを決めた」ということです。全体的に競技のレベルが上がったこと。そして、団体戦に向けて、各々が絆を結束させて、この素晴らしい結果につながりました。この結果は、これから戦う個人戦にも、必ず生きてくると思います。みんなの「引き寄せる力」に脱帽! さすが、チームジャパン!と、心震えた一日でした。