願い事、叶いましたか? 北京オリンピックフィギュアスケート 男子FP観戦記

 

 

波乱続きの北京オリンピック。男子フィギュアFPが本日行われました。4年間、みんな、様々な思いを胸に日々の練習に励んできたことでしょう。泣いても、笑っても、今日で男子シングルの結果が決まってしまいます。応援していた私、みんなの努力を見続けて、胸がいっぱいになってしまって、お昼のインスタントラーメンが、のどを通りませんでした。

今回は上位4人に加えて私が印象に残った演技も少し、ご紹介して行ければと思います。

 

まずは男子シングル13位に食い込んだ、ラトビアの王子様、デニス・ヴァシリエフス選手。

フリーの演目は、ロミオとジュリエット。冒頭の4回転での転倒こそありましたが、他のジャンプは軽々と、見栄えのする美しいジャンプを決めました。スピンやステップでもレベル4をとり、技と技のつなぎは本当にシームレス。ロミジュリの音楽に自然にとけこみ、切ないラブストーリーの主人公に最後までなりきっていましたね。流れが途切れないプログラムを滑れる彼。4回転がもっと、確率が上がってきたら、必ずや、上位選手の仲間入りを果たすこととなるでしょう。

 

SPジャンプにミスが見られましたが、追い上げを見せたのは、中国のボーヤン・ジン選手。FPで、冒頭、踏切りの綺麗な完璧な4回転ルッツを決めると、音楽に乗って、高難度のジャンプに次々挑みます。最後の3回転フリップでミスがありましたが、ボレロのメロディアスな旋律にのって、ボーヤンは今まで以上にアーティスティックな舞を見せてくれました。スピンステップはこちらもレベル4。もともと備わっていた、ボーヤンなりの表現力が、4年経って、熟成されてきていたのだな、と感慨深い気持ちになりました。演技が終わって、感極まった涙を見せたボーヤン、自身も納得のいく出来でフィニッシュできたのでしょう。私の心の中にも、熱いものが広がりました。

 

流れるようなスケーティングに定評のある、韓国のチャ・ジュンファン選手。冒頭の4回転サルコウで、かなり、痛い転び方をしてしまいます。一瞬、演技中断か?と思いきや、直ちに起き上がり、演技を再開させました。その後は、まるで、最初のミスがなかったかのような熱演。ジャンプを次々に決めると、優雅な所作とスケーティングを随所に披露。見せ場のイナ・バウアーでは、ジュンファンにしか出せない綺麗なラインが出て、プログラムの繊細さが際立つようでした。

 

上位4位の争いも熾烈。

 

SP8位で迎えたフリープログラム。羽生結弦選手は、静かに穏やかな顔でリンクに降り立ちました。彼の戦いのプログラムに、全世界が集中していたことと思います。

冒頭の4回転アクセル。回転はあと少しのところまで到達した状態で転倒。しかし、ダウングレードにはならず、しっかり、4回転アクセル認定されました。これで、羽生くんの目的としていた4回転アクセルは、オリンピック史上初の認定を受けたことになります。それだけでも、奇跡なのに、羽生くん、ミスを引きずらずに物語の世界へと、観客を誘い続けました。ほとんど、助走や構えのない状態で飛ぶ、難易度の高いジャンプ。戦いの剣や矢を交わすように、羽生くんは宙を舞い続けます。後半に行くにしたがって、動きやスピードはさえわたり、プログラム全体からは、特別なオーラが漲っていくのを感じました。その演技は、後続の選手たちにプレッシャーを与えるには、十分すぎるほどの完成度。改めて、羽生くんの圧倒的な存在感を北京オリンピックの舞台でも、示せていたのではないかと思います。

 

日本の宇野昌磨選手。ボレロの激しい曲調に合わせて、こちらも、動きの強弱のメリハリがとても強く感じられるプログラムを演じていきました。練習で不安があった4回転ループ、本番ではカチッとはまり、演技に勢いが付きます。ところどころ、ハラハラさせられるところはありましたが、演技は途切れる感じがせずに、宇野くんなりの流れを感じさせてくれました。最後のステップシークエンスまで、運動量の多い、過酷なプログラムと思われますが、彼自身、このプログラムが気に入っているのでしょうか。気分が乗っているようで、表情や動きは生き生きとしていました。

この演技で宇野くんは、暫定でトップに入り、銅メダル。強い気持ちで2大会連続のメダルを勝ち取りました。

 

SP2位で折り返した、日本の若手、鍵山優真選手。羽生さんが怒涛の追い上げを見せて、宇野くんが暫定のトップにつけて、メダルがかかった大一番。緊張しない訳がありません。よく、「ノーミスで滑れば上位は確定だからノープレッシャーだろう」って言う人がいますが、そんなわけないじゃないですか。ノーミスを決めなければ、っていう状態で大事な場面で滑ることで、「ノーミスの呪縛」というプレッシャーに負けてしまう選手だって、過去に多く見てきました。特に、経験の少ない10代の選手。果たして、どうなるだろうかと、手に汗握っていたら、あれ? 鍵山くん冒頭のジャンプから大きく流れの綺麗なジャンプを決めちゃいます。オリンピックの舞台で、挑戦を始めたばかりの大技4回転ループ。回転は多少乱れ、回転不足気味ではあったものの、この若さで大技にナイスチャレンジ! その他のジャンプも大きな乱れはなく、スピードの中で、気持ちよく決まっていきました。シーズン初めよりも、気持ち、ジャンプとジャンプの間のつなぎが増えたような、動きがより大きく明確になってきているような、そんな充実感が感じられました。短期間でかなりのレベルアップ。若いって素晴らしい。技術的にも文句なしの演技を決めて、残り一人を残し、銀メダルを確定させました。キスアンドクライ、優真くんの横で涙を拭っていた、父正和さん。正和さんの演技から、大分経ちましたね。息子さんのメダル確定は、正和さんの願いでもあったのだろうな、と思うと。私も込み上げてくるものがありました。

そして、最終滑走。ここ数年負け知らずの王者。ネイサン・チェン選手。平昌オリンピックで表彰台を逃した雪辱を果たす舞台に上がりました。

演目は、「ロケット・マン」。エルトン・ジョンの自伝映画のテーマソング。宇宙を思わせるプリントのコスチューム。壮大な物語が幕を開けます。多くの挫折を経験してきたネイサンと、紆余曲折を経てスターダムにのし上がったエルトンの姿が途中からリンクし始めました。難しい4回転フリップや、4回転ルッツ。今日のネイサンは失敗する気配が全く感じられません。とにかく最後まで気持ちを切らさずに疾走感の中で、リズミカルなスケーティングが冴え渡ります。途中、コンビネーションジャンプの3つ目が1回転になってしまったり、ステップで躓いたりしたのはご愛敬。とにかく、ネイサンがお気に入りのストーリーで、ポップにカラフルに、リンクを染め上げていくのを見たときに「金メダル、来たな」と疑いようもなく思ってしまいました。終わってみれば、ダントツの高得点で金メダル。ネイサンが選んだ「ロケット・マン」は極上のドラマを彼に運んできました。

 

ここまでのスリリングな展開は、本当に久しぶり。何が起きるのか、分からないのがオリンピックなのですが、毎回毎回、重みのある試合運びに、見ている方もかなりエネルギーを使ってしまいます。選手一人ひとり、様々な願いを込めて、このオリンピックに臨んで来ていたはず。メダルに輝いた選手も、自分なりに出し切ったと、思える演技が出来た選手も、それぞれが、それぞれの願い事を叶えた瞬間。応援出来たことが特別、幸せでした。まだまだ、オリンピックも盛り上がりを見せていきます。今後の種目でも、一人でも多くの願い事がかなうことを、切に願って止みません。