*「魔物」だったり「天使」だったりするあなたたちへ* 北京オリンピックフィギュアスケートアイスダンスFD観戦記

 

 

独創的な演技の数々で、ドラマティックな世界へと誘ってくれた北京オリンピックフィギュアスケートアイスダンス。本日はフリーダンスが行われました。

レベルの高いトップ争いの中、わずかなミスが命取りの綱渡りゲーム。勝敗の行方はいかに。結末が非常に気になるところですよね。ドラマの続きを振り返っていきたいと思います。

 

RDでゴージャスなエルトン・ジョンプログラムを披露してくれた、カナダのパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組。FDの演目は、ビートルズのナンバー、「The Long And Winding Road」。

ゆったりとしたバラードで、優雅な滑りが展開されます。RDと雰囲気を変えてレパートリーの多さをアピールすることも、競技において非常に大事ですよね。リフトされているギルスさんが、ひらひらと舞い上がる蝶々のようで、衣装も相まって見とれてしまいました。途中、ローテーショナルリフトのポジションがほどけてしまった箇所があって、そこさえなければ、順位をキープしていただろうな、と思いました。総合で7位。1つ順位を下げてしまったのが惜しかった。エレガントで演技力も感じさせてくれるカップルなので、これからも、素敵な演技を期待したいです。

 

RD、勢いを感じる演技を見せてくれたロシア、アレクサンドラ・ステパノワ/イワン・ブキン組。演目は「ロミオとジュリエット」。この二人の動きは、どこかモダンバレエの振付を思わせるところがありますね。ただ、綺麗に演じるのではなくて、工夫を凝らしたインパクトのある動きを随所に取り入れる。そういう二人の演技を見ていると、アイスダンスに新しい風が吹いているのかな~と感じてしまいます。しかし、コレオスライディング、お互いが、膝をついて滑る箇所で、事件は起こりました。女性エッジが外れてしまって、バランスを崩しかけたのです。とても高難度の技に挑んでいて、ギリギリの状態なのでしょう。しかし、そのギリギリをミスしてしまうか、制することができるかで、順位は大きく変わってしまう。とてもシビアです。総合で6位。1つ順位を落としましたが、個性的なロミオとジュリエットを氷上に届けてくれたと思います。

 

イタリアのカップル、シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組は、RDのマイケルジャクソンプログラムとはうってかわって、エレガントなムードのフリーダンスを披露してくれました。ローテーショナルリフトのスピードと飛距離がとてもすごい。どのリフトも女性が美しい姿勢を保っているけれど、支えている男性はかなり力業のはず。そのように見せないところに技術力の高さを感じます。イタリアの映画は、男女の絆や、人生の深さなど、エモーショナルな内容を伝えてくれる作品が多いのですが、このカップルの演技を見ていると、イタリア映画を見ているかのような印象を与えてくれて、表現面もすばらしいカップルなのだと思いました。総合5位。2ランクアップの快挙をオリンピックで魅せてくれました。

 

メダル争いが熾烈になってくる最終グループの中で、フリープログラム、「Daft Pankメドレー」を披露してくれたのはアメリカのマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組。宇宙人との恋物語?という斬新なテーマは見る者の心をつかんでくれました。リフトで持ち上げられる時にマディソンさんが、「魔物感」をだすところが非常につよく印象に残ります。

総合4位。惜しくもメダルには届きませんでしたが、個性的な存在感をRD、FD共に、発揮してくれました。

 

ここから、メダル獲得者の演技へと続きます。

 

3位に入ったのはアメリカのマディソン・ハベル/ザカリー・ダナヒュー組。フリーは、柔らかな愛の物語。その中でも、スピードやパワーを随所に感じることが出来ました。ミスもほとんどなく、リフトの体重移動のスムーズさが際立っていました。今季を引退と決めて臨んだ演技。最高の幕引きが出来たのではないでしょうか。

 

惜しくも銀メダルだったのは、ギリギリまで僅差で戦っていた、ロシア、ヴィクトリア・シニツィナ/ニキータ・カツァラポフ組。選んだ演目はラフマニノフの王道ナンバー。個性的なプログラムが続いた後で、こういう、正統派なクラシックの選曲は、かえって新鮮に思えます。白と黒のコスチュームに身を包み、ピアノの旋律と戯れるように滑りぬけていく彼らは、光と影のような、天使と悪魔のような、相反するイメージを紡ぎあげていきました。このクラシックの曲調は、二人の技術の正確さを表現するのに、ふさわしい曲だったと言えるでしょう。

 

そして、そして、ようやく彼らの登場です。フランスのガブリエラ・パパダキス/ギョーム・シゼロン組。冒頭から、大人のムードで演技が始まります。ツイズルでの二人の距離の近さはフリーでもいかんなく発揮されます。リフトの移動でも、スピンでも、どんな時も美しいガブリエラ。そのガブリエラの美しさを表現するには、男性のギョームの巧みなサポート力が必須です。常に、女性を目立たせて、自分は影に徹するけれど、完璧なリードを見せてくれる。最初から最後まで、男女の愛の物語を、すごいスピードで表現しつくして、堂々の金メダルです。圧倒的でした。フランスカップル金メダルは、20年ほど前のオリンピックでアニシナ・ペーゼラ組が成し遂げた以来。そう思うと、感慨深いものがあります。

 

フリーダンスでも、スケーターたちは、自らの魅力を随所にちりばめたプログラムで私たちを楽しませてくれました。プログラムへのアプローチによって、彼らは「魔物」にも「天使

」にもなり切ることが出来ます。たとえ、演じる姿が「魔物」であっても、「天使」であっても、常日頃、取り組まなければいけない課題も、努力も、同じ。そういった血のにじむ努力を真の意味で極めたものだけが「真の王者」になれるのだと、私は思います。

悲しい結末も、ハッピーエンドもアイスダンスで見ることが出来ました。今後、更なるドラマの続きを、明日から始まる女子シングルで、目撃することになるでしょう。どうか、ピュアな願いを込めて、戦いの続きを見守ろうではありませんか。