美しさが磨かれるとき 世界フィギュア2022 思い出話2

 

 

暖かい春風が吹き始める中、世界フィギュアが幕を下ろしました。思い出を綴ろうとしていたのですが、日々の雑事に追われる中、観戦だけが精いっぱいでブログの更新が途絶えてしまいました。

フィギュアスケート世界選手権、忘れてはならないのは、フィギュアはシングル競技だけではない、ということ。先に行われた世界フィギュアでも、美しい演技の数々に、私たちは魅了されていました。

今回は、カップル競技を中心に、振り返っていきたいと思います。

 

まずは、ペア。 

 

波乱があったのは、アメリカ代表 アシュリー・ケイングリブル、ティモシー・レデューク組のFP演技の時でした。

 

SP、二人の演技は、静かな音楽の中に、スピードが加速していく、メリハリの効いた印象を与えてくれるものでした。リフトで、女性のポジションが美しく、彫刻を思わせるようで、どのようなポジションでも、女性を美しく魅せる、アメリカの伝統的なペア、という雰囲気の二人。SP2位で折り返していたのです。

FPで、度重なるミスの後、リンクに倒れこみ、そのまま途中棄権。どうやら、女性の脳震盪によるものだったとのこと。二人の動きの同調性等、優れた技術が随所に見えるペアだったのですが、非常に残念な結果に終わってしまいました。途中で、女性がけいれんしているように見えて、息が止まりそうになりました。幸い、ケイングリブル選手は、後に回復したことを公表してくれたので、また、二人の元気な姿をリンクで見られるように祈っています。

 

銅メダルに輝いた、カナダのバネッサ・ジェームズ、エリックラドフォード組。お互い、違うパートナーで実績のあった二人。最初から最後まで流れが途切れないプログラムをSP、FP共に披露してくれました。ペアを組み始めてまだ、間がない二人。すでに十分な経験を積んでいる者同士、これから、ますます、活躍が期待されます。

 

なんといっても、日本のスケオタが待ち望んでいたのは、日本のエース、三浦璃来・木原龍一ペア。「りくりゅう」の愛称で親しまれている二人は、今回、どんな演技を見せてくれたのでしょうか。

 

SP、エモーショナルなバラードナンバーに乗せて、冒頭のツイストリフトは高々と上がりました。ソロジャンプもきちんとそろえて、二人は流れに乗ります。なんといっても、滑っている二人が終始楽しそうなことがとても印象的。二人の間に通う確かな信頼関係、そして、爽やかな笑顔が、リンクを笑顔で満たしていきました。ただただ、二人を見ていると、スポーツっていいな、楽しいなって思わせてくれる、そんな健康的な美しさを秘めている二人。SP3位と最高の滑り出しを見せてくれました。

 

FP、緊張があったのでしょうか、少し、ミスが重なりました。そんな中でも、シーズン初めから磨き抜かれた、難しいリフトは少しも色あせることなく、随所に、世界トップレベルの技を繰り出して、総合2位を果たします。演技が終わった後、緊張感がほどけたのでしょうか。木原選手はしばらく、リンクに座り込み、立つことが出来ませんでした。そんな、木原選手を、心配そうに見つめる三浦選手。やっとの思いで立ち上がり、お互い笑顔になった時、長い戦いを支え合いながら乗り越えた、二人のパートナーシップを見たような気がしました。総合2位で、世界選手権日本ペア初の銀メダルを獲得したのは収穫でしたね。

 

SP、FP共に一位はアメリカの選手。アレクサ・クニエリム、ブランドン・フレイジャー組。

SPでは、ミスのない、パーフェクトな演技で、観衆を魅力の渦へいざない続けます。リフトの女性のポジションの美しさに加えて、降り方にも複雑なターンを入れながらの工夫が見られ、トップレベルの技術を見せつけてくれました。

 

FPもまた、ノーミスのパーフェクトな演技。デススパイラルの前に、ちょっとしたリフトを入れるなど、技の前後に凝ったつなぎをいれているから、技の難易度や出来栄え点でも、点数が上がっていくのもうなずけます。正直、同国のペアのアクシデントによる、途中棄権があって、かなり動揺していたことでしょう。その中でも、きっちり、自分たちのベストのパフォーマンスを発揮した後、二人は歓喜の涙で泣き笑い。見ているこちらまで込み上げてくるものがある、フィニッシュでした。

 

そして、アイスダンス。オリンピック後の疲れが残る中とは思えない、ハイレベルな戦いがそこにありました。

 

総合3位は、アメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組。

RDはビリーアイリッシュメドレーで、すこしダークかつ魅惑的なナンバー。全てにおいて、女性が男性を誘っているような怪しげな香りが技の随所にちらつきます。リフトでは、女性が支配的なポーズで周回するところが象徴的でした。美しいだけではない、不思議なエネルギーに満ちた二人。

FDでは、エイリアンがテーマのプログラム。Daft Pank メドレーの中、エイリアンと遭遇した宇宙飛行士という設定を、リフトやスピンの中に、個性的に織り込んでいくのが見えました。こういう、個性を演出するプログラムは、確かな技術があるからこそ、見ごたえのするものなのだと思います。二人は、技術力と個性を両立する世界を見せてくれました。

2位もアメリカのマディソン・ハベル、ザッカリー・ドノヒュー組。

 

RD、ジャネットジャクソンメドレーのパワフルでノリノリのナンバー。 音にピタリと合ったツイズルとパワフルさの中に垣間見える深いエッジワーク。技術が正確で、一つ一つの音の拾い方も余念がありません。正直、オリンピックの時よりも更にパワーアップしていたと思います。

 

FDはRDとは対照的にゆったりとしたバラードナンバー。優雅に滑りながら、力がどこにも入っていないリフト。スピンから直ちに体勢を変化させる時も、弾みをつけているようには全く見えません。静かな曲の中でスピードを加速させて滑るというのも、技術力がいることだと思います。始めから、終わりまで、二人の愛の世界を堪能することが出来ました。

 

そして、お待ちかね、完全優勝はフランスのガブリエラ・パパダキス、ギョーム・シゼロン組。

 

RDではお互い、対の鏡であるかのようにぴったりそろったツイズル、リンクをエッジワークで進んでいくときのエッジは常に深く傾いていて、難しいことをしているのに、さも簡単なように終始見せてしまいます。ところどころ、ゆったりとしたリズムや、激しさのあるリズムに合わせて、自由自在にスピードを変えていく彼らは、本当にレベル違いの滑りを見せつけてくれました。

 

FD、男女の「愛」がテーマになっているかのような振付を二人はただただ、正確なテクニックで滑りぬけます。ツイズルを行ったときの進む速さと飛距離。重心の低いリフトも高々と持ち上げるリフトも女性は演じることに手を抜きません。もう、技術がずば抜け過ぎていて、ただただ、二人が紡ぐ、大人の「愛」の世界を堪能できた、という感じ。正直言って、リンク上の二人は「滑る宝石」だったと思います。

 

カップル競技を追いかけていくと、上位陣、どのカップルも、磨き抜かれた技術と得も言われぬ表現力で、私たちを魅了してくれました。美しさとは、やはり卓越した技術力と内面性の深さから導き出されるものなのだと改めて思います。表情の「華」も、努力なしでは咲かせられません。

 

来シーズンも、それぞれの美しさに磨きをかけて、私たちを惹きつけ続けてくれることを、楽しみにしています。