スポットライトのその先 世界フィギュア2022 思い出話3

 

 

いよいよ、新年度の始まり。新しい季節に向けて、新たに一歩踏み出す方も、多い今日この頃ではないでしょうか? フィギュアシーズンを振り返れば、オリンピックイヤー、そして今回の世界フィギュアとハイレベルな戦いが続き、非常にエキサイティングなシーズンだったと思います。

 

世界フィギュア思い出話もいよいよシングル競技に差し掛かりました。ヒーローとヒロインたちの熱戦を思い起こしていきたいと思います。

 

まずは、女子シングル。

 

日本の若手、河辺愛菜選手。SPでは回避したトリプルアクセルに果敢に挑んでいきました。惜しくもオーバーターンになってはしまいましたが、スピードにのった高いジャンプに見えました。流れをコントロールできれば、また、全日本の時のような素晴らしいジャンプを決めることが出来る、そのような伸びしろを感じられた演技だったように思います。伸びやかなイーグル、エッジが氷にのっていたスケーティング、随所に魅力を発揮することが出来たので、これから、場数を踏んで、更に成長を期待したいと思います。総合で15位に入りました。

 

トリプルアクセルが持ち味の樋口新葉選手。怪我の影響だったのでしょうか、少し、いつもの勢いが感じられず、冒頭のトリプルアクセルで転倒。その後も、いくつかジャンプミスがあり、総合で11位。ただ、きまったジャンプはスピードに乗って、回転もきれいでしたし、音に合わせる動きのアクセントに独創性を感じました。躍動感のあるステップシークエンスでも、客席を魅了していくのが伝わってくるスケーターです。非常にエネルギーを使った、ワールドであったと思いますが、また、次の試合に向けて、ゆっくり休んで、万全のコンディションで臨めることを祈ります。

 

総合4位に入ったのは、日本でも大人気、アメリカのマライア・ベル選手。ところどころ、回転不足が響き、一つ順位を落としましたが、美しいスピン、音楽と一体となったスムーズなムーブメントなど、魅力も光りました。全体的に、あっという間に終わってしまうのは、総合的に魅せる力が高いということかもしれません。ベテランならではの雰囲気づくりも巧みな選手です。

 

銅メダルは、アメリカのアリッサ・リュウ選手。SPからの逆転劇でした。冒頭のトリプルアクセルを見事に決めた後、ジャンプが次々に決まり、安定の技術力を見せつけます。今シーズンは、コーチの変更、自身のコロナ感染等、厳しい戦いのシーズンだったと思います。枠取りがかかった大事な一番で、実力を発揮できるそのメンタルの強さ。非常に今後がたのしみな選手です。はちきれんばかりの笑顔で滑りぬいた後、我に返って、泣き崩れる彼女から、まだ、10代のあどけない少女を垣間見たような気がします。この結果は、彼女にとって、非常に意味のあるものだったと思います。

 

銀メダルは、ベルギーのルナ・ヘンドリクス選手。大人の雰囲気が持ち味の選手です。全てのジャンプで、両手を上げて飛び上がるタノスタイル(アメリカのブライアン・ボイタノ選手が始めたことでこのボイタノジャンプと呼ばれています)を多用し、ポイントを積み上げていきました。ステップで、氷の上を進む際には、片足滑走が多く、漕ぐところの少ないスケーティング力を発揮。ベルギー初のメダルを獲得。本人もかなり感極まっていたキスアンドクライが印象的でした。

 

そして、金メダルは、オリンピックに次ぐ、快進撃を見せた、坂本花織選手。このFP、大人の女性の力強さ、自由さを余すところなく発揮するプログラムなのですが、何しろ体重移動が多く、普通に滑るだけでも、ぐらぐらしそうなのに、かおちゃん、すごいスピードで、簡単そうにステップやコレオシークエンスをやってのけます。ジャンプもトップスピードで、入り方の難しいジャンプを決め、SP同様、そこに舞姫がいるかのような優美さ。終わってみれば、155点台の高得点。今シーズン、主要な大会で、ほぼノーミスを続け、シーズンの締めくくりでも自己ベスト更新。彼女の取り組んできたことが、全て花となり実となる結果になりました。

 

続いて、男子シングル。

 

今回、急遽代打出場が決まった友野一希選手は、穏やかな表情でスタート地点に立ちました。

SP、会心の出来で、初の100点台を出し、総合3位につけた友野くん。FP、ラ・ラ・ランドでは、練習の時間が十分ではなかったのでしょう。ところどころミスが響き、総合6位に。しかし、終始、キレとスピードを感じさせるスケーティング。なによりも、ラ・ラ・ランドの楽しい音楽を体中から奏でているかのようなコレオシークエンスでは、会場の声援が自然に沸き起こりました。試合を忘れさせるかのような友野くんにしかできない華のあるスケーティング。世界中が友野くんに「気が付いた」瞬間を見たような気がします。この結果は必ず、次に生きてくると思いました。

 

総合5位に入ったのは、今回、上位では唯一ノーミスのFPを披露した、アメリカのカムデン・プルキネン選手。高くて幅のある、ダイナミックなジャンプと、のびのびとしたスケーティングが持ち味のカムデン選手。今回は、男らしさとワイルドさが持ち味のカッコいいプログラムで、会場をカムデンの色に染め上げていきました。ずっと、ポテンシャルの高かったカムデンが、ここワールドにきて、覚醒したのを見た気がしました。来季、末恐ろしい存在になりそうです。

 

銅メダルはオリンピック、コロナ感染により棄権したアメリカのヴィンセント・ジョウ選手。

オリンピック後、かなり精神的に落ち込んで、難しい調整の中、挑んだ世界フィギュアでした。とにかく、後悔を背負って生きていきたくはない、その一心で臨んだ今大会。このプログラムは以前の世界選手権で銅メダルを獲ったいい思い出のあるプログラム。全体的に動きが体に馴染んでいたと思います。後半に行くにしたがって、ジャンプも動きも研ぎ澄まされていきました。このプログラムを通して、ヴィンス自身のこれまでと、「今」を精いっぱい生きるヴィンスが伝わって、強い感動を与えてくれました。今回、おそらく無欲で臨んだ、FP、うれし涙を流せる結果になったことは本当に良かったと思います。

 

銀メダルは、日本の鍵山優真選手。大事な大一番の瞬間、彼は、大きく息を吐きました。こんなに、緊張していた鍵山くんを見たのは、おそらく、初めてだと思います。しかし、はじまってしまえば、スピードに乗った流れのあるジャンプを次々に決めていきます。挑んでいった4回転ループは回転がほどけてしまい、ダウングレード。最後のトリプルアクセルも、回転が抜けてしまうミス。ところどころ、惜しいところはありましたが、ミスを最小限に抑えて、オリンピックに次ぐメダル確定。今季は収穫の多い年になったのではないでしょうか。

 

金メダルは日本の宇野昌磨選手。最初から、落ち着いた雰囲気で演技が始まりました。中盤で決めた4回転フリップが、順位を確定したような気がします。ボレロはとても運動量の多いプログラム。優勝を決めたインタビューで、「こんなに大変なプログラムを滑り切れたのだから、今後、どんなプログラムがきてもこのプログラムよりは楽だと思う」とコメントし、コーチのステファン・ランビエールさんから「昌磨、今後さらにステップアップしていくから、楽になることはないよ」と間髪入れずにツッコミがはいっていたのもまた、興味深い一こまでした。

 

様々な感動とドラマがつまった、世界フィギュアも終了し、また選手たちは新しいシーズンに向けて、アイスショーに、練習にと、大忙しの日々が待っています。今回は、今まで、なかなか注目されずに来た選手たちに、スポットライトが当たったと感じる瞬間が数多くありました。一旦、スポットライトが当たった選手たちは、その後、大きく飛躍を遂げることが増えていく。それがこのフィギュアスケート。悲喜こもごもの結果の中、どうかこれからも、頑張っている選手が一人でも多く、スポットライトが当たるようにと、願ってやみません。