Growing up is glory. スケートアメリカ観戦記3

スケートアメリカも、いよいよ最終日。戦いが進むにつれて、毎回様々な感動の場面が繰り広げられました。
やはり、オリンピックシーズンだからでしょうか。今年のグランプリシリーズは、しょっぱなから、ドラマティックでした。
3日目、まずはアイスダンス 小松原美里・小松原尊(ティムコレト)組。
RD(リズムダンス)では、少し、慎重にエレメンツを行っていたかな~と思い、硬さを感じて心配になっていました。
しかし、FD(フリーダンス)、彼らが演目に選んだのは映画「SAYURI」。控えめで、でも抑えた中に激しい情念を秘めたダンスでした。
リフトされる美里選手、とても神々しさをまとって、エレメンツのこと、正直すっかり忘れて見入ってしまったのです。
日本人カップルとして、この凛とした世界観を出せるのは、チームココ(二人の愛称)しかいない。
そう思わせてくれるほど、はまりプロに感じました。今後、このプログラムは、どこまで、私たちの心を魅了し続けてくれるでしょうか。
二人はFDで順位を二つ上げて6位入賞を果たしました。デビュー戦で、早くも彼女たちの存在感を世界に示すことができたと思います。

女子シングルフリー。横井ゆは菜選手が登場。「クイーンメドレー」を演じていた時に、私は今まで見た事のない彼女の姿を目にしたような気がしました。
冒頭から、クイーンメドレーということもあり、お客さんは大盛り上がり、彼女のジャンプが決まるたびに歓声が沸き上がります。
正直、このクイーンメドレーは、シーズン前のアイスショーで披露していた時は、なかなか、技が決まらずに苦戦していたように見えました。
本人も、シーズンが始まる前は弱気な発言をしていたこともあり、シーズン序盤の国際試合、かなりの緊張があったと思います。
けれども、お客さんは彼女の演技を気に入って、「いいよ!頑張れ!」と言っているかのような声援を彼女に送り続けました。
その温かい空気の中で、彼女の動きからは硬さが消えていきました。音楽に自然に体が動いていた横井選手から、なにか、開放感のようなものを感じました。
観客と、音楽と、彼女。全てに一体感が生まれ、途中から、彼女が滑ることに喜びを感じ、感極まっているのが伝わってきたのです。
その瞬間の印象は、言葉では言い表せません。無垢な喜びと、試合を通して、これまでの殻を破れた横井選手がそこにいて、思わず涙腺が緩みました。
順位とか、点数ももちろん試合では大事です。けれども、今まで頑張ってきたことを最大限大事な試合で出し切れた喜び。それを目撃できたことは、
結果とはまた別の感動でした。国際試合で、いい演技で締めくくれた経験は、彼女のこれからの財産になるような気がします。
今まで、見た、彼女の「クイーンメドレー」の中で、最高の演技でした。

更に、ハイライトは宮原知子選手。深紅の衣装に身を包み、ミュージカル「トスカ」を披露してくれました。
もともと、スケーティングに定評のあった、宮原選手。このプログラムは、彼女のそれまで、なかなか見せてこなかった熱い想いが
滑りを通して、伝わってきました。ジャンプとスケーティングが見事に溶け合って、プログラムに起承転結を運んできます。
彼女もまた、コロナの影響で、思うように氷上で練習できない日々を経験した選手です。
練習ができない中、室内でダンス練習に取り組んだり、ローラースケートでスケーティング練習を積んだり、
苦しい中で地道なトレーニングに励んでいた経験が、このシーズン初戦で花開いたのでしょう。
全ての動作に無駄がなく、プログラムの強弱も自由自在。大人の女性の情念をこんなにも自然にスケーティングで表現できるなんて、すごいと思いました。
高級品を見ているような感覚とはまさにこのこと。
演技が終わって一瞬の静寂の後の拍手喝さいが、彼女の演技のすばらしさを物語っていました。

そして、日本人最上位に輝いたのは、坂本花織選手。
ブノワ・リショー振付のこのプログラムは非常に難しい体重変化のステップが続く、なかなか難易度の高いプログラムでした。
テーマは終始、「強い女性」。体力的にも厳しい状態で、高難度のジャンプやスピンが待っている「鬼プロ」。
予選や、グランプリシリーズの前哨戦では、このプログラムを体になじませることに苦労していた場面も見受けられました。
しかし、演技が始まってみると、そんなこと、微塵も感じさせないかおちゃんの姿がそこにありました。
時に強気な表情で、時に女神のような優しい笑顔で。表情に気を配れる余裕があるほどに、全てのジャンプがタイミングよく、大きく決まり、
ショートプログラムの「グラディエーター」とのいい対比が生まれました。今回初めて、SP、FPのテーマが明確に伝わってくるような
演技内容だったのではないかと思います。短期間でよくこんな難しいプログラムをものにしたな~と、ただただ脱帽です。
これからもっと、細かい部分をブラッシュアップさせて、新しい坂本花織のはまりプロとして昇華させていってほしいと願わずにはいられません。

私が、この3日目で強く感じたのは、選手一人ひとりの「短期間での成長」でした。
オリンピックシーズン、特別な緊張が冒頭の試合から、会場を覆っていたと思います。
けれども、選手たちは、決してあきらめることなく、会場の空気や緊張感と向き合って、レベルアップした演技を披露してくれたのです。
うまくいかなかった時期などを乗り越えた最高のパフォーマンスの数々に、本当に感動しました。
まるで、拍手で生き返るティンカーベルと、拍手を送り続ける、子供たちのように、今大会は非常にドラマティックでした。
試合ごとに、きっと違う感動が待っていると思います。そして、様々な感動の中で、王者が決まっていくのです。
どうか、みんな、最後まで無事に滑り切れますように。次の栄光の瞬間を心待ちにしています。また、スケートカナダでお会いしましょう。