ドラマのクライマックスは… 世界フィギュア2022思い出話4

 

 

世界フィギュア思い出話も、4シリーズ目。今回は最終日に行われた、エキシビションの模様について、触れたいと思います。滑走順は、プログラム親交のまま、順不同となります。

 

アイスダンス銅メダル アメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組。試合では、奇抜な衣装に超個性的な振付が際立った二人でしたが、EXでは、しっとりとしたバラードナンバーを披露。エレガントなリフトやスケーティングで客席を魅了しました。お互い、力の強弱や、ペース配分を十分に熟知しているだろうことが、演技中のほどよいゆとりから感じることが出来ました。二人を映すスポットライトが白いハートマークに見えて、演技の余韻も味わえるのがEXならでは。

 

女子シングル4位 アメリカのマライア・ベル選手が披露したのは、「レディ・ガガメドレー」。彼女には、ノリノリの洋楽ポップスが良く似合います。シャンパンゴールドの衣装に身を包み、首筋から、肩の使い方で、軽快なリズムをさりげなく表現。特に「Rain on

Me」がかかった時は、動きがのって、躍動感が感じられました。とても、キュートなマライアのショーナンバー、試合同様に魅せ方を知っている選手です。

 

男子シングル銅メダル アメリカのヴィンセント・ジョウ選手。フェニックスを思わせる衣装で滑るのはIllenium の「Lonely」という曲。切なく焦がれる恋心がテーマのこの曲。最初は控えめな動きから始まり、中盤では激しくもがきながら、飛び立つ火の鳥を連想させます。オリンピックからワールドまで、彼はどれだけ悩み、苦しみ、それらに耐えて来たでしょう。ファンミーティングに参加したり、インタビューを読ませて頂いたりした際に、ヴィンスは普段、感情を抑え目にしている人なのかな?と感じることがありました。きっと、周囲を気遣い、わがままが言いたいと思っても、胸の内に秘めてしまいそう。そう感じさせるヴィンスは、スケートの表現の中で、自らの激しさや情熱を外側に放出させているように見えました。どことなく、妖しく、切なく感じるこのプログラムはセルフ・コレオとの噂。彼の代表作に加わる予感がします。

 

 

ペアシングル銅メダル カナダのヴァネッサ・ジェームズ、エリック・ラドフォード組。難しいスローイントリプルルッツを中盤で決める、試合さながらのレベルの高い構成。動きのシンクロもゆったりとした曲に合わせて加速。試合ごとに演技ごとに、ペアを組んで間もないとは、思えない技術力のレベルアップが感じられます。アーティスティックな魅力に富んだ二人。大人の情感を感じさせてくれました。

 

 

男子シングル6位 日本の友野一希選手。演目はサラリーマンの日常を演じる軽快なナンバー、「Bills」。今回、急な世界選手権出場の連絡を、前試合開催地の空港で聞かされた友野選手。EXの衣装を持参していなかった彼は、フジテレビのスタッフさんに頼んで、フランスの地で、衣装を調達。小道具のかばんもなく、フランス出張ということで、スーツケースを代用して、ぶっつけ本番で臨んだとのこと。しかし、不思議なことに急場とは思えぬほど、その場の雰囲気に馴染んでいたのです。今季は、「海外出張」がとにかく多い年でした。イタリア、ロシア、エストニア、そして最終出張はフランス。出張の締めくくりはリクルートカバンから、スーツケース。まるで、新卒の社会人が、キャリアを重ね、大きなプロジェクトを次々と任され、孤軍奮闘、海外出張を成功させる、というストーリーに、小道具もばっちり合っていましたね。今シーズンの友野くんの物語がリアルに伝わってきました。会場からは、割れんばかりの拍手と歓声。終わってみれば、世界を振り向かせた友野くんがそこにいました。

 

アイスダンス 5位 カナダのパイパー・ギルス、ポール・ポワリエ。生演奏による演目は「Starry Starry night」。美しいメロディーに乗せて、抑制された情熱がほとばしるプログラム。随所に凝ったリフトやスピンを織り交ぜ、オリジナリティーを感じさせてくれました。個性と優雅さ両方兼ね備えているのがこのカップルの魅力です。

 

EX後半はメダリストたちの更に激しさを増した演技の数々。

 

男子シングル銀メダル 日本の鍵山優真選手。演目はMisiaで「明日へ」。今どきのJpopをエキシに選ぶ辺り、彼の若さを感じますね。ところどころ、足首の柔らかさや、流れるようなスケーティング等、見せ場を作ります。見ていて、少し思ったことは、このプログラム、Tシャツとデニムで滑ったら、どんな風に見えるだろうということ。彼の若さがもしかしたら、もっと、引き立つかもしれないなどと、個人的に思ってしまいました。10代で、オリンピックに次ぐメダルを獲得。これから、更に個性に磨きをかけていく彼に期待しております。

 

女子シングル銀メダル ベルギーのレオナ・ヘンドリクス選手。なぜか、滑っているときに、しきりにイタリアのカロリーナ・コストナー選手を思い出しました。スケーティングの伸びやスピードがどこか似ていたのかもしれません。勢いよく、ドリルのように滑りぬけるツイズルは非常に見応えがありました。

 

ペア銀メダル りくりゅうこと。日本の三浦璃来・木原龍一組。最初のツイストリフト高い! 流れの中で飛ぶスローイングジャンプも軽々。試合と同じクオリティで技が次々と決まっていきます。プログラムの後半では、非常に危険な力技も2か所ほど披露。メダルが決まってのエキシで滑ることがとてもうれしい、という思いが、演技を通して伝わってきました。爽やかな二人の風がリンクを吹き抜けます。最初から最後まで、笑顔で溌溂としたEXでした。

 

アイスダンス 銀メダル アメリカ マディソン・ハベル、ザッカリー・ドノヒュー組。マディソン選手の花柄のコスチュームが甘い雰囲気を醸し出します。ローテーショナルリフトはとても早く、一歩間違えば危険な技。それをまるで難しいことなどしていないかの如く、魅せてしまうのはさすがです。リフトをされているときの女性の美しい姿勢をキープする力なども、上位に入るのに、必須なスキルなのだということを感じました。

 

 

女子シングル 金メダル 日本の坂本花織選手。演目はセレーナゴメスのセンチメンタルなバラードナンバー、「Lose to love me」。 このように静かなバラードナンバーの中でも、溜めたり放出させたり、エネルギーのコントロールが巧みなかおちゃん。ジャンプも後半にトリプルフリップを入れたり、ジャンプを連続でこれでもかと入れたり、EXだからと言って手を抜かないところが、さすが、金メダリスト。どんなタイプの曲も陰と陽の演じ分けがはっきりとされており、いつまでも見ていたい気持ちにさせてくれるスケーターです。

 

ペア金メダル アメリカのアレクサ・クニエリム、ブランドン・フレイジャー組。再三申し上げますが、この二人のリフト、女性の上空におけるポジションの美しさは類を見ないものがあります。良い意味で、昔ながらのオーソドックスなペアスケーターの存在感を感じるのです。リズムの捉え方も非常にエレガント。全ての技が綺麗でまとまっているってこんなにすごいことなのだと感じさせてくれました。

 

男子金メダル 日本の宇野昌磨選手。演目は「マイケルジャクソンメドレー」。今回のEX、ワールド金メダリストになったことが、やはり嬉しかったのか、いつもよりも楽しそうに滑っているように見えました。マイケルジャクソンの音楽が気に入っているのか、リズムの乗せ方、体全体で音楽を感じている表現が印象に残りました。

 

アイスダンス 金メダル フランスのガブリエラ・パパダキス、ギョーム・シゼロン組。

冒頭、飛び上がった女性のパパダキスを男性シゼロンがぶれずに受け止めて、リフトからスピンをする、という、簡単そうに見えて難しいことから演技が始まりました。重心の低いリフトでも、二人の体勢は崩れることがありません。お互いの体幹がしっかりしているからこそ、エッジを傾けたステップや、軸の取りにくいリフトも軽々とやってのけられるのでしょう。全てのエレメンツが金メダル級であっというまの数分間。競技者としてはこの演技が最後になるとのこと。今後はアイスショーでその確かな技術を再び見せてほしいと思います。

 

世界フィギュア2022のエキシビション、忘れられないドラマのクライマックスが私たちを感動へといざなってくれました。それぞれが培ってきた技術と経験が、名演技へと昇華されていくのを見ているのは、本当に夢のようにうれしいことです。

そして、祈らずにはいられません。また、平和な世の中で、このような素晴らしい試合が開催されることを。