惜しみないアンコールを彼らに…グランプリシリーズフランス大会観戦記

 

 

いやはや、ドタバタしています。フィギュアスケートシーズン前半戦。あちこちで試合が行われていて、あちこちで火花が散っています。そう、いつも寒いはずの冬はスケオタシーズンにとっては熱いのだ。毎年のことなのですよ。戦いがヒートアップしていて、誰が王者になるのか読めなくて、推している選手の応援も興奮状態になっていくので、少々疲れてきたりもするのです。しかし、疲れたなんて、言っていられません。選手たちは真剣勝負の真っただ中。フランス大会でも素敵な演技がいっぱい見られました。全員はさすがに追いきれませんが(ごめんなさい)心に留まった瞬間を綴っていきたいと思います。

 

まずは女子。今回印象深かったのは、マライヤ・ベル選手。アメリカのスケーターです。

ショートプログラムはRiver Flows in You。心にしみ込むような静かな旋律に乗って、流れるようなスケーティングを見せてくれました。彼女のスケーティングってまるで、音楽みたい。そう思わせてくれるのは、リズム感がいいからでしょうか。音楽と動きが一体となっていて見ている私たちに爽快感を与えてくれます。フリーは「ハレルヤ」この曲、大好き。割と名プログラムの多い曲です。赤いコスチュームに身を包んだマライヤは成熟した大人の女性の滑りを披露してくれました。ところどころ、回転不足をとられて、惜しかったところもありましたが、全体的に演技をまとめてきて、しっとりとした余韻を残していたと思います。キスアンドクライで、アダム・リッポン選手(この選手も素敵な選手でした)と談笑しているのを見て、納得。天性の音楽を表現する力のあるアダムがコーチならば、音楽表現に秀でていたのもうなずけます。

そして、個人的に今回一押しの女子スケーターは日本の樋口新葉選手。ショートは「Your song」。優しい曲調で優雅に滑り始める樋口選手。アクセルジャンプは残念ながら抜けてしまいましたが、スピード感あふれる滑りが心地よかったです。曲がどんどん盛り上がるごとに動きや表情もダイナミックに演じていきました。この曲の持つ、「愛のテーマ」を彼女なりに感じとっているのだなということが伝わりました。

フリーが度肝を抜かれます。「ライオン・キング」。冒頭のトリプルアクセル、見事!これ以上にないくらい、回転も着氷もきれいな、お手本のようなトリプルアクセルが決まりました。他のジャンプも華が咲いているのかと思わせるほど、綺麗な回転です。躍動感のある曲調が動きとシンクロして、ミュージカルを見ているみたいに気持ちが盛り上がりました。10代の頃から、「天才」と言われていたジャンプ力とスケーティングを持つ樋口選手。天才が努力をするとこのような見事な演技になるのだと、みんなに思われたと思います。個人的に、どうしてあの点数だったのか分かりません。もう少し、高得点が出ても良かったのではないかと思います。でも、今後ますます、彼女の演技が世界で認められていくのは間違いないと確信しました。

アイスダンスで話題だったのはもちろんこの二人。ガブリエラ・パパダキスとギョーム・シゼロン。フランスのアイスダンスカップルにしてアイスダンスの第一人者の二人。リズムダンスは洋楽のナンバーでした。Made to Love by John Legend + You & I by John Legend。個人的にこの二人は世界で最も「洋楽を調べたい気分にさせてくれるアイスダンスカップル」ですね。二人の醸し出すリズムとエネルギーは天下一品。曲の細部を演じ切ることができるのは、卓越した技術力があってこそだと感じさせてくれました。スピードの中で行うツイズル。カーブに乗ったリフト。全てが曲にマッチしていて、気持ちが良かったです。

フリーダンスはガブリエル・フォーレ 「エレジー」。始めから最後までうっとりとさせてくれました。動きが曲に合わせてストップモーションがかかるように見えたり、高速のスピードで早送りに見えたり、自由自在にスピードをコントロールしていたように思えます。二人の醸し出す「愛」は強くて美しい。今回も素敵なダンスで優勝を飾りました。

男子もまた、白熱した展開。佐藤駿選手はSP「四季」では4回転ルッツが3回転になってしまいましたが、そのほかのジャンプは回転が綺麗な素晴らしいジャンプで、スピンもスピードに乗って複雑なポジションから行っていたので、レベル4を取っていました。今回指先まで神経を行き届かせた美しい動きが、曲によく合って優雅に見えたのが素敵だったと思います。そして、「オペラ座の怪人」!すごいものを見ました!4回転ルッツと4回転フリップ。難しいジャンプを次々と綺麗に決めて大歓声。途中、ちょっと推しいミスが重なって、流れが途切れてしまったのかなというところもありましたが、高難度ジャンプを入れた構成で最後まで力強く滑り切ったことは本当にいい経験になったと思います。圧倒的インパクトのオペラ座で2位に入りました。もう、誰も駿くんを止められない。シーズンが進むにつれて、もっとすごいドラマを私たちに見せてくれる気しかしません。

鍵山優真選手。ショートは「君ほほ笑めば」。驚かされたのは、ジャンプに入る前のスピードと降りた後の流れ。そして全体的にやはりすごいスピードで「滑走している」という感じをもたせてくれた滑りですね。滑らかで、粘りのあるスケーティング。リズムに乗って小粋に表現するパートもお洒落。こういうセンスは天性の物かなと、思えました。トリプルアクセル、ちょっと着氷が乱れてしまったのは残念ですが、全体的にあっという間に終わってしまったというくらい、魅せる演技になっていたと思います。フリー「グラディエーター」。前半は言うことなし。何回見ても思うのですが、「このプログラム、ものにしてるな」感が強いです。気に入っているのでしょうか。リズムや旋律に自然に体を預け、呼吸するように演技する。簡単に見えてすごく難しいことを自然体で出来るのは天性のものかと思います。後半にミスが続いてしまったのが惜しかったですが、滑りの滑らかさとエネルギッシュな風を感じるムーブメントなど、良い印象が最後まで続いていました。強い気持ちが持続したからなのかもしれません。今年の世界選手権で銀メダルを取ってから、プレッシャーや重圧と戦わなければいけないことが増えているという印象でした。大変そうだなと感じていますが、めげないで、乗り切っているのを見ていると「メンタルが強いな」と感心してしまいます。シーズン後半も強い気持ちのままで向かっていってほしいと感じました。

 

こうやって、振り返って見ると、フランス大会。多くのドラマがありました。本当はまだまだ素敵なスケーターの演技がたくさんあったのですが、全員ご紹介できないのが残念です。見ていると、改めて、フィギュアスケートは複雑で美しいスポーツだな~と感じました。私は、いつも、一人ひとりの選手の演技から自然に見えてくるものをトレースしている感覚で文章にしています。少しでも、真剣勝負の選手たちから得た感動を伝えることが出来ていれば、と思います。ほんの少し、悲しいスポットライトの中で美しく滑る彼ら。惜しみないアンコールを是非、彼らに。Toreviann!