ドラマティックにいこうじゃないか! 北京オリンピック フィギュアスケート団体予選・決勝観戦記

オリンピック開幕してすぐに、メダルのニュースが流れて、私たちはスポーツの祭典只中にいますよね。フィギュアスケートも、団体戦後半に向けて、興奮と熱狂がヒートアップしてきました。本日行われたのは女子シングルショートプログラムと男子シングルフリーの模様。新たなドラマが生まれた瞬間を思い出していこうと思います。

 

女子シングルSP、日本勢から出場したのは、平昌オリンピックから4年後、悲願のオリンピック出場を決めた樋口新葉選手。ここまでの意気込みはおそらく並々ならぬものがあったことと思います。演目は「Your song」。演技が始まる前、新葉ちゃんがとても緊張しているように見えて、こちらも心に緊張が走りました。しかし、曲がかかる直前、新葉ちゃんの硬い表情が柔らかくほころんで、優しい笑みをたたえた表情になった時に、「これは、いける!」と、安心することができました。

トリプルアクセルが持ち味の新葉ちゃん。冒頭のアクセルジャンプは、余裕のあるダブルアクセル。降りた後も流れが美しく、文句なしの出来栄え。団体戦、メダルのプレッシャーのかかる中での勝負。安全に、確実に、ジャンプを決めることは、とてもいい選択だったのではないでしょうか。スピードに乗った3回転3回転のコンビネーションを決めて、更に流れは加速します。ステップの足元は、昔の規定演技、コンパルソリーのパターンステップを思わせるようで、美しい弧を描いていました。上半身の動きも、ステップに連動して、穏やかな優しいメロディーと呼応するかのように、柔らかく優雅に動いているのが印象的。表情も、曲の盛り上がりと共に、ほとばしる情熱を感じてうっとり。「Your song」でここまで、曲との一体感を全身から感じられたのは、私にとって、新葉ちゃんが初めてに思えました。

演技が終わって高得点が出たときの高得点。新葉ちゃんは、喜びを静かに噛みしめているように見えて、個人戦にむけて、いい流れができたと思います。

 

SP首位に立ったのは、その卓越した技術力と表現力で、他の選手に絶望をもたらすことから、「絶望」というニックネームで知られる、ロシアの新星、カミラ・ワリエワ。

とにかく、全ての技術がとてつもなくえぐい! 演目は蝶々を追いかける少女の物語。

少女は蝶々を追いかけながら、夢の世界へ私たちを誘ってくれるのです。何かを追いかけるいたいけな少女を演じるワリエワさん。突如、高難度のジャンプをふわっと飛んだ瞬間、彼女自体が、空を舞う蝶々に姿を変えたように見えました。そして、最後は、飛んで行ってしまった蝶々を見送る少女に戻り、フィニッシュ。ロシア陣営の振付は、割と独特なストーリー仕立てになっていることが多く、随所にちりばめられるマイムの意味が、理解できないことも多々あるのですが(私調べ)、この演目は非常にストーリーが伝わってくる、いい演目だと感じました。時にあどけなく、時に憂いがあって、優雅であり力強い、今の彼女にぴったりのプログラム。終わった瞬間、点数を見るまでもなく、彼女が一位になることを疑いませんでした。

 

そして団体戦決勝は男子シングルフリーからスタート。

 

日本からは注目の若手、鍵山優真選手がエントリー。ここで、鍵山くんはものすごいドラマを見せて、我々をくぎ付けにしてくれました。

冒頭から、流れのある美しい4回転をきめた鍵山くん。流れに乗って、ずっと挑戦し続けた、新たな大技4回転ループをオリンピックで飛んで見せてくれました。

降りた後、少しターンが入ってしまいましたが、回転は足りていて、ちゃんと片足での着氷の形が出来ていたように思えます。シニア一年目で、四回転の種類を増やすことを明言し、短期間のうちにオリンピックで、あともう少しのところまで仕上げてきた、その努力と精神力に度肝を抜かれます。他のジャンプは全てノーミス。新葉ちゃんもそうだったのですが、鍵山くんもすごいスピードでリンクを端から端まで滑りぬけます。スピードスケートとはまた違った種類のスピードのある滑走。疾走感とピュアな情感が、新鮮な感動を私たちに運んできてくれました。シニア二年目、ここまで、オリンピックで大技を入れて、演技をまとめ上げられるなんて、なんという度胸、なんという精神力。

かつて、鍵山正和さんの演技をオリンピックで見たときのことを思い出しました。膝と足首が柔らかく、大和魂揺さぶられる演技をオリンピックで披露してくれた正和さん。息子である優真くんは、正和さんのマインドを受け継ぎながら、世界の大舞台で堂々と、高レベルの演技を披露しました。時を経て実現した父子によるバトンの受け渡しは、感慨深いものがあります。いろいろな意味で、本当にドラマティックな4分間でした。

 

最終滑走はアメリカの情熱系フィギュアスケーター、ヴィンセント・ジョウ。前半は緊張していたのか、硬さが見え、4回転ジャンプの回転が抜けてしまったり、回転不足になってしまったり、小さなミスがありました。しかし、後半に行くにしたがって、落ち着きを取り戻したのか、動きにも流れができ、ジャンプもソリッドにきまる瞬間が随所に見られました。前半のミスを忘れさせるほどに、後半で巻き返しが出来たのは、成長の証。

個人戦では、もっと、落ち着いて演技に集中できるはず。今から更なる展開が楽しみになりました。

 

まだまだ、始まったばかりのオリンピック。すでにここまで、白熱した展開が待っているとは! これからの応援にますます力が入りますね。

今後も、一人でも多くの選手が、練習してきたことの成果を思いっきり発揮できるように、手に汗握る応援を続けていきたいと思います。