小さな奇跡 スケートアメリカ観戦記

 

 

いよいよ始まりました。フィギュアスケートグランプリシリーズ。まずはスケートアメリカ。今年は地上波の放送は深夜の関東地区のみ。ライブ配信での応援となりました。

今までのように、テレビで推しの演技を観戦できない寂しさはありましたが、やはり、久々のグランプリシリーズ、久々の国際試合。冬季オリンピックを前にして、準備を進めてきた選手たち。期待と興奮に胸高まり、ライブ配信にくぎ付けになりました。

 

まず、快挙と言っていいのは、りくりゅうこと、三浦璃来・木原龍一組がペアのショートプログラムで、3位に入ったこと。長年、ペアが育たなかった日本のフィギュアスケート業界、年々、技のレベルが上がっていく中で、華やかなリフトと、安定感のあるジャンプを決め、強豪ロシアに続いての3位。これは歴史を変える出来事といっていいと思います。

演目の「ハレルヤ」は見ていて、とても穏やかな気持ちになりました。なんというか、控えめだけれど、愛に溢れた綺麗な演技。日本人らしいペアスケーティングだったと思うのです。これからもっともっと、いろんな人にりくりゅうの存在が知られていくことになるでしょう。いいスタートが切れてよかったです。フリーも頑張れ!

 

男子シングルスに目を通すと、のっけから、我が推し、ヴィンセント・ジョウがやってくれました。以前からブログでご紹介させていただいていた「Vincent」。なんというか、最後まで安心してみていられるくらい、ジャンプが綺麗にきまっていました。まるで振付の一部のように飛ぶジャンプ。ステップシークエンスで、音に合わせて笑顔を見せるヴィンスは最初から最後まで幸せそうでした。こんなに緊張がかかる試合で、プログラムを楽しめるなんて、本当にすごいことだと思います。終わってみれば、SP1位!こんなにストーリーを感じるプログラムには芸術点PCS(プログラムコンポーネンツ)がもっと出てもいい、と個人的には思いました。

 

また、特に印象に残っているのは、3位に入った、ジミー・マ選手の「白鳥の湖」。今季、白鳥の湖を選ぶ選手が多いのですが、ジミー選手のプログラムは、白鳥の部分と黒鳥の部分が独特に演じ分けられているな、と感じました。白鳥で滑るパートは非常に繊細に、段々、黒鳥に姿を変えるときに彼は、髪を縛っていたヘアゴムを外します。髪を振り乱しながらスピンに入るジミー選手からは、魔の狂気を感じ、それがプログラムを特別な印象へ導いてくれました。この外したヘアゴム。小道具扱いになって、減点されなければいいな、と、思いつつ、オリンピック前にジミー選手のはまりプロを目撃できたことは、大きな喜びでした。

 

ネイサンチェン選手。まさかの要素抜け。大丈夫でしょうか?どこか、体の具合が悪いとかでないといいのですが…でもまあ、世界王者として注目度の上がっているオリンピックシーズン。絶対にミスが許されないという重圧は、誰よりも心にのしかかっていたことでしょう。ここで厄落としが出来た、と思って、気持ちを切り替えてシーズンに臨んでいくことを願います。衣装、初期のネメシスの方がいいかな?

 

5位につけた、佐藤駿選手。公式練習で、肩を負傷したということだったので、心配していました。しかし、怪我の様子等、感じさせないくらい、軽々と4回転ジャンプを成功。ヴィヴァルディの四季の旋律が、佐藤選手のまっすぐな体の動かし方にとても、マッチして、爽やかで前向きな力強さが伝わってきました。怪我のあった中でも、試合に臨んで、ジャンプを飛んだ勇気。その真の強さは、必ず、未来につながっていくと思います。私の心の中では、もっと高得点だよ! 駿くん!

 

フランスのケヴィン・エイモズ選手が演技した時、波乱が起きました。怪我をしているらしいエイモズ選手。最初のジャンプから振るいません。バランスを崩し、転倒を繰り返します。2度目の転倒で起き上がる時、拍手と歓声が応援席から沸き起こります。「頑張れ!」お客さんの熱のこもった応援がエイモズ選手に伝わったのでしょうか? 彼は、3度のジャンプの失敗の後、ステップシークエンスを力いっぱい演じました。きっと、滑っていて、辛かったと思います。失敗が続いてしまうことは、モチベーションがそがれていってしまうことだと思います。でも、ステップシークエンスを滑る彼は、ミスを引きずった顔は見せず、笑顔でカッコいいステップとエッジの効いた側宙を披露して演技を終えました。終わった瞬間、泣き崩れたエイモズ選手。でも、彼は、涙の中、笑顔を交えて、観客の拍手に応えていました。まるで、「ありがとう」と言っているように。

それは、私が今日、目撃した小さな奇跡。演じるスケーターがいて、お客さんがいる。いい時も、悪い時も、私たち観客は、選手に声援を送り続ける。その声援が選手の気持ちに火をつけることがある。こんなこと、コロナの前は当たり前だったです。当たり前だった素晴らしい瞬間が目の前に広がっていた時、私は思ったのです。「これだから、フィギュアスケート観戦はやめられない」って。

これからも、ずっと、フィギュアスケートを通した奇跡は続いていくことでしょう。始まったばかりのフィギュアシーズン、少しでも多くの奇跡を目撃したい。新たな決意を燃やしたスケアメ一日目なのでした。