「カッコよさを追求する姿」本郷理華ちゃん

ある日、ふと目にした地元紙のチラシに、その女の子の写真が掲載されていた。他の子たちとは違う華がある女の子の写真には、「フィギュアスケート ノービス優勝 本郷理華」という文字があった。

フィギュアスケーター本郷理華選手は、1996年生まれ、24歳。仙台出身のスケーターだ。幼い頃から、地元のアイスリンクに天才少女がいるということで、理華ちゃんの存在は地元のスポーツニュースで取り上げられていた。2006年頃、師事していた長久保コーチが、名古屋へ移ることになり、コーチと一緒に名古屋へ拠点を変えたときは、理華ちゃんのこれからを期待する特集が組まれていた。

アイスショーで「キューティーハニー」を滑る幼い理華ちゃんを見た印象は、「この子、『かわいい』というより、『かっこいい』を演じたいのかもしれない」だった。

名古屋へ移り住んだ理華ちゃんは、ジュニアから頭角を現し始め、ジュニアで臨んだ全日本選手権では初出場で5位となる。

「仙台から名古屋に移り住んだあの子だ。相変わらず、かっこいい滑りだな~」元気いっぱいで、溌溂としていて、でも媚びない魅力のある理華ちゃん。仙台から移り住んで、更に磨かれたスケートを披露してくれたことがとても嬉しかったのを覚えている。

理華ちゃんのエキシビションナンバーで、今でも大好きなのは、マイケルジャクソンの「スリラー」だ。本人振付のこのプログラム。実は、個人的にベスト・オブ・マイケルジャクソンプログラムだと思っている。終始、ミュージックビデオとリンクする振付の中、無機質で、人形になったように演じる理華ちゃん。そのアンバランスな魅力は、本家、マイケルのスリラーの世界をリアルに表現することが出来ていた。「彼女には振付のセンスがある。いつか、また、セルフコリオで滑る理華ちゃんが見たい」インパクトがあるエキシビションからは、これからますます活躍するであろう、フィギュアスケーター本郷理華の魅力が最大限に引き出されていた。

理華ちゃんのプログラムが世界で注目され始めたのは、2015-2016シーズンのフリープログラム「リバーダンス」だったように思う。世界選手権大会で披露されたそのプログラムは、最初から最後まで、スピードに乗って、勢いがあった。アイリッシュサウンドに、タップダンスを思わせるステップ、全身で音を感じ、滑る喜びに溢れている理華ちゃんは、ずっと笑顔で、こちらまで、笑顔になってしまった。プログラムの間中、ジャンプが決まるたびに、歓声が会場に鳴り響き、彼女の演技にみんなが酔いしれているのが伝わってきた。この演技で、理華ちゃんは8位入賞を果たす。

 理華ちゃんの新たな魅力を引き出してくれた振付家は、カナダの振付家、シェイリーン・ボーンだと思う。「リカの女らしさを引き出したい」そう、インタビューで答えていたシェイリーン。2017-2018シーズン。全日本選手権で披露してくれたショートプログラム。「カルミナ・ブラーナ」を見たとき、私は、シェイリーンが言った意味がなんとなく、分かった気がした。とても重厚な音楽の中、ジャンプが決まっていくごとに、理華ちゃんの表現は凄みと迫力を増していく。その迫力の中には、秘められた情念が感じられた。その情念は、理華ちゃんにしか表現できない「かっこいい女性らしさ」だったように思う。オリンピックイヤーのこのシーズン、残念ながら、平昌オリンピックに進むことはできなかったが、演技を終えた会場はスタンディングオーベーションで、涙する人の姿が多かった。っていうか、私はテレビの前でずっと泣いていた。ケガとか、うまくいかないことがあったりして、それでも、スケートを諦めないで、自分の最高の演技を無心で滑る理華ちゃんの心意気が、演技から、十二分に伝わってきたから。

 2019―2020シーズン、理華ちゃんはシーズンを全休することを発表した。彼女の今後については、明らかにされず、ファンは、彼女に応援のメッセージをただただ、SNS上から送り続けた。「彼女のスケートをもう一度、見たい。私たち、理華ちゃんがもう一度、リンクに立つ日をずっと、待ってる」祈ることしかできないけれども、ただひっそりと、見守り続けたファンが、私を含めて、世界中にたくさんいたと思う。

 そして、2020-2021シーズン。理華ちゃんはスケートの世界に戻ってきた。「もう一度、滑りたい」スケートへの情熱をインタビューで語ってくれたこと、一つ一つの予選で素晴らしい演技を披露してくれて、全日本選手権出場を決めたことは、私たちファンにとって喜びだった。また、理華ちゃんを応援出来て、本当に嬉しかった。

 ショートプログラム「愛の不時着」を見たとき、それまでの理華ちゃんとは違った魅力を演技から感じることが出来た。とてもたおやかで、動きに柔らかさを感じて、彼女は素敵な大人の女性になったなと思った。フリープログラム「Ghost in the Shell攻殻機動隊」は、これまでの理華ちゃんのイメージ通り「強くてかっこいい女性」なのだけれど、それでも、今までとは少し違った印象を感じさせてくれた。豪快なのだけれど、動きと動きの間のつなぎには丁寧さが感じられ、カナダでトレーニングしていた効果なのだろうか、スケーティングが今まで以上に洗練されていて、プログラムのカッコよさがとても際立っていたのだ。

仙台でスケートを習い始め、名古屋、そして、カナダ、その世界を広げながら、大人のスケーターとして、成長し続けている理華ちゃん。彼女は幼い頃から、ずっと「カッコよさ」を追求してきたスケーターだと思う。これからも、理華ちゃんの世界が広がって、活躍する姿を応援し続けたいと思う。