Show must go on. フィギュア国別対抗戦を終えて

フィギュア国別対抗戦2021。全てのシーズンの締めくくり。我々、フィギュアスケートファンが毎年楽しみにしてるはずだったこの試合。しかし、開催前、私の心は、ふさぎ込んでいた。地元の街も、コロナの感染者が増加傾向の一途を辿り、国別対抗戦が行われる大阪も、感染者が急激に増え、刻一刻と感染が広がっていることを伝えるニュース。

その開催を疑問視する声も多く、正直、本当に開催されるのだろうか?と一日ごとに不安を抱えながら、情報を追っていた。

そんな中、誰かのリツイートに載っていた言葉が、私の心に深く突き刺さることになる。

「こんな状況で、(試合を)開催するなんて、不要不急の外出がだめというならば、試合こそが、不要不急じゃないですか」

フヨウフキュウ…? ショックを受けた。毎年、フィギュアスケートの競技を応援し続けて来た。どのスポーツにも言えることかもしれない。この競技もまた、光と闇をはらんでいる。成功する選手は、ほんの一握り。毎日、地道に、見えないところで、選手たちは孤独で厳しいトレーニングを積んできている。一瞬のスポットライトが当たる場所で、輝かしい演技を披露するために、彼ら、彼女たちは、様々なことを犠牲にし、血のにじむような思いで、過ごしてきていたと思う。今シーズンは、特にそう。

フィギュアスケートの試合は、いわば、彼らの「生きていくための場所」。

その場所が「不要不急」と、私には断じることができなかった。その言葉を目にした瞬間に、開催されるのであれば、応援しよう…という決意が私の中に芽生えてくるのを感じた。

そんな時、羽生結弦選手はインタビューで度々「誰かの光になれるように」と言葉にしてくれた。何度も何度も、力強く「誰かの力になれるように」と。

彼は、大阪の状況も地元仙台の状況も、よく分かっていたのだ。今シーズン、グランプリシリーズを欠場し、たった一人で、感染症対策に気を付けながら、練習に励んで、様々な経験を経て、様々な葛藤を経て、彼は、演技で、誰かの心を照らすために、この舞台に立つことを選んだ。きっと、他の選手も取り上げられないだけで、同じ気持ちでいただろう。たった一人しか応援してなくても、全員応援していても、フィギュアに心動かされた気持ちは同じ。

そこまで、覚悟を決めて、推し達が、試合を目指す以上、ファンとして、応援する以外、何ができましょう? 一人でも、多く、選手たちの努力の結晶を見届けよう。ただひたすら、応援するのみ。気が付くと、配信チケットを購入。当日を迎えることとなった。

 試合が始まると、もう、ワクワクとドキドキが止まらない。久しぶりの拍手が聞こえる会場で、選手たちは、みんな、嬉しそうに滑っていた。気のせいかな?気のせいじゃないよね。

リフトがどの角度から見ても、美しく、日本のアイスダンスの存在を世界にアピールした、チームココこと小松原美里、小松原尊夫妻。世界選手権大会同様に息の合ったペアスケーティングを披露してくれた、りくりゅうこと、三浦璃来・木原龍一ペア。腰が痛い中で、フリーをまとめてきた紀平梨花ちゃん。迫力とカッコいい女性らしさで、マトリックスを自身のはまりプロに高めてきた、坂本花織ちゃん。滑るたびに、音楽表現がランビエールの現役時代を思わせ、独自の思いで試合に臨んだ宇野昌磨選手。そして、このコロナ禍の時代、みんなが元気になるようにと、ノリノリのショートプログラム、重厚なフリー、スマホライトが光る中で優しく舞ったエキシ、と独自の完璧なストーリーを見せてくれた羽生結弦選手。

彼らを応援することで、私はたくさんのセロトニンを受け取った。

拍手が響く会場で演技することを喜んだのは、日本選手だけではなかったと思う。フランスのペア選手。クレオ・アモン・デニス・ストレカリン組は、ショートプログラムを終えた瞬間、感極まって、涙した。きっと、彼らなりに苦しいシーズンだったのだろう。最後まで、頑張って、日本の舞台で、お客さんの前で滑ることが出来たことで、いろいろ感じるものがあったのかもしれない。ロシアの女子選手トゥクタミシェワ選手は、「日本で、和を感じさせるプログラムが滑ることができて嬉しかった」とコメントしてくれた。ミハイル・コリヤダ選手は、普段、ポーカーフェイスのことが多かったが、終始、笑顔を見せてくれて、今季ベストの演技を披露してくれた。アメリカのネイサン・チェン選手も、「拍手が聞こえる中で演技出来て嬉しかった」とコメントしていた。

演技が全て終わった後でも、様々な国の選手が日本語で「日本だいすき」「日本ありがとう」と感謝のメッセージをボードに綴ってくれたことが、本当に嬉しかった。

この大会が開催されることが、正解だったのか、今でも分からない。けれども、今回の国別対抗戦は、今後のフィギュアスケートの未来のために、試行錯誤で行われた大会。彼らの意気込みと、チャレンジが、私の希望の光になったことは、疑いようもない事実である。

応援させてくれてありがとう。選手一人ひとりの健康と幸せを願って。Show must go on!