名曲の雨を降らして… 推しのリリースラッシュ徒然日記

 

 

6月も、もう中旬になりましたね。そろそろ梅雨入りした地域も出てきているのではないでしょうか。5月から引き続き、曇りや雨の日ばかりで、今年も鬱々とした気候に悩まされている方、多いのではないでしょうか。

私も、寒くなったり暑くなったりで体調を崩しそうになりながらも、なんとか日々をこなしておりました。

そんな中、最近になって、私が推しているアーティストさんの新曲が次々とリリース! どの曲も名曲ぞろい。早速、曲を聴いた感動をシェアしたいと思います。

 

まずは、NYを中心に活動する神戸出身のシンガーソングライターRei BrownでJojiと共作の「Thinking Bout you」。

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Rei brownは、私がブログで何回かご紹介させていただいたアーティストJojiの幼い頃からの友達で、二人は過去に何度か共作で曲を発表しています。ソフトで美しい歌声と、心地の良いメロディー、そして甘く、愛することに希望を持たせてくれるような歌詞が特徴的で、最近、活躍の幅を広げています。

今回のJojiとのコラボ、二人の声質がとてもよく似ていますが、歌詞は相反するムードをかもしだしています。光と影のようなフレーズが交錯しながら、思いを伝えたい相手に必死に呼びかけている、そんなイメージの切ないラブソング。公式のMVでは、壮大な宇宙からみた地球の映像が映し出されて、歌詞に表れる「真夜中に空を見上げたら、 君のことを想っていると分かって」という、強い思いを強調しているかのようです。別れるぎりぎりまで迷いや葛藤があったのでしょうか。やっとの思いで離れ離れになった後でも、相手を思い、相手を感じているのがダイレクトに伝わってきました。現実的な距離と近づこうとする心の距離が一つテーマになっているような気がします。

 

続いて、88risingで異彩を放つ女性ボーカリストと言えば、インドネシア出身のNiki、曲は「Before」。

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別れてしまった恋人に何年後かに数日間だけ会いに行く女性のストーリー。まだ、気持ちはあるけれど、煮え切らない元恋人。次の彼女候補の女友達もいるみたい。数日間のスリリングな葛藤。だけど、もう、付き合っていたあの頃には戻れないみたい… 揺れ動く女性の気持ちがリアルに伝わってくる大人のラブソングです。ここでも、すぐそばにいるのにすれ違う、相手との距離がテーマになっていますね。MVの作り方も、歌詞の世界をそのままに「歯磨きしている私を抱き寄せる彼」がそのまま出てきたりして、映像と歌の世界がシンクロしています。好きな気持ちが残っていて、そういったものをすべて清算して前に進んでいくことって、簡単なことじゃありませんよね。できればやり直したい、そう思っても、時間が経って、自分が変わって、相手も変わっていってしまう。ついこの間まであった「確かなもの」、失っていった時間が「Before」に込められていて、秋口に聴くと、心が締め付けられそうになると思います。曲調は穏やかで少し刺激を抑えたナンバー。優し気なボーカルが、静かに恋を諦める女性の姿を象徴するかのようでした。

 

そして、2年の沈黙を破ってあの男が帰ってきました。そう、私のブログで何回も紹介させていただいている88risingの看板スター Joji。曲は「Glimpse Of Us」。果たして、どのようなナンバーなのかと期待に心震えながら見たMV。

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序盤の美しく透き通るようなコーラスで、すでに心をつかまれてしまいました。描かれていたのは「彼女の腕の中で“君”のことを想う男の姿」。あまりにもまっすぐに痛みを美しく表現している魅惑の歌声。そして、MVの内容はその曲調とは真逆の不穏な世界観。非行に走る若者から見えてくる世界が断片的に映し出されます。何度か現れる暴力のシーン。荒れた若者の暮らし。その合間には川の岩場でくつろぐ彼ら。暴力的な彼らが時折見せる「人間らしさ」。恋人に送っているらしき「I miss you」のメッセージ。道路沿いの壁にスプレーで書かれた「Help」の文字。

 

世界中のどこにでも広がっている貧困や暴力や最下層に追いやられる人々の苦しみや痛み。そして、花火が舞い上がり、最後には、燃やし尽くされる車と座り込む若者。この世界中の不穏な空気をまるで切り取っているかのような世界に美しい旋律が鎮魂歌のように寄り添います。「Glimpse」という単語には「垣間見える」という意味があります。「Glimpse Of Us」は「僕らに垣間見えるもの」ということになるでしょうか。「埋められない距離」を抱えた恋人たちの間に垣間見えるもの。MVのギャングたちのあいだにふと垣間見えるもの。その「垣間見えるもの」を現代に生きる私たちにリアルに示しているのがこのMVと曲だとしたら、Jojiはなんと、深いテーマを新曲にもってきたのでしょうか。

 

すごくショッキングなMVなのに、つい見てしまうのは、悲しみをリアルに映し出しているからでしょう。入り込んでくる雑音までが、この曲の効果音として的確に機能している、全てが巧みに計算されつくしているのを感じます。

重いテーマなのになぜか、今を生きる私には「解毒剤」のように感じられ、この曲を何度もリピートしてしまいました。賛否両論あるかもしれませんが、今年の私の中で、ナンバー1、来てしまったようです。改めて、Jojiのすごさを思い知りました。

 

どの曲からも、埋められない距離の中でもがく人々が見えて、それはそのまま、昨今の空気を表しているのかと思うほどです。

ここから、推し達は、ツアーが開催され、世界各地を回ることになります。どうか、歌声を待っている私たちに、名曲という雨をたくさん降らせてほしい。そう思うようなリリースラッシュでした。

今度新曲が届いたときには、どのような世界をご紹介できるでしょうか。それまで、どうか、お元気で。

シカオちゃんがフィギュアスケートに出会ったら Fantasy on Ice 2022

 

 

楽しみにしていたアイスショー、Fantasy on Ice2022がいよいよ開催された。正式に開催されるのは、3年ぶり。アイスショーを楽しめる日常が、少しずつ戻ってきたのかな、と少しほっとする気持ちが湧いて来ていた。ゲストアーティストの発表があった時、驚きを隠せなかった。私が長年ファンでいたアーティストさんの名前がそこにあったからだ。

その人の名前はスガシカオ

1995年のデビュー以来、存在感のある楽曲で魅了し続けている個性的なシンガーソングライターだ。

私がスガシカオさんの楽曲に強く惹かれたのは、1999年リリースの「夜明け前」からだった。

独特の渇きを感じさせる歌詞とクールな楽曲。聞いたとき、「夜中ってそう思うことがあるよね…」と強く共感させられたのを覚えている。

更に、1999年、スガシカオさんは「甘い果実」という衝撃的な作品を世に出している。

重苦しい情念と背徳的な歌詞。正直言って心臓がどくどくなってくるような、背筋がぞくりとなるような。なのに聞いた後、なぜか元気になってしまうから不思議だ。正直、この時、私は仕事で悩みを抱えていて苦しかった時期だった。そんな自分の心情が、この曲によって洗い流されていくのを感じた。今思えば、ショック療法だったと思う。

 

綺麗なのに、綺麗なだけじゃないシカオちゃんの曲は、ずっと色あせることなく、心にとどまりつづけていた。そんなシカオちゃんアイスショーで生歌を披露する。羽生結弦をはじめとした素晴らしいスケーターたちが集結する、あのFantasy on Iceに!

 

今回は、私を闇から救ってくれたアーティストの一人、スガシカオさんの楽曲で滑ったスケーターたちを中心に、Fantasy on Iceの模様を綴っていきたい。

 

まずは冒頭、アイスショーの始まりを飾るにふさわしい、軽快でさわやかなナンバー「午後のパレード」より、全体のグループ演技。

MVの動きと、スケーターたちの動きがシンクロして、曲の世界が更に氷上でクリアーになっていく。熱量はヒートアップ。羽生くんMVの振付を完コピ。キレとしなやかさで魅せていた。カメラワークがもう少し全体をとらえていたら、全体のテーマがより明確に見えてきたのだろうな、と思いながら、みんながすごく楽しそうに観客とコネクトしているのをみると、「ショーが始まるんだな…」としみじみした気持ちになった。

「きっと明日は君の街へ パレードがほら やってくる」これから、何公演も様々な街へアイスショーが開催される。スケーターの想いとアーティストの想いが完全に一つになっていた。

最初にシカオちゃんのナンバーで演技を行ったのは、この間引退を発表したばかりの田中刑事選手で、曲は「Progress」

どこか、夢の途中で挫折を経験したことのある人なら、誰もが共感する切なさがあるナンバー。刑事くんは、ジャンプを次々に軽々ときめていった。アマチュア時代、難しいジャンプを飛ばなければいけない難しさと戦ってきた刑事くんの姿が思い出された。今は、そういったプレッシャーから解放されたすがすがしさと軽やかさがそこに感じられた。甘く切ないシカオちゃんのボーカルと動きがよく合っていた。「世界中にあふれているため息と 君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ “あと一歩だけ前に進もう”」この部分、非常に伸びやかさを見せていた刑事くん。向かい風の中、意を決して進んでいこうとする刑事くんが見えた。

 

続いてのシカオちゃんのナンバーは、織田信成さんで「黄金の月」。「どんな人よりもうまく

自分のことを偽れる 力をもってしまった」の辺りで陰りのある演じ方を見せていた。いつも明るくふるまっている信成くんと、この曲のギャップについて、思わず考えさせられた。長年、活躍の場を広げ続けている信成くん。心の葛藤を胸に秘めていることがあるのだろうか。指先まで神経を行き届かせた所作と、こちらも安定感のあるジャンプ。独特の濁りのある歌詞の中で、綺麗なムーヴメントが随所に印象に残った。まるで、これから、もう一花咲かせようとしているみたいに。

 

後半の演技で魅せてくれたのはアメリカのジョニー・ウィアーさん。演目は、誰もがおなじみの「夜空ノムコウ」。この曲の中で、ジョニーはダブルアクセルを2回、シャープに決めた。昔から、ジョニーはアクセルジャンプが綺麗な選手だった。勢いを感じる正確なアクセルの踏切りの時に、選手時代のジョニーが思い出されてきた。シカオちゃんのツイートからの情報だが、ジョニーは歌詞を翻訳して、「この解釈でいいの?」と何度も確認をしていたという。ジャンプだけではなく、様々な要素を丁寧に行っているジョニーを見たとき、彼は、この曲を自分の人生に重ね合わせて、とても気に入ったのではないだろうか。

「あのころの未来に ぼくらは立っているのかなぁ… 全てが思うほどうまくはいかないみたいだ」過ぎ去った思い出に感傷的に浸るような表現を見せるジョニー。今のジョニーにしか出せない味わいを感じた。「夜空の向こうには もう明日が待っている」のフレーズで、情感あふれる目線で上を見上げるジョニーは綺麗だった。

 

最後はお待ちかね 羽生結弦選手。曲目は「Real Face」KAT-TUNのヒット曲としても知られているこの曲を聞いた瞬間、「そう来たか!」と思った。

シカオちゃんは、サラリーマンからミュージシャンに転職した過去がある。一時期売れずに、食べるものに困った時は、胃薬をご飯にかけたりして食べたこともあると、テレビで語っていた。レーベルを変更して、インディーズからまたメジャー契約と、ここまで順風満帆な道のりではなかったと思う。この曲のフレーズ「ギリギリでいつも生きていたい」は自身の人生経験から生まれた言葉だったと思う。そんなシカオちゃんの独特なフレーズと羽生くんが出会ったとき、それはそのまま、フィギュアスケーター羽生くんの人生と共鳴したのに違いない。

ハイライトは「雨上がり濡れた堤防で はじめて君についたウソは いまも乾いちゃいない」の部分。ここで、羽生くんは用意していた紙コップの水をかぶる。一瞬ハッとして心をつかまれる動作だ。しかし、そのシーンは歌詞の世界を表すのには、とても自然で無理がなかった。昔からそうなのだ。彼の挑むことには明確な理由がある。

年齢を重ねて、大人の魅力が増してきた彼のオリジナリティのある無意識な色気の出し方は観客の心を鷲掴みにするのには十分すぎた。

全体的にロックで激しいナンバーをキレのある動きと滑らかなスケーティングで、しなやかに魅せていく羽生くん。待てよ、曲名は「Real Face」。途中までフードをかぶっての演技だった。あれ?これは前作「マスカレイド」から続いている? 仮面を脱ぎ捨てて、素顔を取り戻すってことか。一旦は、そう思った。だが、後のインタビューで羽生くんは、「リアルを取り戻す」ということを「4アクセルジャンプを取り戻す。飛べるようになるという思いを込めた」と語っている。いわば、このアイスショーのナンバーは、「新生・羽生結弦の決意表明」という重厚なテーマがこめられているのだ。

シカオちゃんのリアルに傷口をぬぐうような複雑な世界観を、羽生くんは熱い想いと抜群のリズム感やクリアーなジャンプで、表現しつくしていた。その高いエンターテイメント性は、私の心にしっかりと刻まれた。熱いものが体の中に走り抜けていくようなショーだった。

 

シカオちゃんは歌詞の中に綺麗なだけじゃない複雑な感情が垣間見えるアーティストさんだ。そういうシカオちゃんの世界観をフィギュアスケーターたちが、自分なりに解釈し、自分のカラーに染め上げていく。このアイスショーの中でしか見られない、スガシカオとスケーターたちの魂の化学反応に強く心を揺さぶられた。

幕張公演はひと段落して、アイスショーはまた別の街にパレードを運んでいく。

よその街でも、更に世界はブラッシュアップされて私たちの心に火をつけるだろう。

Life is a journey スケートで世界を回る Stars on Ice ジャパンツアー 2022について

 

 

フィギュアスケートもシーズンオフを迎え、4月からはアイスショーの話題がタイムライン上に上がってくるようになりました。その先陣を切って開催されたのは、Stars on Iceジャパンツアー2022。毎回、アイスショーを通して深いテーマが設けられているのですが、今回のテーマは「Journey(旅)」です。振付を行ったのは、ジェフリーバトル。果たして、スケートを通して、私たちはどんな世界を旅することになるのでしょうか。今回は東京公演の最終日の模様を、ところどころ、印象に残った部分でお届けしたいと思います。

 

まず冒頭、グループナンバー 「The weekend メドレー」。

昨今の洋楽ヒットシーンに欠かせない存在のThe weekendナンバーから、旅は始まります。色とりどりの衣装を着て現れたメンバーたち。ビートの効いたリズムの中で、徐々に熱が高まっていく予感を感じさせます。音楽の波を泳ぐように滑りぬけていくと、そこに見えるのは、ぶつかり合ったりして波が大きくなっていくフォーメーション。旅立ちと若々しさが随所に垣間見えました。

 

トップバッターを飾るスケーターは北京オリンピック代表の河辺愛菜選手で「ファイヤーダンス」。清潔感のある妖艶さが際立つプログラム。そこから繰り出す3ルッツ、鮮やかです。旅先で出会った、刺激的な踊り子のよう。基礎のしっかりしたテクニックで観客を沸かせました。

 

引退を表明した田中刑事選手が披露したのは、ジャズのナンバー。欧米のお洒落な街並みに誘われるような演技でした。

 

かなだいこと、村元哉中高橋大輔組は力いっぱい「ソーラン節」を演じました。その演技は、日本の漁港に船が迷い込んでいるかのようなハイライト。

 

続いて、見せ場を作ったのは、友野一希選手「Daft Pankメドレー」。非常にキレのあるロボットダンス。近未来の都市に現れたロボットのよう。音はめばっちり。トリプルアクセルもダイナミックに決めて、全身からビートを感じ取って滑りぬけます。高揚感が伝わってくる演技でした。

 

スピード感のあるジャンプが持ち味の樋口新葉選手。「Bird Set Free」は試合でも披露されたナンバー。自由に空を飛び回る鳥の軽やかさをスケートで表現してくれました。スピードと情感を自由に司る姿は圧巻。

 

個性的なプログラムを披露したのは、アメリカのヴィンセント・ジョウ選手。演目は「Lonely」。不死鳥がゆっくりと空を羽ばたいていくイメージ。彼のラインの美しさを随所に感じられました。以前よりも、ジャンプ前後の所作がナチュラルになった気がします。孤独から解き放たれて大空へ向かう、そんな旅の光景がそこにありました。

 

ピンクのコスチュームが華やかだったのは、紀平梨花選手。シーズン全休した彼女は、再び氷上に戻ってきてくれました。貴族の舞踏会のお姫様のような紀平選手。流れるスケーティングは上品で贅沢な気分にさせてくれました。

 

前半の最後はグループナンバー 「カイト」。全員が白い衣装で優雅なスケーティングを披露。まるで大海に白い帆を広げる船出のよう。希望や夢を運ぶように観客とコネクトしていました。

 

後半もグループナンバーからの幕開け。「What a wonderful world」。

ブルーの衣装で、バラードの繊細な音を拾って滑るスケーターたち。まるで、夜明けの航海を表しているようです。ここから新天地を目指すのでしょうか

 

韓国のチャ・ジュンファン選手が披露したのはKpopの曲? 一蹴り一蹴りがよく伸び、手をゆったり広げただけで人の心に何かを残します。ジュンファンの中の無垢なイメージが客席にひろがっていきました。

 

力強いボーカル曲を披露してくれたのは三原舞依選手で「Never enough」。何かを追い求めるようなそんなプログラム。ふわりと軽いジャンプを次々にきめていきます。滑る喜びを内側から放出している演技には心を打たれました。

 

グループナンバーで大活躍だった島田高志郎選手が選んだのは「チャップリンメドレー」。

スケーティングが綺麗で華がある高志郎君。雰囲気作りがとても上手な選手です。一瞬にして、モノクロムービーの世界に観客を誘います。演技力がすごいとおもいました。終わりのお辞儀まで、チャップリンになり切っていたのも印象的。

 

アメリカのマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組はエレガントなプログラムで沸かせました。「I hear a symphony」。 こちらもまた、ラブストーリーの映画を見ているみたい。難しいリフトのポジションチェンジがすばらしく。ドラマのハイライトのようにくっきりと心に刻まれました。

 

今季、オリンピックに、世界選手権に大活躍だったのは、鍵山優真選手で「君ほほ笑めば」

。4トウループ、ナイストライ。アイスショーでも4回転に挑んだのは、おそらく、鍵山くんだけでした。ジャズのお洒落なプログラムの中にも強気な部分をにじませます。スケーティングものびがあって、華やか。体幹とリズム感がずばぬけているので、あっという間にプログラムが終わってしまう気がしました。

 

惜しまれつつ引退を発表した宮原知子選手は「悲しみの聖母は旅立ちぬ」という重厚な演技で観客に別れのご挨拶。ゆったりと体を音楽に預けて、音と呼応するかのようなスケーティング。もう、試合で見ることが出来ないのは寂しいですね。

 

旅の終わりは、アメリカのネイサン・チェン選手。ロケットで宇宙を旅するロケットマンに行きつきます。今季の裏テーマは「宇宙」なのではないかと個人的に考えていました。前半は旅人の哀愁を、後半はエンターテイメント性を発揮するプログラムで、ショーを締めくくりました。

 

最後のグループナンバーは「エルトン・ジョンメドレー」。

攻撃的なロックのパートで、熱狂はヒートアップ。バラードパートで旅の終わりを感じさせます。リズムが再び盛り上がる時に、私たちは気づきます。新しい旅が、また始まるということに。

 

フィナーレまであっという間。コンセプトがはっきりとしていて、ちりばめられた演技の数々に理由があると感じさせてくれたアイスショーでした。

スケーターたちはスケートシーズン中に各国を旅します。あらゆる旅先で私たちはスケーターたちの演技から、かれらの人生に触れたような気持ちになりました。シーズンオフ、彼らは自らの翼を休めながら、また新しい旅へ準備を始めているのです。

夏が始まるころには、また、素晴らしいアイスショーが目白押し。更なるスケーターたちの旅を、客席から感じ取っていきたいと思います。

新緑の下で輝いて! 夏まであと少し 気持ちを上げる初夏ソング

 この間、私の住む街で、青葉祭りという祭りが開催されました。毎年5月、新緑のまぶしいこの季節、「すずめ踊り」という伝統的な舞踊を、老若男女、所狭しと扇を翼のように操りながら披露します。ずっと、夏が始まる直前に行われるこの祭りは、私の街の密かな風物詩でした。コロナの影響で、昨今中止が続き、満を持して3年ぶりの開催となったのです。まだまだ、県内の感染者の状況など、安心できない情報もありますが、それでも、私の街で、久しぶりに祭りが開かれたことは、どこか、心躍るようなことだったりするのです。

 そこで、今回は、夏まであと少しのこの時期、新葉の下でエネルギーを蓄えている私たちに、更にエネルギーを注入してくれるような初夏ソングを選んでいきたいとおもいます。

 

まず、この間Spotifyで見つけたこちらの曲からご紹介。

Kahi dreamsで「Sunkissed」。

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MVはどこか、不穏で幻想的な夢の中を思わせます。歌詞は直球のラブソングですね。

ただ、純粋に好きな人の力になりたいと願う。太陽の光が鋭く感じられるような、どこか突き抜けた世界観を感じます。初夏から夏にかけて、太陽の上がってくる時間帯にこの曲をかけて、気持ちにスイッチを入れてみてはいかがでしょうか。

 

 そして、88risingレーベルから、異色のコラボが誕生。

宇多田ヒカルとWarren Hueで「T」。

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曲の中に登場するのは、仕事も恋も、張り切り過ぎて、少し無理をしている彼と、そんな彼を優しく見守り、愛で包み込もうとしている彼女。大人の珠玉のラブソングですね。宇多田ヒカルと言えば、忘れもしない、「Automatic」でデビューを果たした時は、彼女自身も早熟で、尖ったものを感じていました。しかし、時間が経ち、彼女は、自分の息子と言ってもいいくらいの男性と、こんなに大人な世界を歌で表している。

なんだか、とても、感慨深くなる瞬間です。

この曲を聴きながら、大切な人を思って料理をしてみるのも、悪くない、そんな気持ちにさせられますね。

 

 さて、軽快なチューンで、ドライブにもってこいなのは、

Khalidで「Skyline」。

 

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君が僕の腕をとって、車に乗り込めば、なんだかとてもワクワクして、宙に浮かんでいる気持ち。非合法なものの作用のように夢心地になれる。君となら。

サウンドもウキウキしたものが感じられる心地よい曲。MVも、新緑の季節の中、踊りだすKhalidとダンサーたちから、躍動感も感じられます。そのまま、車のCMに使われてもいいような、そんな軽快なナンバーと言えるでしょう。

 

 そして、浮かれた気分の中、家に戻り、曲をかけて、のんびりすごしたいときには、こちらはいかがでしょうか?

tofubeats で「Smile」。

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街を歩いていると、様々な喧騒が自分の周りについて周ります。どこかで、巻き込まれないように、自分の心のスイッチをOffにしておく必要がありますが、そんな時にこの曲は、自分にちょうどいいバイブレーションを運んできてくれます。音楽をただ聞いて、情報を遮断して、自分の空想の世界にトリップできたら最高。サウンドも軽く、ウキウキさせてくれる感じが、この季節の新緑の雰囲気とマッチしているようで、この曲を選びました。

 

 最後になりましたが、皆さんは、この季節、「五月病」に悩んだりすることはありませんか? せっかく新しい季節を迎えているのに、なんとなく、気持ちが前に進まない。ふさぎ込んでしまう。そんな厄介な五月病に効きそうな曲を最後にご紹介しておきたいと思います。

 

Sam Smithで「Love Me More」。

 

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かつては、自分も、自己嫌悪と葛藤していた時期があった。でも、そんなことはもう、過去の事。今を生きていく中で、もっと自分を愛せるようになってみない?優しいボーカルで呼びかけてくる言葉には、力があり、全ての生きとし生けるものへのテーマソングになっている気がするのです。そう、世の中は、悲しいニュースで溢れていて、私たちは、不安が心を占めていることが、多いような気がします。みんなを楽しませる人たちが、実はとても深い孤独を背負っていることもあるのだと気づかされたりします。

そんな時、自分を自分が愛せるように、そして、人を愛して、愛の言葉を発信していけるように。心の応援歌を聴くことで、まもなく梅雨入りを迎えるこの世界に、パワーを注入していきましょう。

 

一風変わった初夏ソング特集。皆様が心豊かに、夏へ向けて進んでいけますように。

 

 

 

 

 

素直にLOVE! 感謝の気持ちを込めて… Family Song特集

 

 

Rabbit Rabbit White Rabbit! いよいよ五月に入りましたね。GWの真っただ中、皆さん、いかがお過ごしでしょうか? なかなか、暖かくならない春。お風邪などひいていませんか? GWが過ぎれば、待っているのは、そう、母の日。年に一度、日ごろの感謝を込めて過ごす日がもうすぐ近づいて来ています。

そこで! 今回は、「ありがとう」の気持ちを中心に、家族をテーマにした曲、個人的に家族と聞きたい曲などをセレクトした、Family Song特集をお届けしていきたいと思います。

 

さっそく、曲探しの旅に出た私。まず、真っ先に耳に飛び込んできた曲はこちら…

 

Taylor Swiftで「The Best Day」。

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正直、この曲を聞いたときには、涙が込み上げてきました。いつでも、どんな時でも自分の味方でいてくれるお母さんのことを歌にした曲。いじめられた時も、ドライブにつれていってくれたお母さん。自然で、ソフトで、でも、深く愛情の込められた優しい曲は、誰にとっても、心にくるのではないでしょうか。

 私自身、思春期には、人間関係でかなり悩んできました。いじめられて帰ってきても、さりげなく気を使って、私が言葉にするのを待っていてくれた母。学校に行きたくなかった高校時代、「今日は学校を休んで、映画を見に行こうか!」と言って、街まで連れ出してくれて見た映画は、「A River Runs Through It」でした。なんとなく、母の優しさと距離感をありがたく思いながら、次の日は頑張って学校に行ったのを思い出しましたね。

見守っていてくれた母への想いが、この曲によって思い出されてきました。

 

そして、家族という存在がかけがえのないものであることを強く歌にしているのは、The Chainsmokers, Kygo の名曲。「Family」

 

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自分のためにどんな犠牲もいとわない存在。それが自分にとっての大切な「Family」。人生に悩んだ時に、家族は、自分のために様々な苦労を共にしてくれたりします。苦しい時こそ、一緒に歩んでくれる家族の存在は、誰にとっても、大切な心の拠り所ですよね。

この場合の家族は、実際の家族の場合もあるし、人生で出会った「仲間たち」のことをさす場合もあるな、と、曲を聴いて感じさせられました。いずれにせよ、そんな強いきずなで人と繋がれることは、自分を成長させてくれると思います。

困難な状況に陥った時に、思い出して聴きたい曲です。

 

ここで、家族のことを歌にはしていないけれども、家族と一緒に聴きたくなる曲をご紹介しておきたいと思います。

藤井風さんで、「ガーデン」。

 

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人生を楽園に例えた、美しい歌詞。人生という楽園に様々な花が人との出会いという形で咲き誇ります。そして、季節は少しずつ移ろい、出会いと別れを繰り返し、様々な感情が降り注いでくる。人生という楽園が果てるまで、多くのドラマが続いていく。こんなに深い人生観がこめられた歌詞を弱冠24歳の若者が作れるなんて、本当に天才と言っていいでしょう。人生で繰り広げられる出会いと別れの中には、家族も存在していることでしょう。一人ひとりへの存在や思いを美しい景色と共に振り返って淡々と受け止めているこの歌からは「達観」した思いも窺えます。大切な人と、この曲を聴いて過ごしてみると、お互いに対する愛情や感謝の気持ちが深まるかもしれません。

 

そして、曲探しの旅の過程で、ありがとうの気持ちをこめた直球のFamily Songと出会うことが出来ました。

Diana Rossで「Thank you」。

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シュープリムス時代から、ダイアナは様々な愛の歌を歌い続けてきてくれました。そんなダイアナの最近の曲は、こんなにも愛と感謝の気持ちを綴ったナンバーでした。おそらく、これまでの人生を踏まえて、自分の側にいてくれた人々や、神様に対しての想いが「Thank you」に込められているのでしょうね。日本版のMVでは、様々な人々が、「ありがとう」の想いをフリップに綴っていて、見ていて、幸せな気持ちになれました。愛することって、ありがとうと言えることって、こんなにも暖かいものなのだと、改めて感じることのできる曲です。

 

様々な形のFamily Songをお届けしてきましたが、いかがだったでしょうか。日本人にとって、「ありがとう」って「I love you」に匹敵する言葉なのではないかなって、個人的に思っています。そんな、愛に溢れた言葉を素直に言えるように、折に触れて、家族と、Family Songを聞いて気持ちを届けることができたら素敵ではありませんか?

カーネーションのお花と共に、とっておきのFamily Songのプレゼント。いつもと違った愛情表現で、素敵な日をお過ごしください。

終わり良ければ総て良し Joji in Coachella2022 思い出日記

 

 

ついにその日が来てしまいました。世界最大級のライブイベント。その名もCoachella(コーチェラ)。日本からは、きゃりーぱみゅぱみゅが出演することで、話題になっていましたよね。実はこのイベント。2020年に開催される予定でした。コロナの問題が起こり、延期に次ぐ延期。2年越しでようやく開催の運びとなったのです。

なぜ、私がそのイベントを知っていたかというと、答えは簡単。推しが出演予定だったからです。 その名は、私が、このブログで何度となく紹介してきたミュージシャン、Joji。

所属する88risingのフェスでは、元気そうな姿を見せてくれていましたし、自身のツアーも成功を収めていた彼の2年越しのステージ。当日まで、心躍る気持ちを抑えることが出来ませんでした。

迎えた当日、事件は起きました。事前にフォロワーさんから連絡が入って知ったのですが、Jojiは急な体調不良で、一旦、ステージを折り、ライブが中断してしまったようなのです。その後、主催者側からの説得により、ステージは続行された模様ですが、本人はかなり体調が悪かったらしく、歌うことがしんどそうだったと、居合わせたファンが口にしていました。

ライブは、YouTubeで配信される予定だったのがそれも、キャンセル。もう、言葉がありませんでした。現地にいない以上、何が起きたのか、私には分かりません。ただ、インスタでコーチェラへ出演することを喜んでいたJojiの気持ちを考えると、とても気の毒におもいました。同時に、2週続けてのこのイベント。もし、体調が思わしくないのであれば、無理をしてほしくない。そのような気持ちが心から湧き上がりました。

そんな、我々ファンの心配をよそにJojiは、インスタストーリーに「2週目、頑張るよ」と気合のこもったメッセージを投稿。「え、大丈夫なの? 無理しないでほしいけど…」心配は尽きませんでしたが、祈るような気持ちで、2週目のライブ当日はやってきました。

もちろん、他のミュージシャンのパフォーマンスも、それまでに堪能はしていました。Rina Sawayamaのアグレッシブなステージ。カーリーレイジェプセンの往年のヒット曲は視聴しながら、口ずさみましたし、同じ88risingのNikiの成熟したステージも、興奮がヒートアップし、「ただでこんなに楽しめていいのかな?」と思ったのを覚えています。

日本でのJojiの放送時間は、4/25 の午後2時。ツイッターを頻繁にチェックしていると、

特に、アクシデントのようなものはなさそう。大丈夫…だよね。直前までなぜか、私まで緊張しながら、チャンネルを開いて時を待ちます。

時間ぴったり、ステージに楽器演奏者が移り、前奏と共に現れたのは、風船ボールを大量に抱え、スキップ姿でさっそうとステージに表れたJoji。「あれ?なんか、楽しそう。今日は調子がいいのかな?」そう思った瞬間、Jojiは語りかけるように「Coachella!」と叫びました。会場は早くもヒートアップ。日が落ちかけたライブ会場に、鳴り響くは、「Sanctuary」のメロディ。思わず、うるっとしましたよね。先週の悲報の後だから、余計に「ああ、私、この瞬間を待っていたんだ…」っておもったのです。

繰り広げられるJojiのステージは、強い刺激を前面に出したものではありませんでした。ステージ上の彼は、淡々と、深い声で、語りかけるように歌をMC挟むことなく、披露していきます。時折何度も「Coachella!」と語りかけると、会場も熱のこもった声援が飛ぶ。Jojiのステージには、刺激的なダンサーも、華やかな衣装も、突き刺さる照明も必要ない。ただ、ゆったりと流れるように心に届く、Jojiの歌声と、珠玉のテクニックを聴かせる楽器の演奏者がいれば、それだけで十分。曲が進むたびに私の心は、温かいもので満たされていきました。「Mr Hollywood」では「Come back ○itch!」とご機嫌なジョークで切ないバラードに彩りを加えるかと思えば、「Gimme Love」では「I Can’t let you go Coachella!」ともしかしたら、自身の境遇に対するジョーク?それとも、来年も参加したいのサイン?などと、期待を抱かせるコメント。曲と、同時に過去、現在、未来がリンクして、ストーリーまで昇華させているみたい。こういうところが、特別なセンスを感じるよなあって改めて、感動させられました。何より、Jojiがステージを思いっきり楽しんでいるのが伝わってきて、そのことが私も嬉しかったです。

ラストの「Slow dancing in the dark」ピアノソロとJojiの第一パートを華麗に歌い上げた後、「See you later」と行って、ステージを去りかけるJoji、「え?、まさか!」と思いかけたのもつかの間「Just kidding! Ahahaha! まだここにいるよ!」とこれまた、ジョークで、本編のボーカルへ突入。も~Jojiったら、最後までごきげんなんだから。

この日のステージは、とても余裕があり、観客も、自然に盛り上がっていくのが分かりました。最後の「daaaaaaaark!」も、ステージと客席、息がぴったり。「Thank you Coachella! I love you!」と叫んだ時に、一瞬、Jojiが浮かべた、感極まったような表情。サングラス越しでも、確かに、Joji自身が、この日のライブに手ごたえを感じて、幸せを感じていたことが伝わってきました。

様々なハプニング続きだったCoachella。けれども、終わり良ければ総て良し。今回のライブイベントを通して、音楽って、ライブっていいなって、久しぶりに思い出すことが出来ました。願わくば、来年までに、世界がもっと、ライブを心から楽しめるような状況になっているように、そう願わずにはいられません。 ありがとう、Joji。 そしてありがとう、Coachella。 また、いつか。

ドラマのクライマックスは… 世界フィギュア2022思い出話4

 

 

世界フィギュア思い出話も、4シリーズ目。今回は最終日に行われた、エキシビションの模様について、触れたいと思います。滑走順は、プログラム親交のまま、順不同となります。

 

アイスダンス銅メダル アメリカのマディソン・チョック、エヴァン・ベイツ組。試合では、奇抜な衣装に超個性的な振付が際立った二人でしたが、EXでは、しっとりとしたバラードナンバーを披露。エレガントなリフトやスケーティングで客席を魅了しました。お互い、力の強弱や、ペース配分を十分に熟知しているだろうことが、演技中のほどよいゆとりから感じることが出来ました。二人を映すスポットライトが白いハートマークに見えて、演技の余韻も味わえるのがEXならでは。

 

女子シングル4位 アメリカのマライア・ベル選手が披露したのは、「レディ・ガガメドレー」。彼女には、ノリノリの洋楽ポップスが良く似合います。シャンパンゴールドの衣装に身を包み、首筋から、肩の使い方で、軽快なリズムをさりげなく表現。特に「Rain on

Me」がかかった時は、動きがのって、躍動感が感じられました。とても、キュートなマライアのショーナンバー、試合同様に魅せ方を知っている選手です。

 

男子シングル銅メダル アメリカのヴィンセント・ジョウ選手。フェニックスを思わせる衣装で滑るのはIllenium の「Lonely」という曲。切なく焦がれる恋心がテーマのこの曲。最初は控えめな動きから始まり、中盤では激しくもがきながら、飛び立つ火の鳥を連想させます。オリンピックからワールドまで、彼はどれだけ悩み、苦しみ、それらに耐えて来たでしょう。ファンミーティングに参加したり、インタビューを読ませて頂いたりした際に、ヴィンスは普段、感情を抑え目にしている人なのかな?と感じることがありました。きっと、周囲を気遣い、わがままが言いたいと思っても、胸の内に秘めてしまいそう。そう感じさせるヴィンスは、スケートの表現の中で、自らの激しさや情熱を外側に放出させているように見えました。どことなく、妖しく、切なく感じるこのプログラムはセルフ・コレオとの噂。彼の代表作に加わる予感がします。

 

 

ペアシングル銅メダル カナダのヴァネッサ・ジェームズ、エリック・ラドフォード組。難しいスローイントリプルルッツを中盤で決める、試合さながらのレベルの高い構成。動きのシンクロもゆったりとした曲に合わせて加速。試合ごとに演技ごとに、ペアを組んで間もないとは、思えない技術力のレベルアップが感じられます。アーティスティックな魅力に富んだ二人。大人の情感を感じさせてくれました。

 

 

男子シングル6位 日本の友野一希選手。演目はサラリーマンの日常を演じる軽快なナンバー、「Bills」。今回、急な世界選手権出場の連絡を、前試合開催地の空港で聞かされた友野選手。EXの衣装を持参していなかった彼は、フジテレビのスタッフさんに頼んで、フランスの地で、衣装を調達。小道具のかばんもなく、フランス出張ということで、スーツケースを代用して、ぶっつけ本番で臨んだとのこと。しかし、不思議なことに急場とは思えぬほど、その場の雰囲気に馴染んでいたのです。今季は、「海外出張」がとにかく多い年でした。イタリア、ロシア、エストニア、そして最終出張はフランス。出張の締めくくりはリクルートカバンから、スーツケース。まるで、新卒の社会人が、キャリアを重ね、大きなプロジェクトを次々と任され、孤軍奮闘、海外出張を成功させる、というストーリーに、小道具もばっちり合っていましたね。今シーズンの友野くんの物語がリアルに伝わってきました。会場からは、割れんばかりの拍手と歓声。終わってみれば、世界を振り向かせた友野くんがそこにいました。

 

アイスダンス 5位 カナダのパイパー・ギルス、ポール・ポワリエ。生演奏による演目は「Starry Starry night」。美しいメロディーに乗せて、抑制された情熱がほとばしるプログラム。随所に凝ったリフトやスピンを織り交ぜ、オリジナリティーを感じさせてくれました。個性と優雅さ両方兼ね備えているのがこのカップルの魅力です。

 

EX後半はメダリストたちの更に激しさを増した演技の数々。

 

男子シングル銀メダル 日本の鍵山優真選手。演目はMisiaで「明日へ」。今どきのJpopをエキシに選ぶ辺り、彼の若さを感じますね。ところどころ、足首の柔らかさや、流れるようなスケーティング等、見せ場を作ります。見ていて、少し思ったことは、このプログラム、Tシャツとデニムで滑ったら、どんな風に見えるだろうということ。彼の若さがもしかしたら、もっと、引き立つかもしれないなどと、個人的に思ってしまいました。10代で、オリンピックに次ぐメダルを獲得。これから、更に個性に磨きをかけていく彼に期待しております。

 

女子シングル銀メダル ベルギーのレオナ・ヘンドリクス選手。なぜか、滑っているときに、しきりにイタリアのカロリーナ・コストナー選手を思い出しました。スケーティングの伸びやスピードがどこか似ていたのかもしれません。勢いよく、ドリルのように滑りぬけるツイズルは非常に見応えがありました。

 

ペア銀メダル りくりゅうこと。日本の三浦璃来・木原龍一組。最初のツイストリフト高い! 流れの中で飛ぶスローイングジャンプも軽々。試合と同じクオリティで技が次々と決まっていきます。プログラムの後半では、非常に危険な力技も2か所ほど披露。メダルが決まってのエキシで滑ることがとてもうれしい、という思いが、演技を通して伝わってきました。爽やかな二人の風がリンクを吹き抜けます。最初から最後まで、笑顔で溌溂としたEXでした。

 

アイスダンス 銀メダル アメリカ マディソン・ハベル、ザッカリー・ドノヒュー組。マディソン選手の花柄のコスチュームが甘い雰囲気を醸し出します。ローテーショナルリフトはとても早く、一歩間違えば危険な技。それをまるで難しいことなどしていないかの如く、魅せてしまうのはさすがです。リフトをされているときの女性の美しい姿勢をキープする力なども、上位に入るのに、必須なスキルなのだということを感じました。

 

 

女子シングル 金メダル 日本の坂本花織選手。演目はセレーナゴメスのセンチメンタルなバラードナンバー、「Lose to love me」。 このように静かなバラードナンバーの中でも、溜めたり放出させたり、エネルギーのコントロールが巧みなかおちゃん。ジャンプも後半にトリプルフリップを入れたり、ジャンプを連続でこれでもかと入れたり、EXだからと言って手を抜かないところが、さすが、金メダリスト。どんなタイプの曲も陰と陽の演じ分けがはっきりとされており、いつまでも見ていたい気持ちにさせてくれるスケーターです。

 

ペア金メダル アメリカのアレクサ・クニエリム、ブランドン・フレイジャー組。再三申し上げますが、この二人のリフト、女性の上空におけるポジションの美しさは類を見ないものがあります。良い意味で、昔ながらのオーソドックスなペアスケーターの存在感を感じるのです。リズムの捉え方も非常にエレガント。全ての技が綺麗でまとまっているってこんなにすごいことなのだと感じさせてくれました。

 

男子金メダル 日本の宇野昌磨選手。演目は「マイケルジャクソンメドレー」。今回のEX、ワールド金メダリストになったことが、やはり嬉しかったのか、いつもよりも楽しそうに滑っているように見えました。マイケルジャクソンの音楽が気に入っているのか、リズムの乗せ方、体全体で音楽を感じている表現が印象に残りました。

 

アイスダンス 金メダル フランスのガブリエラ・パパダキス、ギョーム・シゼロン組。

冒頭、飛び上がった女性のパパダキスを男性シゼロンがぶれずに受け止めて、リフトからスピンをする、という、簡単そうに見えて難しいことから演技が始まりました。重心の低いリフトでも、二人の体勢は崩れることがありません。お互いの体幹がしっかりしているからこそ、エッジを傾けたステップや、軸の取りにくいリフトも軽々とやってのけられるのでしょう。全てのエレメンツが金メダル級であっというまの数分間。競技者としてはこの演技が最後になるとのこと。今後はアイスショーでその確かな技術を再び見せてほしいと思います。

 

世界フィギュア2022のエキシビション、忘れられないドラマのクライマックスが私たちを感動へといざなってくれました。それぞれが培ってきた技術と経験が、名演技へと昇華されていくのを見ているのは、本当に夢のようにうれしいことです。

そして、祈らずにはいられません。また、平和な世の中で、このような素晴らしい試合が開催されることを。