草太くんが笑った日、佳生くんが泣いた日。

 

 

最近、心に残った試合が二つある。11月18~21日にポーランドワルシャワで行われた、フィギュアスケートワルシャワ杯。そして、11月19~21日に行われた全日本ジュニアフィギュア選手権大会だ。

 

ワルシャワ杯で印象に残った選手は、山本草太選手。現在21歳。何度か怪我を経験しながらも、不屈の闘志で、乗り越えてきたファイターだ。もともと、フィギュアスケートのフラワーボーイとして、生で羽生結弦選手の演技を見て、憧れていた草太くん。動きとジャンプに力強さがあり、繊細な中にも男らしさを常に感じさせてくれるスケーターだ。どちらかというと、おっとりな草太くん。同期の友野一希選手たちと、温泉に行くほどの仲良しぶり。オンライントークでも、温厚な人柄が垣間見えていた。長年の拠点を変え、コーチを変え、今年はチャレンジの年と、オフシーズンにも意欲を見せていたのが印象的だった。今季のSPは、「イエスタデイ」FPは「これからも僕はいるよ」。少し意外な気がしていた。和のテイストや正統派のクラシックなど、シリアスで重厚な感じの曲調に挑むイメージが草太くんにあったからだ。繊細なバラード、情感がテーマの曲調。今年はどこか、柔らかさのある曲がメインテーマの様子。かなりのイメージチェンジに思えた。

音楽がきこえてきた瞬間、草太くんの動きからは、柔らかさとやさしさがにじみ出ていた。リズムに素直に流れるスケーティングはそのままに、ジャンプも美しい形で行いながら、曲の強弱をつけて滑る草太くんはとても素敵だった。「いつの間にか、大人の青年になっていたのだな。繊細なナンバーをスピードの中で演じ切っている。すごく変わった…」いつも控えめな草太くんが見せてくれたエモーショナルな感動。ストイックにスケートに打ち込む中で、更に表現に円熟味を増していたことを最新の試合で感じることができた。演技が終わった瞬間に、いつもの温厚な草太くんに戻っていたけど、私はその成長が、うれしかった。

高得点でワルシャワ杯優勝。草太くんが表彰台の真ん中に。本当にうれしい出来事だった。表彰式の真ん中で、国旗と違う方向を向いて国家を歌ってしまい、3位のロシア代表、グメンニク選手に「ねえねえ、あっち」と、正しい方向を指摘され、照れたように向きを変えたのはご愛敬。でも、長年応援してきたからこそ、分かったのです。草太くんが満面の笑みで、喜びをかみしめていたこと。長年努力していたことが、花開く瞬間を見せて貰えて感謝の気持ちでいっぱいだった。

一方、全日本ジュニアのSP、ショックなことが待っていた。優勝候補。16歳の若武者、三浦佳生選手。なんと、トリプルアクセルのジャンプが、リンクの穴にはまり、1回転になってしまうという、痛恨のミスを犯してしまったのだ。自分でも、ショックで呆然としたのだろうか。最後のスピンでも、精彩を欠いてしまって、得点は伸びず。「何が起きたのか分からない」と試合後、口にした佳生くん。ファンには、応援することしかできないのが辛かった。だが、迎えた後日のFP、佳生くんはドラマを見せてくれた。FPはフラメンコ調のプログラム、ポエタ。冒頭のジャンプから、踏切がクリーンで、降りた後も流れの途切れない美しいジャンプを連続で決めていく。SPでは硬さも見られていた動き。しかし、曲の盛り上がりと共に、動きがダイナミックになり、佳生くんの華のあるスケーティングが冴え渡った。最後まで強気な気持ちが途切れずに、カッコよさと気持ちのいい風が吹き抜けるようなまぶしさが、リンクに残った。演技を終えて、帰ってくる佳生くんはガッツボーズ。途中、転倒もあったが、佳生くんのいいところが随所に見える演技内容だった。点数が出てびっくり、圧倒的高得点で、一気にトップに躍り出る。その瞬間、佳生くんは泣いた。今まで、見せたことのないような幼い表情で泣きじゃくった。もともと、佳生くんは、気が強い子だった。早くから頭角を現していた新人で、「(シニアの)お兄さんたちが4回転飛ばないから、僕、飛んじゃいます」と、かなり大胆不敵な発言もしちゃうくらい、向こうっ気が強いところも魅力的な選手だった。佳生くんの涙を見たとき、彼がまだ、あどけない16歳の少年で、それでも、ここ一番、大事な勝負の大きな壁に必死で戦い続けてきていることを、改めて感じることができた。きっと、いろいろなものを賭けて、いろいろなものを背負って試合の場所に立ち続けている。過酷な戦いにこれからも挑み続けていく、佳生くんのストーリーを、これからも見つめ続けていきたいと思った。

 

時々、フィギュアスケートは悲しい。悲しみを背負って去っていく人は、この競技においてあまりにも多い。ある時期、私はフィギュアスケートに絶望し、もう、フィギュアスケートを見なくてもいいかもしれないと思ったことがあった。

それを変えてくれたのは、他でもない、羽生結弦選手だった。彼のピュアな魂は、この何年間か、フィギュアスケートに一筋の光を照らし続けて来た。私はその一筋の光に導かれて、くじけそうになった心を奮い立たせて、フィギュアスケートを応援してきた。

 

そして、羽生くんが歩んでくれている、その一筋の光の道に草太くんも、佳生くんも、泣いたり、笑ったりしながら続いている。後に続く彼らも成長しながら、光の道を絶やさずにいてくれるだろうか。

 

私は、この先も見つめていたい。スケートを通して彼らの人生に触れてきている気がする。これからも悲しくて素晴らしいフィギュアスケートの世界を、一人一人、私なりに応援しながら、見届けられたらいいな、って思っている。