「名前なんていうの? 俺、カムデン。今日から友達ね!」~氷上のムードメーカー、カムデン・プルキネンのこと~

「名前、なんていうの? 俺、カムデン。今日から友達ね!」まるで、そんな風に初対面の人に話しかけているような、人懐っこくて、誰とでもすぐに仲良しになれる、きさくなスケーター、カムデン・プルキネン。アメリカの若きホープである彼の存在に注目したのは、2017年のことだった。

何気なく見ていたフィギュアスケートジュニアグランプリシリーズ。17歳の彼のスケートは怖いもの知らずで、大胆かつ繊細なものだった。ショートプログラムでは、Cold playの「Fix you」、フリープログラムでは、ショパンのクラシック、現代音楽も、クラシックも、彼は自然に自分のものにして、表現しているように見える。氷上に立ち、滑り始めると、彼の姿勢の良さは、とても際立っていた。なんというか、ひざが曲がっているとか、どこかが伸びきっていないというところがなく、体の隅々まで伸ばした姿勢が、とても気持ちがよく、真っすぐな印象を与えてくれたのだ。それに加えて、繰り出すジャンプは、とても思い切りが良く、決まるととても大きく、ダイナミックないいジャンプ。特に、うまくいったときのトリプルアクセルは非常に爽快だった。ひとたび演技に向かうと、見るものを惹きつけて、彼を身近に感じさせてしまう。それは、彼の天性のカリスマだと思う。

2018-2019シーズン、彼は新たなチャレンジをすることになる。伝説的なスケーター、ステファン・ランビエールに指導をしてもらい、今までとちがった、大人っぽいショートプログラムオブリビオン」を披露した。それまでの元気なイメージのカムデンとは少し違う、陰りを感じさせる演技力を発揮した。フリープログラムの「ウェストサイドストーリー」でも、悲恋の色合いと熱を帯びたプログラムで、「演じる力」を私たちに見せつけてくれた。少年から、大人に変わる難しい時期に、守りに入らずに、自分のカラーを増やすために新しいスタイルに挑んでいくカムデンがそこにいて、ますます、応援に熱が入った。

シーズンを進めるごとに、存在感を増していったカムデン。そんな彼にレジェンダリースケーターが、温かい励ましの言葉をかけたのは2019年のスケートカナダでのことだった。

ショートプログラムが終了した後の上位3名による記者会見時、2位のカムデンに、1位の羽生結弦選手が「彼はパワフルなスケーターだと思ってみていた」と、リスペクトの言葉をかけてくれたのだ。その時のカムデンの驚きと喜びの表情!「わーお!マジで!」と聞き返しているかのような無邪気なジェスチャー。笑顔でうなずく羽生くん。緊張で張り詰めるはずの記者会見が、一気にフレンドリーで心温まる場所になった。きっと、それは、カムデンのひたむきで潔い姿勢が感じられるスケートが呼んだ暖かい瞬間だったのだと思う。

この年、四大陸選手権でも、羽生くんと再会したカムデン。なんと、羽生くんの方から、カムデンの方へ近づいて来てくれて、写真を一緒に撮ったそう。すっかり打ち解けているような二人のツーショットは瞬く間に、拡散されて、トップ選手とも、「マブダチ」になれるカムデンの人柄とスケートは更にファンを獲得するようになった。

2019年のカムデンの演技、とても素晴らしくて今でも心の保存版だ。スピードの中で即座に飛ぶジャンプ、加速していく中で、指先まで余韻を残すムーブメント、男性らしさと繊細さが共存している表現力。演技が終わっても、すぐにポーズを解かずに、そこでも余韻を残す細やかさ。全て、彼がひたむきにスケートに向き合っていることが伝わってくる演技だから、お客さんの心が終始、彼の演技の間、彼とコネクトするのかもしれない。試合が終わるたびに、もっと、彼を見ていたい。もっと、応援したい。という気持ちに彼はさせてくれた。

 

今年の6月、カムデンはコロンビア大学に合格し、更なるキャリアアップへ進むことを発表。コロナの難しい状況の中、フィギュアの練習に励み、勉強も努力を続けていたカムデン。カムデンの未来が更に輝かしいものになることを切に願って止まない。また、フィギュアスケートシーズンが始まったら、氷上で、きさくな笑顔と演技を私たちに見せてほしい。そう、氷上からお客さんに「名前、なんていうの? 俺、カムデン。今日から友達ね!」っていうみたいに!