サカナクションを聴きたくなる時~季節に寄せて~

 

その日、いつものように何気なくテレビをつけて、音楽番組を眺めていたら、画面の中で、ふと心をつかむアーティストの歌が流れてきた。まるで80年代の杉山清貴&オメガトライブのような衣装とメイク。演奏は日本がまだ豊かだった時代のようにキラキラしていて、歌詞は、ずっと思い続けていた誰かの存在を美しく切り取っていた。思わず時間を忘れて見入ってしまった。アーティストの名前はサカナクション

曲は「忘れられないの」。

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「なんていい曲なのだろう。すごく斬新なグループ」そう思った私は、それ以来、サカナクションの曲を探す日々を繰り返した。

正直、こんなにファン歴が浅いのに、ブログを書く資格などないのではないかと、今まで、サカナクションをテーマのブログに着手するのにためらいがあった。しかし、昨年、サカナクションの配信ライブ SAKANAQUARIUM光ONLINEを鑑賞。チャットで長年のファンの方々と触れ合ったとき、サカナクションのファンの方々は、ご新規のファンにも温かくて、色々と教えて下さる方々ばかりだった。ボーカルの一郎さんも、インスタライブでファンに語りかけるときに包容力があって、物の見方の広さと深さを感じさせる方だと感じた。ファン歴が浅くても、今の自分がどんな時にサカナクションの曲を聴きたくなるのか、サカナクションの曲でどんなに力をもらっているか、言葉にしても許してもらえるかもしれない。これは、サカナクションに関しての新人ファンの公開ラブレターだ。そんな風に思いを形にしてもいいのかもしれない。そう思い、今回、ブログを書くことにした。

 

サカナクションは2005年に結成され、2007年にデビューした、ボーカル山口一郎氏を中心にした男女5人組の音楽グループだ。その存在は知っていたのに、実際に音楽に触れるのがあまりにも遅くなってしまったことを我ながら後悔した。調べていくと、サカナクションの曲は、名曲ぞろい。サウンドとメロディーは近未来的で洗練されているのに対して、歌詞は、日本語の美しさと独特の韻、俳句を思わせる日本人の心情の表し方が秀逸だったのだ。今回、どんな時にサカナクションを聴きたくなるのか、私なりのサカナクションへの気持ちを綴ってみたいと思う。

 

サカナクションの曲で特徴的なのは、季節の捉え方かもしれない。変わり行く季節の感じ方が実に日本的で、私たちの心をとらえてしまうのだろう。山口一郎氏は常に独自の視点で季節の変化を切り取ってみせる。

 

まず、春に聴きたくなるサカナクションの一曲。それは「なんてったって春」。

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春は出会いと別れの季節だけど、この曲はおそらく別れの歌。風景が変わるごとに一瞬一瞬変わっていく人の心。恋の儚さが滲んでいる。春は、個人的にいつも不安な気持ちになってしまう季節。雨の日は余計に焦りが生まれてしまう。そんな日に、家でじっとしているとき、この歌を聴いていると、美しい色とりどりの春のイメージが膨らんで、不安な気持ちを忘れさせてもらえるのだ。

 

そして、夏に聴きたくなる一曲は、「白波トップウォーター」。

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夏の夕暮れは全てが赤く染まっていく。でも、その美しさはすぐに消えてしまう。そんな時、「美しさって瞬間だな」って感じることがよくある。そんな夕暮れ時によくこの曲を聴いてしまう。刹那的な夏の風景にこの曲はとてもよく合うのだ。

サウンドが、泡立つ波を感じさせて、感傷的な心と波のうねりが交錯する神秘的な曲。

 

秋には、個人的にとても思い入れのある曲。「多分、風。」

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芽生えた感情は、一瞬のことのように感じられる。けれど、それは、忘れられないほど、強烈で刺激的だったのではないか、と思わせる。激しく高まる気持ちが、吹き抜ける風に込められる。これはまさに、俳句の世界だ。おそらく日本人にしか表現できない愛の表現だと思う。MVも「あの子」も「本人」すらも、存在しているのか存在していないのか、微妙な心理を見事に映像化していて、強いインパクトを残す。「風」を描いたこの曲を聴いていると、一瞬一瞬を大切に忘れないでいようという気持ちにさせられるのだ。

 

冬、心に残るのは「ネイティブダンサー」。

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忘れられない人の思い出に、雪が降り積もっていくような。でもどれだけ降り積もっても、過去の出来事は消せずに心の中に残り続ける。恋の思い出ではないが、自分にとっての悲しい出来事は、あの東日本大震災だ。雪が降り積もってもあの思い出は、消せない傷になっていくのだろう。

とがったメロディーラインと、淡々と歌うボーカルが余計に切ない。

 

心にセロトニンがほしい時もサカナクションを聴いてしまう。

とりわけ「years」。

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コロナ禍で心がぎゅっと締め付けられる波が来るとき、この曲を聴くと、穏やかでエモーショナルなボーカルと美しいMVが、すっと心に入ってきて、励まされるのだ。

 

こんなに、複雑な人の心を丁寧に歌詞にできる今の日本のミュージシャンは、サカナクションが一番なのではないかと思う。個人的に私の中で世界進出してほしいアーティストの第一位はサカナクションである。これからもっと、サカナクションの世界を深く掘り下げていきたいし、新曲も楽しみに待っていたい。そんな風に応援できるアーティストを見つけられたことは、本当に幸せなことだと思う。