マイケルはもはやスタンダード⁉ My Best Of Michael Jackson プログラムについて

 

 

いよいよ7月になり、新しいスケートシーズンに突入しました。そろそろ、新しいプログラムの発表がタイムラインを賑わす時期になってきたでしょうか。なかなか、不安定な世界情勢とはいえ、新しいシーズンに期待を込めて、ワクワクする気持ちは、やっぱり、特別なものですね。

 ここ最近、タイムラインをぼんやりと眺めていたら、マイケルジャクソンのビリージーンに合わせて、軽快なステップを見せてくれたスケーターのショートムービーを目にしました。そういえば、去る6月25日はマイケルジャクソンの命日でしたよね?

そういうわけで、今回は、ふと、「My Best Of Michael Jackson プログラム」について、思いを綴っていこうと思います。

 

まず、忘れてはいけないのは、レジェンダリースケーターの一人、エフゲニー・プルシェンコ選手の2002年ソルトレイクシティオリンピックショートプログラムマイケル・ジャクソンメドレーです。当時、王子様のイメージが強かったプルシェンコがマイケルジャクソンにトライ?とびっくりしたのを覚えています。しかし、王者プルシェンコにできないプログラムはない! 最初のジャンプこそ、失敗したものの、スケーティングを駆使した、細かい複雑なステップワーク、男性では珍しいビールマンスピン、流れのある大きなジャンプ、全てが大きなインパクトで、あっという間にマイケルナンバーを彼の色に染めてしまっていました。何よりも、このプログラムを滑っているときのプルシェンコは、とてものっていて、マイケルを演じることを楽しんでいるように思えたのも、新しい発見でした。「They Don't Care About Us」や「Childhood」など、あまり、マイケルの楽曲で、フィギュアに使われない選曲をしているところも、プルシェンコさんならではだな~、これ、19歳の仕上がりじゃないよな~、流石だな~、と、ただただ、感嘆の領域でした。

 

最も意外なマイケル・ジャクソンメドレーと言えば、2013-2014シーズンの、シブタニ兄妹が披露したフリーダンス。実は、シーズン当初はどこか、ぎこちなく違和感があったのを覚えています。と、いうのも、アレックス・シブタニマイア・シブタニは、どちらかというと、エレガントなプログラムが得意なカップルというイメージが当時あったのです。ところが、シーズンが進むにつれ、二人のムーブメントがどんどん勢いを増していき、世界選手権の時は、マイケルが憑依したのでは?と思わせるくらい、二人の雰囲気になじんでいて、見るものをアッと言わせていました。特に「スリラー」のパートは、何も特殊メイクをしていないのに、MVのモンスターが二人を通して、見えてくるくらいの熱演。シーズンを通して、プログラムを自分のものにしたマイケルメドレーとして、私の記憶に残っています。

 

次に、個人的にすごく惹かれるプログラムは、アレクセイ・クラスノジョン選手の2015-2016シーズン、ショートプログラム「Jam」。この曲も、意外とマイケルのナンバーで使われることが少ない曲。ラップの部分に合わせてステップを組み合わせてくるのも新鮮な試みでした。彼の良いところはなんといってもジャンプの思い切りの良さだと思っています。どのようなジャンプも、失敗を恐れずに驚くべきスピードで挑んでいきます。失敗のリスクもそれだけ高くなってしまうけど、決まった時のジャンプはとてもキレがあり、曲のスピードも相まって、ステップの一部のように見えてしまうくらい綺麗でした。ところどころ、ムーンウォークや、これぞ、マイケル、というような振りもあり、緊張感漂うショートプログラムなのに、とても楽しい気持ちにさせてくれるプログラムで、今でも時々、見返したくなります。クラスノジョン選手は、最近引退を発表し、勉学に励む道を選びました。もう、彼のダイナミックなジャンプを見られなくなってしまうのは、悲しいけど、選んだ道で、これからも、彼らしく、頑張っていってほしいと心から思っています。

 

2015-2016シーズンにマイケルプロに挑んでいたスケーターは、もう一人。なんと、ネイサン・チェン選手も、ショートプログラムで、マイケル・ジャクソンメドレーを披露していました。このころ、ネイサンは10代だったのですが、醸し出す雰囲気が大人っぽいな~と思って注目していました。冒頭の「Smile」では、ゆったりと曲に体を預けて、のびやかなムーブメントを魅せてくれたかと思うと、曲が変わって「Smooth Criminal」になった途端、雰囲気が一変します。抜群のリズム感で、マイケルのどこか背徳的な雰囲気を堂々と演じ切ります。クラスノジョン選手とはまた違って、ニヒルな感じが漂うマイケルプロでした。思えば、このマイケルのプログラムは今のネイサンに繋がる何かを見せてくれたものだったかもしれません。クールでスマートで、自分が何を求められているかを瞬時に理解して、男前に滑り切る。オリンピックを経験してからは、更にクールさに磨きがかかったような気がしますね。キャラバンや、ネメシスへとつながる、ワイルドな男らしさの原点と言えるべき、このマイケルプロ。まだ、衣装がシンプル過ぎないネイサンが見られる貴重な一ページだったと思います。

 

更に、最近の女子選手でマイケルナンバーにトライしていたのは、樋口新葉選手。2018-2019シーズンのエキシビションプログラムは、ブノワ・リショー氏の振り付けによるもの。最初から、個性的なパントマイムで独特な世界への入り口を見せた後は、約5分、ノンストップで、これでもか、というほどのテクニックを披露してくれます。きびきびとしたフットワーク、滑らかなツイズル、後半苦しいところで決めるトリプル・ルッツジャンプ。まさに、鬼プロ。新葉ちゃんでなければできないエネルギッシュなプログラムで、観客を魅了してくれました。女性の動きで、マイケルを演じるのは、結構難しいような気もするのですが、彼女のばねのある動きはとても、マイケルの曲に合っていて、健康的なセクシーさを感じさせてくれました。チャレンジのエキシビションだったと思いますが、お客さんもみんな、喜んでいて、彼女の新しい魅力を開拓したのではないかと思っています。

 

どの選手のマイケルジャクソンプログラムを見ても、共通して言えることは、「みんな、とっても楽しそう」ということです。フィギュアスケートを見ていると、年間、どこかの国の誰かは必ずトライするくらい、もはや、フィギュア会のスタンダードといってもいいほどの位置にいるマイケル・ジャクソンの曲の数々。いかに自分の色にマイケルナンバーを染め上げるのか、とてもチャレンジングで、選手はモチベーションが上がってしまうのかもしれないですね。今年も、どんなマイケルナンバーが私たちを楽しませてくれるのか、今から、シーズンの開幕が待ち遠しくなっています。