Rina Sawayamaを知っていますか? 個性的な歌姫の道のり

 

 

海外で話題の日本人シンガーがいる。その噂をSNSで目にしたのは、2年ほど前のこと。彼女の名前はRina Sawayama。新潟県出身で、ロンドンを拠点に活動しているシンガーソングライター。ふとした、好奇心で曲をチェック。最初に目に飛び込んできたのは、「Cherry」という曲のMVだった。

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かなり、挑戦的な演出、踊り、メイク。歌詞の内容は、思いを寄せている女子に「私のCherry(最初の人)になってくれない?」と誘いかけるもの。「おそらくはLGBTQの方なのだろうな」とすぐに分かった。後のインタビューで彼女が自身のセクシャリティを「パン・セクシュアル」(全性愛者。男性・女性・トランスジェンダー・愛する対象が性別に捕らわれない)であると語っている。ケンブリッジ大学に在学していたRina Sawayama。アジア人差別から、いじめを経験していたようだ。うつ病を経験した彼女を受け入れてくれたのが、LGBTQのコミュニティーであったという。

ストレートの自分にとって、正直、軽い驚きはあったものの、そういった事実はあまり気にならなかった。彼女の歌声が最高に気に入ったからだ。妖しく危うい世界観のMVとひたむきに相手に問いかける切なさ。その中で、生き生きと力強く歌い上げる圧倒的なボーカルには、パワーと深さが感じられた。

Sawayamaさんの歌の世界には、友情と愛情のアンバランスなコントラストが感じられる曲がある。

アルバム「SAWAYAMA」に収録された曲の中の一曲。「Bad Friend」だ。

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友達と疎遠になって、自分が壊してしまった人間関係。そのことがずっと心にひっかかっていたのだろうか。何度も「I’m a bad friend」と繰り返すフレーズ。彼女の後悔や苦悩が感じられる。美しいメロディーと対照的な攻撃性のあるMVを見ていると、友情の儚さや、青春の狂気のようなものを感じて切なくなる。

最近は、日本のテレビ番組などに取り上げられることも多くなってきたSawayamaさん。日本でもかなり、知名度が高くなってきたのだろうと思う。

日本語で話すこともある彼女は、少し、シャイで、礼儀正しく知的な日本女性という印象だ。

快活に話す彼女を見ていると、「こんな、素敵な女性なのに、世界でこんなに苦労してきたんだな…」と複雑な気持ちになった。

人種のマイノリティーセクシャルマイノリティー、どんなに多様性を世界が訴えても、なかなか、世界はひとつになったりはしない。理解し合うということは、とても難しいのだと、常日頃から考えさせられる。ストレートの私も、幼い頃から、生きづらさと戦ってきた。どこのコミュニティーにも属せないことの痛みも経験してきた。けれども、私の「痛み」と彼女たちの「痛み」は、辛くても同じものではない。とてもデリケートな問題だ。

フィギュアスケートを長年見ていると、時間がかかって、カミングアウトする選手たちの言葉を受け止めることがたまにある。心に痛みと解決できない難しさを抱える人に驚いたりすることは少なくなってきた。そう、まだまだ理解にはほど遠いけれど、受け入れて前に進む時代になってきつつあると感じる。自分と他人。考え方、感じ方、全て理解することはできなくても、歩み寄れる瞬間が増えれば、一歩ずつ、世界は動いていく。

 

最後に最近リリースされたRina Sawayamaと、Elton Johnのコラボ曲。「Chosen Family」をご紹介。

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この曲で表現される「Chosen Family」に様々な意味を感じてしまう。Sawayamaさんと、Elton。年齢も人種も、経てきた時間も違う二人。でも、確かに通い合う思いや絆。二人でこの歌を歌うことによって、広がっていく世界を感じて、心が動かされた。なんて、優しく、切なく、強い意志を感じる歌だろう。私たちは、様々な思いを経てどこかで、家族に「辿り着く」のかもしれない。これからも、Sawayamaさんの活躍を注目していたい。唯一無二の個性と歌声を持つ彼女が、歌を通して、私たちに届けてくれるエネルギーに励まされたいと思っている。

 

こんな時だからこそ、クリスマス! 心躍る私のクリスマスパーティーソング特集

 

 

今日は、お歳暮の手続きで少し外出していました。例年、12月と言えば、クリスマスや年越しの準備で、店は買い物客で賑わうはず。それなのに、コロナの影響なのでしょうか?少し大きめのショッピングモールに人の気配はそれほどなく、食品売り場も、衣料品売り場も少し、寂し気な空間でした。人けがそれほどない店内を、クリスマスソングがエンドレスで流れるのを聞いたとき、「そうか、もうすぐクリスマスだ。今年はなぜか、そんなこと忘れていた」と気づかされました。

今年もサンタの足音が聞こえてきそうなこの時期、私がクリスマスパーティーで聴きたい曲をご紹介して、お祝い気分を高めていきたいと思います。

 

まずは最初のお気に入り。アリアナ・グランデの「Winter things」。

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この曲は、2015年アルバムの「Christmas & Chill」に収録されています。主人公の住む世界は、雪景色とは程遠い。暖かい地方。気温も高く、冬の気配はないけれど、あなたと共にクリスマス気分を味わいたい。雪が降ってくれたらいいのにな。寒くなってくれたらいいのにな。そうして、あなたと素敵なクリスマスを過ごしたいの。一風変わったシチュエーションで冬を歌っている曲です。東北に住む私は、どちらかというと、雪が苦手。寒い北風が吹くたびに、夏の光景が恋しくなる立場です。詩の内容を読んで、自分とは全く逆の冬へのあこがれが、新鮮で可愛らしく思えました。アレンジやサビの部分で、クリスマスらしさを感じられる、冬になったら聴きたくなる曲です。

 

クリスマスには切ない曲も数多くありますね。その中でも、歌声がキャッチ―に飛び込んでくるのは、デンマークのバンド、Lukas grahamのHERE(For Christmas)。

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恋人と別れて大分経つけれど、それでも、毎年クリスマスのこの時期になると、愛しい彼女のことを思い出してしまう。主人公。本当に大事に思っていた人だからこそ、クリスマスの日に一緒にいられないは切ないですよね。去って行ってしまった後も、その人は自分の心の中に居続ける。静かで強い愛の決意をこの曲から感じることができます。ロマンティックなサウンドも相まって、エモーショナルな世界が広がっていきます。

 

変化球と言えばこの曲。tofubeatsの「LONELY NIGHTS」。

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とても抽象的な歌詞ですね。クリスマスの言葉は出てきませんが、私はなぜか、クリスマスにこの曲を聴きたくなります。情景やシチュエーションはとても刹那的。一瞬の風景、一瞬の記憶と情熱が入り混じり、一夜、踊りあかしたくなる衝動まで、鮮やかに切り取られて、伝わってきます。あまり、感情をこめすぎない、淡々とした歌い方や繰り返しのリズムが寒い冬の日の気配をリアルに引き立ててくれる不思議な曲です。

パーティーの途中で、無心で踊りだしたくなる時に、こういう曲をかけてみるのはいかがでしょうか?

 

88risingの歌姫、Nikiも独特な味わいのクリスマスソングを発表しています。曲名は「Split」

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詩の中には、彼女の亡くなってしまったお母さまや、ジャカルタにいるお父様への想いが静かに語られています。「Split」には「分割」や「分断」という意味があります。家族と一緒に過ごしたくても、そこには距離があって、会えない時間が存在します。詩の中には、二つの国の間で分割する心情が綴られているようだと思いました。昨今、私たちは思いが「分裂」する瞬間をあまりにも多く目にする気がします。そして、そのたびに心を痛めることが多くなってきていますね。彼女の若さでそのようなことに目を向けて言葉にのせることは、とても意味深いと思います。もうすぐクリスマス、というフレーズには「祈り」すら感じました。

 

そして、今月、超Bigネームのコラボでクリスマスソングがリリースされました。

Ed SheeranとElton Johnで、「Merry Christmas」。

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この曲は、まさに今、みんなが感じる気持ちが曲になっていると思います。今年も、いろいろ大変でした。でも、せっかくのクリスマス。少しでもハッピーに思いやりに溢れた時間をみんなで過ごそうよ!そんな、温かいメッセージが込められた王道クリスマスソングです。

長く親交のあった二人だけあって、息がぴったり。MVもゴージャスで、見ていて、ウキウキしてくるような映像になっています。

そうですね。今年もいろいろありました。不安なことも多い中で、こんな時だからこそ、クリスマスにワクワクする気持ち、大事な気がしてきています。様々なカラーのクリスマスパーティーソングで、きらきらしたひと時を過ごせますように。

Merry Christmas!

ロシアより愛をこめて グランプリシリーズ ロステレコム大会 男子フリー観戦記

 

 

フィギュアスケートグランプリシリーズロシア大会、男子フリーが先ほど行われました。

ショートプログラム一位で折り返した友野一希選手。果たして、フリーではどのような演技を見せてくれるのか。友野くんファンの私、実は朝から緊張していました。そわそわ、心ここにあらずで、気が気じゃなかったのです。リンクに立てばそこは、選手一人の空間。私たちファンは応援することしかできません。

選手たちがリンクに呼ばれ、名前がコールされたとき、友野くんは柔らかないい表情でほほ笑んでいました。ショートプログラムの結果から、本日は最終滑走で臨まなければいけない状況。とてもプレッシャーがかかっていたはずです。でも、友野くんは、笑顔で歓声に応えていました。

友野くんのフリープログラム「Lala land」。自身が強い思い入れを抱いて選んだナンバーです。冒頭の四回転3回転がきまった瞬間。自分の中で変な声が出ました。スピードに乗って回転のキレイな流れのあるジャンプ。とても軽やかに降りました。

その後はもう、スリリングな展開。着氷が乱れたり、転倒もあったりしましたが、ミスを最小限に抑えると、そこから先に待っていたのはスピードに乗った美しいステップとスピン。友野くんはもともと、スピンやステップに定評のある選手です。ですが、今回は今までの友野くん史上最も美しいスピンとステップで心を掴まれました。会場からは、自然と沸き上がる歓声。楽しく、踊る喜びに満ち溢れ、躍動感のある、友野くんの物語が、リンクに綴られていきました。演技を終えた後、コーチの元へ戻った友野くん。「これが今の僕の実力」とぽつりとつぶやきました。あれだけのプレッシャーの中で、ここまで、心が震える演技を見せてくれたのに。でも、その言葉からはなんとなく、前向きなニュアンスを感じ取ることができました。これから、一歩一歩前に進んでいこうとしている、そういうストイックな姿勢がその言葉に表れていたと思います。

得点は、僅差で3位。表彰台を確定させました。ファンとしては、もっと、点が出てほしかった。私の中では金メダルでした。以前にも、このロシアの地で、銅メダルを獲得した友野くん。同じ順位でも、今回は意味が違う気がします。今までよりも一際レベルアップした演技をショート・フリー共に表現できました。今後、更に友野くんの世界は広がっていくのではないかと思います。次につながる結果を残せたロシア大会になりました。

2位に入ったのは、ミハイル・コリヤダ選手。ショートプログラムでは硬さがあり、得点が伸びませんでした。フリープログラムでも、ミスはありましたが、後半に行くに従って、ジャンプも落ち着き、「シンドラーのリスト」の世界に自然に惹きこまれていきました。グランプリファイナル進出を決めたコリヤダ選手。アメリカのジェイソン・ブラウン選手との「シンドラー対決」の行方も非常に気になります。

今回のロシア大会。テレビ放送もありました。残念だな、と思ったのは、「不必要な煽りの多さ」。どうして、一人ひとり、公平に淡々と紹介することができないのでしょうか。私たちが見たいのは「選手の演技」なのです。どうせ、煽るのであれば、その試合に出ていない選手の煽りではなく、その試合で活躍した選手一人ひとりに平等にスポットライトをあてて頂きたい。本当にそのように思いました。

さて、明日は、選手の違った一面が見える、エキシビションです。今回の友野くんのエキシビションナンバーは、とても個性的で、アイデア満載のプログラムなので、多くの人に見てもらえたらいいな、と思います。

ドキドキしたり、ひやひやしたり、結果に納得のいかないこともあるけれど、フィギュアスケートは本当にドラマティックで目が離せない競技だと思います。ロシアの地で、戦い抜いた選手たち、忘れられない瞬間をありがとうございました。明日も一心に楽しみたいと思います。東日本より愛をこめて。

積み重ねた時間… グランプリシリーズ ロステレコム大会男子SP観戦記

 

 

すみません。まだ、グランプリシリーズロステレコム大会。ロシアで開催中です。まだ、全ての競技の一日目の途中です。しかし、溢れる感動を抑えることができなくて、今、ここに言葉で綴りたくなりました。本当に個人的な備忘録です。

 

ロシア大会が始まる前に、私のお気に入り、友野一希選手がインスタストーリーを更新していました。ロシアの会場に着いた友野くん。なんだかとてもいい顔をしていたのです。すごく晴れやかなきらきらしたいい笑顔。プレッシャーとかそういう影はその屈託のない笑顔からは感じられずに、「この試合、何かいいことがありそうだ…」と期待の気持ちが高まってしまいました。

ここのところ、忙しく、バタバタとして、なんとなくふさぎ込んでいた日々でした。友野くんの笑顔をみんながどんなふうに話しているのかな、と気になってタイムラインを覗いたら、そこには、長年、友野くんを応援し続けて来たなじみのフォロワーさんたちの温かい言葉が並んでいました。たった、それだけのことなのですが、私はすっかり嬉しくなって、「友野くん頑張って」の言葉を綴らずにいられなくなりました。

そして、今日、ショートプログラムが始まりました。前半グループの友野くん。スタートラインに立ち、一呼吸。音楽が始まった瞬間、空気が変わっていくのを感じました。

曲は、「ニュー・シネマ・パラダイス」。以前にも滑ったことのある、エモーショナルな曲調のプログラムです。友野くんの動きは軽やかで、スケートも滑らかに溶けていくようでした。ジャンプ、いつも苦労してきた高難度の四回転三回転のコンビネーションジャンプ。力を入れているようには見えない綺麗なジャンプを決め、降りた後も流れがありました。その後も、友野くん、次々とジャンプを決めていきます。でも、不思議。驚いていませんでした。私。全ての動きがつながって、自然で、きっと、すごく練習してきたのだろうな、と感じさせてくれたからかもしれません。研ぎ澄まされているのに繊細な、友野くんの世界が、そこにひろがっていきました。終わった後は拍手喝さい。なぜか自然に、涙がこぼれてきました。いくつもの悔しい瞬間、うまくいかない瞬間を乗り越えて、友野くんが表現したかった演技ができたことが嬉しかった。ただただ、今まで、ずっと応援してきて、ずっと演技を見せて貰えていた日々が思い出されてきて、全てが今日の演技につながっていたのだな~と思ったら、涙を抑えられなかったです。タイムラインをふと、見れば、私のように感じていた方が他にもたくさん!みなさん、本当に興奮冷めやらぬ幸せな世界線にいましたよね。今日の演技をみなさんとシェア出来てよかったです。友野くんも、今までいっしょに応援していたみんなも大好きだ!

ショートプログラム首位で折り返した友野くん。SNSで世界のトレンドにも入りました。まだまだ大事なフリーが待っていますが、今は瞬間を抱きしめたい。積み重ねた時間はものすごいドラマに変わりました。素敵な演技を見せてくれて、本当にありがとう。

友野くん以外で気になった選手は、カナダのロマン・サドフスキー選手とアメリカのカムデンプルキネン選手です。

サドフスキー選手は4回転が綺麗にきまり、スピンも華やかな美しいスピンでした。柔らかさ、繊細さにいつもうっとりとなります。

カムデン選手も4回転やトリプルアクセルが見事でした。途中の曲の盛り上がり部分にダイナミックな動きがはまり、余韻を残してくれました。

個人的には、ミハイル・コリヤダ選手が少し、緊張していたように見えました。フリーでいい演技を期待したいです。

 

ああ、本当に今日は眠れそうにありません。明日は明日で、また、みんなでタイムラインをお祭りみたいに盛り上げていければ、今はそんなことを考えています。

惜しみないアンコールを彼らに…グランプリシリーズフランス大会観戦記

 

 

いやはや、ドタバタしています。フィギュアスケートシーズン前半戦。あちこちで試合が行われていて、あちこちで火花が散っています。そう、いつも寒いはずの冬はスケオタシーズンにとっては熱いのだ。毎年のことなのですよ。戦いがヒートアップしていて、誰が王者になるのか読めなくて、推している選手の応援も興奮状態になっていくので、少々疲れてきたりもするのです。しかし、疲れたなんて、言っていられません。選手たちは真剣勝負の真っただ中。フランス大会でも素敵な演技がいっぱい見られました。全員はさすがに追いきれませんが(ごめんなさい)心に留まった瞬間を綴っていきたいと思います。

 

まずは女子。今回印象深かったのは、マライヤ・ベル選手。アメリカのスケーターです。

ショートプログラムはRiver Flows in You。心にしみ込むような静かな旋律に乗って、流れるようなスケーティングを見せてくれました。彼女のスケーティングってまるで、音楽みたい。そう思わせてくれるのは、リズム感がいいからでしょうか。音楽と動きが一体となっていて見ている私たちに爽快感を与えてくれます。フリーは「ハレルヤ」この曲、大好き。割と名プログラムの多い曲です。赤いコスチュームに身を包んだマライヤは成熟した大人の女性の滑りを披露してくれました。ところどころ、回転不足をとられて、惜しかったところもありましたが、全体的に演技をまとめてきて、しっとりとした余韻を残していたと思います。キスアンドクライで、アダム・リッポン選手(この選手も素敵な選手でした)と談笑しているのを見て、納得。天性の音楽を表現する力のあるアダムがコーチならば、音楽表現に秀でていたのもうなずけます。

そして、個人的に今回一押しの女子スケーターは日本の樋口新葉選手。ショートは「Your song」。優しい曲調で優雅に滑り始める樋口選手。アクセルジャンプは残念ながら抜けてしまいましたが、スピード感あふれる滑りが心地よかったです。曲がどんどん盛り上がるごとに動きや表情もダイナミックに演じていきました。この曲の持つ、「愛のテーマ」を彼女なりに感じとっているのだなということが伝わりました。

フリーが度肝を抜かれます。「ライオン・キング」。冒頭のトリプルアクセル、見事!これ以上にないくらい、回転も着氷もきれいな、お手本のようなトリプルアクセルが決まりました。他のジャンプも華が咲いているのかと思わせるほど、綺麗な回転です。躍動感のある曲調が動きとシンクロして、ミュージカルを見ているみたいに気持ちが盛り上がりました。10代の頃から、「天才」と言われていたジャンプ力とスケーティングを持つ樋口選手。天才が努力をするとこのような見事な演技になるのだと、みんなに思われたと思います。個人的に、どうしてあの点数だったのか分かりません。もう少し、高得点が出ても良かったのではないかと思います。でも、今後ますます、彼女の演技が世界で認められていくのは間違いないと確信しました。

アイスダンスで話題だったのはもちろんこの二人。ガブリエラ・パパダキスとギョーム・シゼロン。フランスのアイスダンスカップルにしてアイスダンスの第一人者の二人。リズムダンスは洋楽のナンバーでした。Made to Love by John Legend + You & I by John Legend。個人的にこの二人は世界で最も「洋楽を調べたい気分にさせてくれるアイスダンスカップル」ですね。二人の醸し出すリズムとエネルギーは天下一品。曲の細部を演じ切ることができるのは、卓越した技術力があってこそだと感じさせてくれました。スピードの中で行うツイズル。カーブに乗ったリフト。全てが曲にマッチしていて、気持ちが良かったです。

フリーダンスはガブリエル・フォーレ 「エレジー」。始めから最後までうっとりとさせてくれました。動きが曲に合わせてストップモーションがかかるように見えたり、高速のスピードで早送りに見えたり、自由自在にスピードをコントロールしていたように思えます。二人の醸し出す「愛」は強くて美しい。今回も素敵なダンスで優勝を飾りました。

男子もまた、白熱した展開。佐藤駿選手はSP「四季」では4回転ルッツが3回転になってしまいましたが、そのほかのジャンプは回転が綺麗な素晴らしいジャンプで、スピンもスピードに乗って複雑なポジションから行っていたので、レベル4を取っていました。今回指先まで神経を行き届かせた美しい動きが、曲によく合って優雅に見えたのが素敵だったと思います。そして、「オペラ座の怪人」!すごいものを見ました!4回転ルッツと4回転フリップ。難しいジャンプを次々と綺麗に決めて大歓声。途中、ちょっと推しいミスが重なって、流れが途切れてしまったのかなというところもありましたが、高難度ジャンプを入れた構成で最後まで力強く滑り切ったことは本当にいい経験になったと思います。圧倒的インパクトのオペラ座で2位に入りました。もう、誰も駿くんを止められない。シーズンが進むにつれて、もっとすごいドラマを私たちに見せてくれる気しかしません。

鍵山優真選手。ショートは「君ほほ笑めば」。驚かされたのは、ジャンプに入る前のスピードと降りた後の流れ。そして全体的にやはりすごいスピードで「滑走している」という感じをもたせてくれた滑りですね。滑らかで、粘りのあるスケーティング。リズムに乗って小粋に表現するパートもお洒落。こういうセンスは天性の物かなと、思えました。トリプルアクセル、ちょっと着氷が乱れてしまったのは残念ですが、全体的にあっという間に終わってしまったというくらい、魅せる演技になっていたと思います。フリー「グラディエーター」。前半は言うことなし。何回見ても思うのですが、「このプログラム、ものにしてるな」感が強いです。気に入っているのでしょうか。リズムや旋律に自然に体を預け、呼吸するように演技する。簡単に見えてすごく難しいことを自然体で出来るのは天性のものかと思います。後半にミスが続いてしまったのが惜しかったですが、滑りの滑らかさとエネルギッシュな風を感じるムーブメントなど、良い印象が最後まで続いていました。強い気持ちが持続したからなのかもしれません。今年の世界選手権で銀メダルを取ってから、プレッシャーや重圧と戦わなければいけないことが増えているという印象でした。大変そうだなと感じていますが、めげないで、乗り切っているのを見ていると「メンタルが強いな」と感心してしまいます。シーズン後半も強い気持ちのままで向かっていってほしいと感じました。

 

こうやって、振り返って見ると、フランス大会。多くのドラマがありました。本当はまだまだ素敵なスケーターの演技がたくさんあったのですが、全員ご紹介できないのが残念です。見ていると、改めて、フィギュアスケートは複雑で美しいスポーツだな~と感じました。私は、いつも、一人ひとりの選手の演技から自然に見えてくるものをトレースしている感覚で文章にしています。少しでも、真剣勝負の選手たちから得た感動を伝えることが出来ていれば、と思います。ほんの少し、悲しいスポットライトの中で美しく滑る彼ら。惜しみないアンコールを是非、彼らに。Toreviann!

草太くんが笑った日、佳生くんが泣いた日。

 

 

最近、心に残った試合が二つある。11月18~21日にポーランドワルシャワで行われた、フィギュアスケートワルシャワ杯。そして、11月19~21日に行われた全日本ジュニアフィギュア選手権大会だ。

 

ワルシャワ杯で印象に残った選手は、山本草太選手。現在21歳。何度か怪我を経験しながらも、不屈の闘志で、乗り越えてきたファイターだ。もともと、フィギュアスケートのフラワーボーイとして、生で羽生結弦選手の演技を見て、憧れていた草太くん。動きとジャンプに力強さがあり、繊細な中にも男らしさを常に感じさせてくれるスケーターだ。どちらかというと、おっとりな草太くん。同期の友野一希選手たちと、温泉に行くほどの仲良しぶり。オンライントークでも、温厚な人柄が垣間見えていた。長年の拠点を変え、コーチを変え、今年はチャレンジの年と、オフシーズンにも意欲を見せていたのが印象的だった。今季のSPは、「イエスタデイ」FPは「これからも僕はいるよ」。少し意外な気がしていた。和のテイストや正統派のクラシックなど、シリアスで重厚な感じの曲調に挑むイメージが草太くんにあったからだ。繊細なバラード、情感がテーマの曲調。今年はどこか、柔らかさのある曲がメインテーマの様子。かなりのイメージチェンジに思えた。

音楽がきこえてきた瞬間、草太くんの動きからは、柔らかさとやさしさがにじみ出ていた。リズムに素直に流れるスケーティングはそのままに、ジャンプも美しい形で行いながら、曲の強弱をつけて滑る草太くんはとても素敵だった。「いつの間にか、大人の青年になっていたのだな。繊細なナンバーをスピードの中で演じ切っている。すごく変わった…」いつも控えめな草太くんが見せてくれたエモーショナルな感動。ストイックにスケートに打ち込む中で、更に表現に円熟味を増していたことを最新の試合で感じることができた。演技が終わった瞬間に、いつもの温厚な草太くんに戻っていたけど、私はその成長が、うれしかった。

高得点でワルシャワ杯優勝。草太くんが表彰台の真ん中に。本当にうれしい出来事だった。表彰式の真ん中で、国旗と違う方向を向いて国家を歌ってしまい、3位のロシア代表、グメンニク選手に「ねえねえ、あっち」と、正しい方向を指摘され、照れたように向きを変えたのはご愛敬。でも、長年応援してきたからこそ、分かったのです。草太くんが満面の笑みで、喜びをかみしめていたこと。長年努力していたことが、花開く瞬間を見せて貰えて感謝の気持ちでいっぱいだった。

一方、全日本ジュニアのSP、ショックなことが待っていた。優勝候補。16歳の若武者、三浦佳生選手。なんと、トリプルアクセルのジャンプが、リンクの穴にはまり、1回転になってしまうという、痛恨のミスを犯してしまったのだ。自分でも、ショックで呆然としたのだろうか。最後のスピンでも、精彩を欠いてしまって、得点は伸びず。「何が起きたのか分からない」と試合後、口にした佳生くん。ファンには、応援することしかできないのが辛かった。だが、迎えた後日のFP、佳生くんはドラマを見せてくれた。FPはフラメンコ調のプログラム、ポエタ。冒頭のジャンプから、踏切がクリーンで、降りた後も流れの途切れない美しいジャンプを連続で決めていく。SPでは硬さも見られていた動き。しかし、曲の盛り上がりと共に、動きがダイナミックになり、佳生くんの華のあるスケーティングが冴え渡った。最後まで強気な気持ちが途切れずに、カッコよさと気持ちのいい風が吹き抜けるようなまぶしさが、リンクに残った。演技を終えて、帰ってくる佳生くんはガッツボーズ。途中、転倒もあったが、佳生くんのいいところが随所に見える演技内容だった。点数が出てびっくり、圧倒的高得点で、一気にトップに躍り出る。その瞬間、佳生くんは泣いた。今まで、見せたことのないような幼い表情で泣きじゃくった。もともと、佳生くんは、気が強い子だった。早くから頭角を現していた新人で、「(シニアの)お兄さんたちが4回転飛ばないから、僕、飛んじゃいます」と、かなり大胆不敵な発言もしちゃうくらい、向こうっ気が強いところも魅力的な選手だった。佳生くんの涙を見たとき、彼がまだ、あどけない16歳の少年で、それでも、ここ一番、大事な勝負の大きな壁に必死で戦い続けてきていることを、改めて感じることができた。きっと、いろいろなものを賭けて、いろいろなものを背負って試合の場所に立ち続けている。過酷な戦いにこれからも挑み続けていく、佳生くんのストーリーを、これからも見つめ続けていきたいと思った。

 

時々、フィギュアスケートは悲しい。悲しみを背負って去っていく人は、この競技においてあまりにも多い。ある時期、私はフィギュアスケートに絶望し、もう、フィギュアスケートを見なくてもいいかもしれないと思ったことがあった。

それを変えてくれたのは、他でもない、羽生結弦選手だった。彼のピュアな魂は、この何年間か、フィギュアスケートに一筋の光を照らし続けて来た。私はその一筋の光に導かれて、くじけそうになった心を奮い立たせて、フィギュアスケートを応援してきた。

 

そして、羽生くんが歩んでくれている、その一筋の光の道に草太くんも、佳生くんも、泣いたり、笑ったりしながら続いている。後に続く彼らも成長しながら、光の道を絶やさずにいてくれるだろうか。

 

私は、この先も見つめていたい。スケートを通して彼らの人生に触れてきている気がする。これからも悲しくて素晴らしいフィギュアスケートの世界を、一人一人、私なりに応援しながら、見届けられたらいいな、って思っている。

君たちのストーリー フィギュアスケートNHK杯観戦記

 

 

フィギュアスケートグランプリシリーズも中盤戦。今回は、残念ながら羽生結弦選手、紀平梨花選手、アレクサンドラ・トゥルソワ選手と、棄権が続出。どうなることかと、思いました。私自身、ホルモンバランスの関係か、少し体調を崩し、うまく観戦がままならない状態でした。

そんなわけで、心にヒットした演技をいつもより少なめではありますが、綴っていきたいと思います。

 

まず、今回、SP、FP共に印象に残った選手は、河辺愛菜選手。ショートプログラムで綺麗なトリプルアクセルを披露したほか、大胆で果敢に攻めていく強気な気持ちを演技から感じることが出来ました。昨年までと比べると、ぐっと大人っぽさが増して、演技力の面でも惹きこまれるものがありました。

 

松生理乃選手も新人らしい、初々しさで、リンクに爽やかな風を運んできていました。NHK杯、緊張もしたと思うけど、お客さんの前で思いっきり、自分の演技を披露できたことは、彼女の競技生活につながっていくと思います。

 

そして、坂本花織選手。SP、FP共に圧巻。もはや坂本選手は、自分の今季のストーリーを仕上げにかかっているのではないかくらいの完成度です。彼女から感じられるパワフルな中にある、女性らしさ。曲の盛り上がりと共に、大人の女性、「坂本花織」の人生を共に目撃しているかのように感じます。このまま、シーズン中、安定した演技が見られることを期待しています。

 

ペアでは、りくりゅうがまた素晴らしい成功を見せてくれました。。ロシア勢に続いて、3位に入りました。解説の元パートナー、高橋成美さんもおっしゃっていましたが、二人の絆が形になり、どんなに難しいエレメンツも安定していましたね。やはりお互い信頼関係があると、近づいたり、離れたり、ムーブメントに一体感が生まれます。日本人同士のペアとして、久しぶりの快挙を成し遂げた二人はこれから、もっともっと、世界で活躍していくことでしょう。

 

アイスダンス、小松原夫妻の「SAYURI」は、とても美しかった。彼女たちが、様々な葛藤の中でお互いよりそい形作った「和」の世界。リフトの時に祈りをささげるようなポーズの小松原美里さん。そこには動と静、相反するものがまじりあった世界観がありました。彼女たちの今季の戦いは、大変ハードなものになると思います。けれども、私は、彼女たちにしかできない唯一無二の「和」の世界を、これからもずっと応援していきたいなっておもいました。

男子はもう、SPもFPも、大混戦。誰が勝ってもおかしくないほどのレベルの高さでした。

三浦佳生選手も、山本草太選手も、ジャンプを決めるごとに自分の色を会場に放出していて、新鮮な感動を会場に届けてくれました。

頭一つ抜き出たのは、韓国のチャ・ジュンファン選手。FP、冒頭ミスがありながらも、演技が進むにつれて、ジャンプが安定し、ジャンプとジャンプの間がとてもなめらかなつなぎで、最初のミスを忘れてしまうくらいの熱演でした。何か、ミスをしても、次で立て直そう、というイメージトレーニングが日ごろからできているのでしょうか。リカバリー能力に秀でているのは非常に強みです。

 

2位に踏みとどまったのは、我らがヴィンス。アメリカのヴィンセント・ジョウ選手。いくつかジャンプにミスはありましたが、今季、ここまで、猛練習を積んできました。そのことは、ミスをしても引きずらないでジャンプをまとめられることにつながったのかもしれません。本当に緊張していたと思います。アメリカ大会での演技の後、「こんなに仕上がっていたら、この先持つのかな?」と心配になっていました。今回、少し、ミスがあったことによって、また更にファイナルやナショナルに向けて、課題がみつかって、仕切り直しができるチャンスにつながったかもしれない、という気がします。グランプルファイナル出場も決め、まずは一安心。また更にレベルアップしたヴィンスのストーリーを心待ちにしています。

 

1位の宇野昌磨選手。プレッシャーのかかる試合でも、良い練習を積めていたのでしょうか。余裕を感じましたね。ジャンプの踏切りなど、技術的にもしかしたら、指摘されちゃう部分もあるかもしれませんが、羽生選手から「所作が美しい」とコメントがあった部分は、更に研ぎ澄まされていたと思います。今季は、今まで以上に音楽を感じて、自然に解釈できて、演じているように思えます。それにしても、エキシビションナンバーがマイケル・ジャクソンプロって意外でしたね~。でも、本人ノリノリで滑っているから、気に入っているのかもしれませんよね。ステファンのプレゼン力の高さに改めて感心してしまいます。

 

グランプリシリーズの中盤戦、選手一人ひとりから、ストーリーを感じられる時期に入ってきました。物語は、オリンピック、そして世界選手権で佳境を迎えるでしょう。冬から春までの長いようであっという間の時間、私たち一人一人が目撃者であり傍観者。存分に冬の祭典を盛り上げていきたいと思います。