絆を感じさせるカップル Team koko

今年の3月、コロナ禍の中で行われた世界フィギュア。様々なドラマがありました。その中でも、日本のアイスダンス代表として出場し、北京オリンピックの枠を見事に獲得した、小松原美里・小松原尊(ティム・コレト)組の活躍は、私に大きな感動をもたらしてくれました。

 

私生活でも夫婦の二人、リフトも、ツイズルも息がぴったり。そして、エキサイティングなプログラムもしっとりしたプログラムも、自在に演じ分けながら、品を感じさせる二人は、結成からすぐに日本のアイスダンサーとして、頭角を現し始めます。

 

Team kokoは小松原さんとコレトさんの頭文字をとって、呼ばれている二人の愛称です。

私が、この二人の演技に惹かれ始めたのは、2018―2019シーズンのこと。

二人の演技を初めて見た印象は、「とても、奥ゆかしくて、優雅なカップルだなあ」でした。

印象的なプログラムはエキシビションナンバー、「君の名は」。日本語の歌詞で滑るプログラムは、とても斬新でしたが、歌詞の内容が、二人の絆を感じさせ、二人は、映画の中の主人公そのままに、幻想的な愛の物語を滑り切りました。

 

カップル結成から、現在まで、決して平坦な道のりではなかったと思います。夫のティム・コレトさんは、日本代表として、オリンピックを目指すために日本国籍を取得。日本語も夫婦で勉強されていました。年々、インタビューでの日本語が、自然になっていくごとに、日本という国を選んで、「日本代表」として、努力を積み重ねていたことが、感じられ、ますます、応援したいな、という気持ちが深まっていきました。

2019―2020シーズン、夏の練習中に、美里さんが脳震盪などで、危険な状態になり、シーズンの試合を欠場しながら、必死でリハビリに励むことになった時は、本当に心配になりました。しかし、その年の全日本。フリープログラム「ロード・オブ・ザ・ダンス」で、二人は、ケガのブランクを感じさせない見事な演技を披露してくれました。アイリッシュ調の曲に乗って進む、軽やかなステップ、息の合った、ツイズル。これまでのエレガントな持ち味はそのままに、二人の演技に、雄大さ、力強さが加わっていて、完全復活の演技でした。「一人だったら、引退していた」当時、そう美里さんはおっしゃっていたそうです。

そばで支えてくれた、夫、コレトさんの存在と、美里さんの努力で、再び、氷の世界に戻ってきてくれたこと、最高の演技を見せてくれたこと、二人の絆は、本当に素晴らしいと思います。

 2020-2021シーズン、二人の演技はさらに安定感を増していきました。二人は、日本代表として、自信に満ち溢れ、試合を重ねるたびに、貫禄と風格を感じ、世界選手権に向けて、とてもよく仕上がっているように思えました。

そして、迎えた世界選手権。二人は、ショートダンス「ドリーム・ガールズ」、明るい曲調で、楽しくのびのび演じきり、フリーへ進出することができたのです。

2018-2019シーズンは、あとわずかな点差でフリー進出がかなわず、終わってから涙していたという二人。様々なことを乗り越えて、見事リベンジを果たした日本のアイスダンス界のエース。私は、地道な努力が実を結ぶことを、二人は演技で教えてくれたと思いました。

フリーを終えて最終順位は、19位。22年北京オリンピックの代表枠「1」を獲得。とても素晴らしい結果でした。

この結果は、二人にとっての新たなスタートだと思います。困難な時代の中、夢をあきらめないで、挑み続けてきている二人が、北京オリンピックで更に輝けることを、私は、とても期待しています。

一瞬の間の永遠 John Coughlinのこと

 

 

2010年にそのペアスケーターが滑ったフリープログラム。アヴェマリアを私は、永遠に忘れることはないだろう。もう、どこにもいない、彼の名プログラム。

 

彼の名はジョン・コフリン。アメリカのコロラドスプリングスで活躍していたペアスケーターです。彼を偶然、認識したのは、当時、応援していたアメリカのスケーターたちが、彼の名前をよく話題にしていたからでした。

後輩の面倒見がよく、優しくて、みんなから好かれていたジョンは、ツイッターでは、割と現実主義者でした。「僕は誰も愛さない。だから、誰も僕を愛さない」

「長生きしたいと思わない」そんなことを頻繁につぶやく彼。

あまり、人生について、冷めたツイートをする彼に興味を覚えるのに、大して時間はかかりませんでした。私も当時、人生に対して、冷めた気持ちをもっていたからかもしれません。

そんな彼の伝説的なプログラムは2つあります。

一つは、冒頭で述べた、2010-2011シーズンの「アヴェ・マリア」。実は、当時、ジョンはお母さまを亡くされていて、このプログラムは、母に捧げるために作られた、と当時語っていました。

このプログラムは、ジャンプもスピンも、ステップも、一切、無駄な力が入っているようには、感じられないほど、彼らの体に馴染んでいるようでした。リフトで、白いコスチュームを着て、高く上げられる当時のパートナー、ケイトリン・ヤンコフスカは、まるで、空中を飛ぶ天使のようで、視線の先、指先に、失った人への思いを宿しているかのような滑りに、ただ、うっとりと、こみ上げてくるものを抑えられずにいました。

 

もう一つ、忘れることができないプログラムは、新しくパートナーを組んだ、ケイディ・デニーと、2011-2012シーズンの国別対抗戦で披露してくれたフリープログラム、「誰も寝てはならぬ」です。実は、当時、私、現地でこのプログラムを鑑賞していました。

まだ、試合が始まる前から、バックヤードらしきところで、リフトの練習をしているジョンと、ケイディが、客席から見えたとき、二人はとても嬉しそうで、日本で演技ができることを喜んでいるように見えました。

演技が始まって、二人の動きから、喜びが紡ぎだされていくのが、空気を通して伝わってきました。この二人のリフトやスローイングは、ロシアや中国のペアのような難易度はありませんでした。しかし、プログラムを通して、オーソドックスな動きの組み合わせから、二人にしか表現できないドラマが伝わってきて、どのリフトも、女性のことを美しく魅せることのできるジョンの優しさを、とても好ましく思いました。終わった瞬間、会場はスタンディングオーベーション。みんなが二人の演技を気に入ったんだということは、歓声からも感じることが出来ました。

ジョンは、現役を引退した後は、全米のコメンテーターを引き受けたり、連盟の仕事を担当していることが多く、スケート界のために地道に頑張る彼を、陰ながら応援していました。

 

悲報は、急に飛び込んできました。ジョンが33歳の若さで命を絶ってしまったこと。最初、とても信じられませんでした。

彼の死の直後に、彼が訴えられていたこと。そのことで調査中の間に死を選んでしまったことを知りました。

正直、今でも、受け止めることはできていません。彼が償うべきだった罪。どれだけ時間がかかっても明らかになることのない真相。彼を非難する声があることも、仕方のないことだと思っています。

けれど、もう、ジョンがこの世に存在していないこと。彼のスケートを見ることはもうできないのだという事実は、私を悲しくさせました。

ジョン、あなたと人生で触れ合えたのは、あの国別対抗戦の一瞬だったね。あの一瞬は、私の人生に特別な時間をもたらしてくれたよ。そのことだけは、私にとっての真実。

 

もう、Youtubeで見つからないかもしれないけど、ジョンは、歌がとても上手くて、ある歌手の歌をカバーしてアップしていたことがあります。彼のお気に入りの曲は、Timbaland gが歌う。「Apologize」。この曲を聞くたびに、「ジョンが存在していた」と感じて、罪深さと同時に、様々な瞬間を思い出します。

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私のSpotifyのプレイリスト「Love history」に追加したことを決して後悔はしていません。

 

※一応、Twitterでもプレイリストを固定ツイにて紹介しています

ya-koさん (@colorfulwoman87) / Twitter

 

 

~Love history~素晴らしきスケーターの軌跡

音楽とフィギュアスケートをこよなく愛する私は、Spotifyでお気に入りのプレイリストを作成しています。 その名も「Love history」。今回は、そのプレイリストの中から、私がインスパイアされた曲と、スケーターについて、ご紹介したいと思います。

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今から、10年以上も前のこと、私は、ふとしたことで、ある魅力的なスケーターに心惹かれました。そのスケーターの名は、Drew Meekins。コロラドを拠点としている、元ペアスケーターで、現在は、コーチ兼振付をされている方です。

 当時、私がよく覗いていたコミュニティで、「個性的なスケーターがいる」と、度々、彼の名前が話題になっていたことがありました。「どんなスケーターなんだろう?」そう思った私は、さっそく彼のSNSをチェックすることに。当時、彼は、パートナー解消したばかりで、シングルを目指すか、もう一度、ペアスケーターとして、活動するのか、揺れていた時期だったようで、人生に悩んでいるようなツイートをよく目にしました。Twitterには、お友達のことや、お料理のこと、ファンとの交流についてがメインでしたが、当時、「Ice Network」という媒体で、文章を書いていた彼は、とても、言葉のセンスがあり、何気ないことも、すごく詩的につぶやくことが多く、「この人の言葉には、表現力があるなあ」と、次第に興味を覚えていきました。

 そんな時、彼は、お友達が振り付けてくれた短いプログラムをYoutubeにアップします。曲名は、イモージェン・ヒープの「Hide and Seek」。

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 闇にさらわれていってしまいそうな儚げなボーカル。難しいジャンプはないけれども、最初から、最後まで、Drewの周りに色のついた風が吹き抜けていくのを感じました。切ないけれど、温かい。ダークだけれども、とてもエレガント。男性にしては、高く上がるスパイラルも効果的に、彼の持ち味が存分に発揮されているプログラムです。私は、いまでも、時々、このプログラムが見たくなって、検索してしまうくらい、このプログラムが大好きです。おそらく、パートナーがいない中で、彼は一生懸命、練習していたのだと思います。「あきらめない祈り」のようなものが、最後まで感じられて、私は、ますます、彼を応援したくなりました。

 

そんな彼が、若いフィギュアスケーター達のキャンプの手伝いをすることになったのは、2014年のこと、広い体育館で、陸上のダンスレッスンで、彼が振り付けたグループ演技が、Youtubeにアップされました。それが、セリーヌ・ディオン featuring Ne-yoの「Incredible」。

 

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「Incredible」には信じられないほど素晴らしいという意味があります。このプログラムを踊ったスケーター達は、これから、未来に向かって羽ばたこうとする可能性のある子たち。歌詞の中に「We were Incredible. Simply Incredible」というフレーズがあり、一人一人の将来を思って、作られたことが伝わってくる優しい作品。きっと、これを踊った子たちは幸せだっただろうな、そして、そういう若い子たちの可能性に携わる仕事をDrewは選んだんだな。そう思った私は、とても、感慨深い気持ちになりました。このダンスプログラムは、彼らにとっても、Drewにとっても、スタート地点になったかもしれません。

 

更に、2014年、Drewはあるスケーターにバラードナンバーを振り付けています。それが、ジョン・レジェンドの「All of me」。

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このころになると、彼は、自分で滑るというよりも、誰かに振付を提供するアシスト側に回っていることが伺えました。ソウルフルに愛を歌い上げるこのバラードナンバー。一時期、どこでもかかっていましたよね。このスケーターさんは、このプログラムを本当に好きなんだな、というのが、最初から最後まで伝わってきました。ほとばしる情念が、とてもドラマティックで、ロマンティック。このプログラムはスケートで「愛」を表現していたと思います。

 

Drewは、この後、アメリカの若手スケーターヴィンセント・ジョウの振付を手掛け、その振付で、ヴィンセントは世界ジュニアを制しました。

 

そして、今回行われた世界選手権。女子シングル4位に入ったカレン・チェンのショートプログラムもDrewは振付けているのです。

 

彼は、現役時代は、世界ジュニア1位の後、パートナー解消等もあって、葛藤を抱えた時期もあったかもしれません。でも、こうやって、今、現役の選手のいいところを伸ばし、一気に飛躍するプログラムを手掛ける名アシストとして、あらたな伝説を作っている。そのことを私は、本当にうれしく思っています。

 

彼が、当時抱えていた、葛藤。スケート愛。人生への思い。そういったものを長年応援して、見守り続けた私は、プレイリストに彼が当時使っていた曲や、彼にとって、思い入れのあった曲などを次々に追加して、「Love history」を作成しました。今も、コロラドで、スケートに打ち込む彼のことをプレイリストを聞きながら、思い出してしまう私です。

 

Jojiアルバム「Nectar」に感じた「旅」について

 

 

話題作「Ballads 1」のリリースから、2年間の沈黙を経て、Jojiの2作目フルアルバムとなる「Nectar」が2020年9月25日にリリースされました。コロナ禍の中でのアルバム発売は、私たち、ファンにとって、当時とてもうれしいニュースでした。

 冒頭の曲「Ew」から最後の曲「Your man」まで、心を捕まれ、一気に聞き入ってしまった私。ずっと聞いているうちに「このアルバムには、明確なテーマがある」と、感じるようになりました。

 大きなテーマとしては「宇宙」と「旅」。このアルバムの曲は、MVや、歌詞から、この2つのテーマを感じることが多かったような気がします。

一番最初にテーマの一つ、「宇宙」を感じるきっかけになった曲が、アルバム先行シングル第一弾の「Sanctuary」。このMVは、宇宙船を舞台に、Jojiと乗組員たちとの友情や不穏な葛藤が色濃く感じられる作品となっています。歌詞に注目すると、Jojiが自分の存在をどの部分に置いているのかが、気になる描写が出てきました。

 

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If you’ve been waitin’ for fallin’ love

Babe, you don’t have to wait on me.

‘ Cause I’ve been aimin for Heaven above.

But an angel ain’t what I need.

 

(恋に落ちるのを待ち続けているなら)

(Babe, 俺を待つ必要なんてない)

(だって、俺の狙いは天国の更に上の方)

(だけど、必要なのは天使じゃないんだ)

 

この部分、Jojiの伸びやかなボーカルで切なく聞こえるパートですが、天国の上を目指すJoji。そして、天使を求めているわけではない、という、そこはかとなく感じる孤独感。宇宙船で、広い宇宙を飛び続けるエンディングと相まって、何かを壮大なスケールで探し続けているJojiを感じました。

 

そして、第二弾シングルの「Run」。このMVは、巨大リムジンのパーティーから抜け出そうと走り続けるJoji。そしてラストに待っている宇宙船のエンディング。更に、歌詞にも

「宇宙」と「旅」が出てきます。

 

 

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You bathe in your victory.

You blew out on my fuse.

And if I took on the planet.

Will I pay my dues?

Your love was a mystery.

Yeah, my love is a fool.

And I traveled the country.

Just to get to you.

(君は君の勝利に浸ってるね)

(君は僕の導火線を吹き飛ばした)

(例えば、僕が惑星にたどりついたら)

(僕は自分の責任を果たせるのか?)

(君の愛はミステリーだった。)

(そう、僕の愛はばかげたものだったよ)

(そして、僕は国中を旅するんだ)

(ただ君にたどり着くために)

 

この歌に出てくる「君」は、歌の主人公の元恋人という、受け止め方もできるし、これから出会う、自分を理解してくれる人、という受け止め方もできる気がします。求めても得ることのできない愛への渇望を感じる、切ない曲です。プロモーションのラスト、宇宙船の中で、思い出の写真と鍵を投げ捨てるシーンは、とても、象徴的でした。過去を捨て、壮大な旅を続けるJojiという印象を強く残していたように見えました。

 

更に、宇宙がテーマになっているMVが、とても、キャッチーなメロディーが印象的な「Gimmie Love」。

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宇宙船開発に携わる乗組員を演じるJoji。大きなプロジェクトに取り組む主人公の進化や、葛藤が前半のテーマ。後半、宇宙船にみんなの静止を振り切って乗り込んだ主人公。静かに墜落を思わせるラストのカット。まるで、打ち上げ花火のように派手に光り、はかなく散ってゆく人生を前半と後半で異なるメロディーに乗せて鮮やかに表現しています。

 

更に宇宙船と宇宙人が登場するMVは、アルバムの最後の曲、「Your man」。

 

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惑星にたどり着いた宇宙船から出てくる宇宙人。あらゆる場所をさ迷い歩き、誰かを、何かを探している。でも、最後まで孤独なまま、ありとあらゆる宇宙船が降りてきそうな空を見つめている。

 

Nectarに込められている、テーマ「宇宙」と「旅」。このアルバムは壮大なファンタジーとして、初めから終わりまで、つながって物語を構成していると私は感じました。「国という国を旅して、宇宙船で、惑星にたどり着いても、自分を愛してくれる人や、自分を理解してくれる人は現れないんじゃないか。自分は、まるで、違う惑星にいる宇宙人のようだ。」という強いメッセージがこのアルバムから感じられます。

通常、リアリティーを伴ったファンタジーを作り上げることって、とても難しいというイメージを私は持っていました。どうしても、現代の生活のことではない以上、作り手のイマジネーションによって、表現する部分が多くなる分野だと思うのです。しかし、Jojiのアルバムに表現されるファンタジーの世界は、非常にリアリティーがあり、彼が、常に抱えているであろう「闇」をより身近に感じさせてくれました。やっぱり、Jojiさんは天才なのだと思います。そして、私はこうも思うのです。「闇も、極めれば、光になるんだ」と。

「Nectar」は、アルバム全体がこうした、暗さの中にも達観した悟りの境地を、一つの物語として、私たちに届けてくれているように感じます。辛いことがあった時、何かを始める起爆剤を欲している時、いろいろなシチュエーションに、Jojiの「Nectar」を多くに人に聞いてほしいな、って感じています。

思いやりのFix you ~三浦璃来・木原龍一ペアについて~

ショートプログラムの演技が終わった瞬間、彼女は彼に向かって、「明日も頑張ろうね!」と言いました。とても優しく、言われた方がほっとするような言葉を、彼女は、年上のパートナーに自然に語りかけたのです。

 今日、ご紹介するのは、フィギュアスケート ペア競技日本代表の、三浦璃来・木原龍一ペアです。この二人、まだペアを組んで一年とちょっとですが、二人がペアを組むようになるまでには、様々な道のりがありました。

 木原龍一くんは、もともと、男子シングルのスケーターでした。男子シングルとしては、大柄な方だった木原くん。シングル時代は、トリプルルッツ等、高難度のジャンプを軽々と決めてしまうジャンプの安定感、一歩一歩がよく伸びるスケーティング、たくましさの中に感じられる優雅さが特徴的なスケーターでした。その木原くんが、当時世界選手権銅メダリストだった、高橋成美選手とペアを組んだのは、2012-2013シーズンのこと。シングルスケーターが、ペアスケーターに転向することは、アメリカなどでは、割とよくあることでしたが、大抵は、ジュニア時代等、若い時期が多く、シニア時代から、ペアへの転向は、大きなチャレンジだったと思います。シングル時代にはない、リフトやスロージャンプ等、一つ一つの技術の習得に加え、お互いの呼吸を合わせての練習、体づくりのための食事、土台から、家を作るような地道な道のりは、一試合、一試合ごとの木原くんの演技を見ていて、いかに大変だったかが感じられ、応援に熱が入りました。木原くんのすごいところは、自身の持ち味である伸びやかさを失うことなく、パートナーの魅力に寄り添おうとするところだと思います。2013―2014シーズンのショートプログラム、「サムソンとデリラ」を滑った時、「二人の呼吸が合ってきている」と感じ、わくわくしました。踊り心のある高橋選手のスケーティングを生かしながら、持ち味の伸びやかなスケーティングを披露してくれた木原くん。お互いに寄り添いあう姿がプログラムを一つの物語に感じさせてくれる。とても速い速度で、ペアスケーターとして、成長していく木原くんに感動しました。

 その後、高橋選手とペアを解消し、須崎美羽選手とペア競技を継続していく中でも、木原くんは独特の表現力を発揮していきます。2017―2018シーズン。オリンピックの舞台で披露した「ユーリon Ice」。二人は快活に楽しそうに最後まで演じ切りました。更に高く遠くに距離を伸ばしたスローイング、更に難しい組み合わせで行うリフト。随所にペアとして進化し続ける、日本のペアスケーターの姿を、とても誇らしく思っていたのをよく覚えています。

 須崎選手とのペア解消後、木原くんと新たなペアを結成したパートナーは、三浦璃来選手。もともとは別のパートナー市橋翔哉選手と「りくしょー」の愛称で親しまれていたペアスケーターです。まだ若い彼女の持ち味は、とても勇敢なところ。リフトなど、危険が伴う技の時でも、相手を信頼しているのが伝わってきますし、臆することなく技に挑む姿はアグレッシブで、すがすがしいスケーターです。二人のデビュー戦を見たときは、こんな風に思いました。

 「まるで、何年間も、一緒に滑ってきているみたいな一体感。まだペアを組んでから、まだ日が浅いはずなのに、なぜだろう」

難しい入りと出のリフト。重さを感じさせないデススパイラル。ペアを組んで、すぐの演技なのに、二人は、難しいことを難しいと感じさせずに、簡単に自然に行っているかのように滑りぬけていく。あっという間に演技が終わる。何よりも、二人の作り出す空気は、とても健康的で温かいものを感じさせてくれました。演技が終わっても、心が温かくなるような感動が、リンクにずっと残りました。

 そして、フリープログラムは、Cold Playの「Fix You」。これまで、パートナー解消など、大変な道のりを経て、出会った二人が、お互い寄り添いあいながら作り出す絆。歌詞も相まって、二人にしか作り出せない世界だったと思います。このプログラム、しっとりとしたバラードなのに、二人ともすごいスピードなので、曲の盛り上がりが映えて、ドラマティックでした。

 いつでも、璃来ちゃんは、木原くんの目をまっすぐ見つめて、励ましあっている、そういう二人を見ていると、あきらめないで、続けてきたことが、花開く瞬間を見せてもらえるのは、本当にうれしいことだな、と思います。

 コロナ禍の中、世界選手権はスウェーデンで行われます。選手と関係者全員の健康が一番大事ですが、私は、様々な困難をくぐり抜けて、頑張ってきた二人の演技を、世界選手権で見ることができますように。二人の努力が報われますように。と、静かな祈りを捧げています。最大限の努力の果てに、暖かい感動を届けてくれた、二人に、また氷上で会いたいです。

フィギュアスケートとダンスからつながったDaft Punkの世界

2月の後半に、びっくりするような音楽界のニュースが飛び込んできました。なんと、有名な音楽デュオDaft Punkの解散。彼らの音楽は、フィギュアスケートやダンスでも、使用されることが多く、一スケート、ダンスファンの私にとっても、思い入れのあるアーティストの一人でした。

私がDaft Punkを認識したのは、今から数年前、たまたまネットサーフィンで、ダンス動画を検索していた時のことでした。当時、私は、世界的なダンスグループ、kinjazの主力メンバー、Anthony Lee氏のダンスがとても好きで、Anthony氏が振り付けたあるダンス動画にDaft PunkのDoin' it Rightが使われていたのです。

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 近未来的な背景と、無機質な音楽、光と影の調和。すべてがカチッとはまり、心が揺さぶられました。歌詞の中で「Shadows on you break. Out into the night」という部分があるのですが、男性二人で、片方の人が床に横たわり、立って踊る人に呼応するように踊る。「Shadow」を効果的に表現しているのが他のダンスには見られない高度な表現で、歌の世界を立体的に表した、いいパフォーマンスだな、と感嘆してしまいました。夜の刹那的な雰囲気をよく表せる音楽グループなのだな、と強い印象を持ったのです。

 それから、ほどなく、私はフィギュアスケートを通して、Daft Punkにまた、熱狂することになりました。Daft Punkで最高のパフォーマンスを披露してくれたのは、私の大のお気に入り、浪速のフィギュアスケーター友野一希選手です。

 2017―2018シーズンの世界選手権5位に輝いた後、翌年のシーズンエキシビションナンバーに選ばれたのは、Pentatonixが歌う「Daft Punkメドレー」。最初の「One more time」の始まりから、彼はがっちりとファンの心をつかんでしまいました。シルバーの衣装にサングラス、やはり、近未来的で無機質なDaft Punkの音楽の世界を感じさせながら、彼はリンクの上を、まるでパーティー会場に変え、鮮やかにスケートで滑り切ります。一つ一つのリズムを体でとらえ、指先まで神経を行き届かせた、ロボットダンスのテクニック。ボーカルの絶妙なタイミングできめるトリプルアクセル。スポットライトを浴びて滑る友野くんは、「Daft Punk」の光と影の世界を、おしゃれに、華やかに演じてくれました。このプログラムを披露してから、だいぶ時間は経っているけれど、友野くんといえば、Daft Punkのメドレーは外せないくらい、はまりプロになっていると思います。会場で見ていたら、きっと、踊りたくなってしまっただろうな、と思うくらいに、魅力的でした。

 更に、フィギュアスケートで、もう一組、忘れられないプログラムを滑ってくれたアイスダンスカップルがいます。マイア・シブタニアレックス・シブタニ組が滑った、Daft Punkメドレー。兄妹カップルということで、息がぴったりの二人。ダンスで、お互いの動きをシンクロさせながら、常に一定の距離を保ち、しっかりとそろったツイズル、音楽の盛り上がる場面で繰り広げられる、移動しながらのリフト。いやはや、かっこいいの一言。アイスダンスということで、女性を美しく魅せる動きや、リフトが、リズミカルな動きの中に絶妙に組み込まれていて、無機質というよりは、艶のある世界観に仕上げられていました。普段は、清楚で、優雅なイメージのシブタニ達が、こういう、かっこいいはじけたプログラムをすべると、また違った印象になると感じ、二人の表現力の幅の広さを再確認させられました。

 

Daft Punkは、フィギュアスケートやダンス等、肉体表現の分野で、インスピレーションを掻き立てられるアーティストだったのだと思います。かっこよく、ビートが聞いた音楽のほかにも、重厚で優雅なインストゥルメンタルを発表したりと、自由で独創的な発想で音楽を発表し続けていたアーティスト。彼らが解散しても、これから、きっと、新しく彼らの曲を使用するスケーターや、ダンサーは現れると思います。音楽とダンス、フィギュアスケートの融合で、Daft Punkの音楽はこれからも、多くの人の間で聞かれ、人々を熱狂させ続けるでしょう。私も、今回の解散を機に、様々な演技を振り返り、彼らの音楽に触れたいと思います。

雅ちゃんから受け取った花束

 

 

昨日、お気に入りの女子スケーターのインスタラジオを偶然、聞いていました。一人一人のコメントに丁寧に応えてくれる彼女から、スケートに対するまっすぐな思いを感じて、ラジオが終わった後、彼女の演技を見返したくなりました。今日は、彼女のことについて、ブログを書きたいと思います。

そのスケーターの名前は、大庭雅選手。愛知県出身で、中京大卒業後、社会人スケータ-として、頑張っている選手です。

彼女に注目し始めたのは、2010年頃だと思います。4歳から10歳まで器械体操を習っていた彼女は、演技に瞬発力とキレがあり、見ていて、爽快な印象を与えてくれました。氷上で、ただ、滑っているところでさえも、ぱっと光が差すような、華を持っている選手。私も、中学校時代、器械体操部に所属していたので、彼女に親近感を感じて、応援していました。

最初のうちは、雅ちゃんのジャンプとか、スピン等、テクニックに注目していた私。けれど、シーズンを重ねて彼女の演技を見ていくうちに、「彼女は、どこか、ストーリーを感じさせてくれる選手だな」と、思うようになりました。

演技の始まりから、彼女の表情はスイッチが入ったみたいによく変わります。そのプログラムの登場人物に入り込み、難しいジャンプを飛びながら、最後まで、演技の起承転結を演じ切る、言うだけなら簡単ですが、それは、とても難しいことで、誰もができることではありません。雅ちゃんには、最初のころから、イメージをスケートで伝えられる、天性のセンスが感じられました。

2014-2015シーズンの「レスフィーナ」は、元気な雅ちゃん、というよりも、しっとりとした大人の女性のイメージを私に残してくれました。2016-2017シーズン、安藤美姫さんの振付の「ミッション」では、光と影、そして、静かに祈りをささげているイメージが、私の心の中に入り込んで、演技が終わった後も、心地よい余韻が残り続けていたのを覚えています。

 2018-2019シーズンの「エデンの東」、社会人となっていた雅ちゃん。サポートしてくれる企業を探しながら、練習も頑張って、大変なシーズン。社会人として、スケートを続けることは、とても大変なチャレンジだったと思います。様々な経験を乗り越え、全日本で披露してくれた演技には、空高く飛んでいく鳥のような解放感を感じ、心が熱くなりました。

雅ちゃんの演技は、年齢を重ねるごとに、成熟し、深みを増していっているように思えます。私が特に感動した演技は、2019-2020シーズン、中部選手権大会のタイタニックです。

雅ちゃんから、「最後まで決してあきらめない」そういう気迫を感じました。のびやかな体の動かし方、正しい軸の取り方で行うスパイラルやスピン、ジャンプが決まっていくごとに顔がほころび、演技に花が咲く。雅ちゃんのこれまでやってきたことが、全て、形になっていて、それは、大人の女性として頑張ってきた雅ちゃんにしかできない演技でした。雅ちゃんは、この中部選手権大会、ショートプログラム13位から、フリーで3位、総合で3位になりました。

2020年はコロナのシーズン。私たちは、不安の中にいました。予定されていた試合も、アイスショーもキャンセルが続き、正直、私自身、フィギュアスケートを見たいという気持ちが薄れかけていた時期があります。

そんな時、ビバスクエア京都が主催する屋外のクリスマスアイスショーに、雅ちゃんがゲスト出演するということが決まり、アイスショーで披露された演技を配信で見て、私の心の中に暖かいものが広がっていきました。

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演目は、「Send In The Clowns」と「Luv Letter」。スケートの一歩一歩が丁寧に、よく伸びていて、表情もいきいきとして、風が吹いて寒そうな外のリンクで、彼女は気持ちがよさそうに、真心たっぷりに舞いました。スケーター一人一人、思うように練習ができなくて大変だっただろうに、彼女の演技からは深い祈りと、スケートを滑れる喜びに満ち溢れていました。「雅ちゃんの演技を見ていると、幸せな気持ちになる」私はそう感じて、なんだか、スケートで花束を受け取ったような気持ちになりました。

雅ちゃんのこれからのシーズン、これからも、たくさんのチャレンジと、課題が待ち受けていると思います。けれども、私は、なるべく長く、雅ちゃんの滑っている姿を見ていたい。

雅ちゃんは、いつも華やかなスケートで、私たちに、花束を渡してくれているから。私も、いつか、コロナが収束したら、とびっきりの花束を持って、会場で、雅ちゃんの演技に声援を送りたい、と思っています。